最終話 日雇い提督の終わりと始まり ①
この日伏龍の士官候補生達は誰もが焦慮に駆られ、彼らが帰属する地球統合軍の不甲斐なさに切歯扼腕していた。
変幻自在の機動力を誇る敵無人機の前に苦戦を強いられながらも、決して諦めずに奮戦を続ける銀河連邦軍艦隊。
にも拘わらず、本来太陽系の守護者であるべき地球統合軍艦隊は、同盟軍を援護もせずに基地に引き込もって傍観するという為体を満天下に晒したのだから、彼らが憤ったのも当然だろう。
「あの場で戦うべきは何処の軍隊だよ? 自分の庭に強盗が入って来ているのに、見て見ぬ振りするのが国軍の姿なのかよッ!?」
憤怒の形相でそう吐き捨てたヨハンの想いは、大食堂に集っている候補生全員が懐いている憤懣に他ならない。
この騒乱を引き起こした人物が大統領だったという事実は、軍やその指導者らにとって不幸だったし、同情して余りある点はあるだろう。
しかし、彼の甘言に乗せられてクーデター紛いの騒乱を起こし、肝心な時に軍を機能不全に陥れた士官、下士官達がかなりの数存在したという事実は、少尉任官を目指している候補生達を落胆させるのに充分だった。
だからこそ、そんな鬱屈した想いを一掃する逆転劇を目の当りにした彼らが感情を爆発させ、大食堂が興奮の坩堝と化したのは当然の帰結だったのかもしれない。
「本当に良かったぁ……もうっ、いつもハラハラさせるんだから……階級を偽っていた件も含めて、絶対に何か御馳走して貰わなきゃ納得出来ないわ!」
溢れる涙を拭いながら憎まれ口を叩くが、詩織の顔には笑みが浮かんでいる。
彼女は極度の緊張から解放され、漸く周囲を窺う余裕を取り戻していた。
クレアや志保の表情にも安堵の色が濃く滲み出ているし、歓喜を抑えられないのか、ヨハンは神鷹を抱き締めて盛大に振り回している。
しかし、そこには蓮の姿だけが見当たらず、詩織は慌てて周囲を見廻し幼馴染の姿を捜した。
すると、大きく波打つ人垣の向こうに彼の姿を見つけたのだが、そのまま足早に大食堂を出て行ってしまったのだ。
最近覇気のない蓮を心配していただけに、詩織は慌てて歓喜に燥ぐ仲間達を掻き分けて後を追った。
本校舎へと通じる渡り廊下に出た所で、中庭の石碑に額を押し付けて立ち尽くす幼馴染の姿を見つけた詩織は、安堵して声を掛けようとしたのだが、蓮の様子見て息を呑んでしまう。
握り締めた右手を思いっきり石碑に叩きつけた蓮は、胸中の葛藤を滲ませた声で苦しそうに呻いたのだ。
「ちっくしょうっ! どうして……こんな所で俺は何をやっているんだッ」
その血を吐く様な無念の想いに触れ、詩織は思わず足を止めてしまう。
(……蓮……あなた……)
幼馴染が思い悩んでいる理由に気付いた彼女は、表情を曇らせるしかなかった。
それは余りにも突飛な考えだったが、思い込みが激しい蓮ならば充分に有り得る選択だと妙に納得してしまう。
その事に思い至り焦燥に駆られた彼女は、喉まで出掛かった声を呑み込むしかなかった。
蓮の背に向けて伸ばした右手が、その背に永久に届かないのでは……そんな空虚な未来が脳裏を過ぎる。
寒々しい不安に駆られ身体が震えるのを抑えられない詩織は、その場に立ち尽くすのだった。
◇◆◇◆◇
(ふぅ。何とか持ち堪えられた……お父様のお役に立てて良かったわ)
安堵の吐息を漏らしたユリアは、気怠い身体をソファーに委ねる。
能力を行使している間はずっと痩せ我慢をしていたが、今回のように離れた場所に思念を送る行為は、下手をすれば精神力を消耗し、命さえ落としかねない危険で無謀な行為に他ならない。
それでも、彼女にとって達也を護るというのは何よりも大切な使命であり、易々と諦めるなど出来なかったのだ。
(最後まで私の身体を案じてくれて……そして私の言葉を信じてくれた。お父様は私の嘘に気付いていらっしゃったわね……お帰りになったら叱られてしまうかも)
本気で叱責されはしないと分かっている。
困った顔をしながらも娘の身を案じる不器用な父親を想像すれば、ユリアの顔も自然と綻ぶ。
だが、その安寧は、抱き着いて来た妹によって中断を余儀なくされてしまう。
「ユリアお姉ちゃんッ! すごかったよぉ~~カッコよかったぁッ!」
「き、きゃぁ……さ、さくらったらぁ~~」
正面からユリアを抱き締めたさくらは、姉と鼻先が触れ合いそうな距離まで顔を寄せるや、満面に笑みを浮かべて喜びを露にする。
「本当にありがとう! ユリアお姉ちゃん! お姉ちゃんの力でお父さんは大丈夫だったの! だから、ありがとうなのっ!」
興奮して一気に捲し立てる妹に抱き締められたユリアは、その温もりが嬉しくてさくらの身体を抱き締め返し礼を言った。
「ありがとうを言うのは私の方よ……さくらの力があったからこそ、お父様に私達の心が届いたのですもの」
姉の優しい言葉に一瞬キョトンとしたさくらだったが、直ぐに照れ臭そうに顔を紅潮させ、気恥ずかしいのか、ユリアの胸に顔を伏せてしまう。
「えへへへ……さくら、よくわかんない……でも、お父さんもお姉ちゃんも無事でよかったぁ~~それが一番うれしいよぉ」
「うん……ありがとうね……大好きよ、さくら……」
ユリアは感極まって涙腺が緩むのを我慢できなかった。
この世に生まれた事を悔み、母を見殺しにした父を憎み、父に連なる酷薄な一族と理不尽な教団の連中を呪ったユリアという少女はもう何処にもいないのだ。
今この場に存在しているのは、血の繋がりはなくとも自分を慈しんでくれる家族と、その愛情に包まれて新しい生を得た白銀ユリアという名の少女なのだから。
(ユリーシャお母様……十年という月日を私に与えてくれてありがとうございました。こんな私を受け入れてくれた大切な家族と一緒に、私は生きて行きます……。いつか御傍に行く時がきたら、楽しいみやげ話をいっぱい持って行きますから天上で待っていてくださいね。だからそれまで、どうか安らかに……)
尽きない感謝を胸にユリアは亡き母の姿を幻視し、安らかなれと祈りを捧げる。
そして、さくらは姉の温もりに包まれて目を細めるのだった。
しかし、喜びを分かち合う姉妹の輪から外されて疎外感を感じたのか、ユリアとさくらの仲睦まじさをやっかんだティグルが、投げ遣り気味に悪態をついたものだから、話がややこしくなってしまう。
「なんだい、なんだいっ! 女同士で気持ち悪ったらないぜっ! あ~~ぁっ! つまんねぇよ。早く弟ができないかなぁ~~そうしたら、俺がいろんな事を教えてやれて、きっと毎日が楽しいだろうになぁ」
本気で姉妹の仲を揶揄したわけではないのだが、ティグルのこの態度に憤慨したさくらが怒りを露にした。
「むうぅぅ~~ッ! ティグルのくせに生意気ぃ──ッ! 今日こそ、こらしめてやるからねぇ──ッ!」
「なんだよ。そのティグルのくせにって!? 生意気なのはチンチクリンのさくらの方じゃないかッ!」
「いったなぁ──ッ! ぜぇ~~ったいに許さないんだからねぇ──っ!」
双方が宣戦布告を終えるや、壮絶な鬼ごっこが展開される。
逃げるティグルに追うさくら……お互いに罵倒しながらも、何処か楽しげな弟妹の姿に優しげな視線を向けるユリアは、白い歯を見せて微笑むのだった。
◇◆◇◆◇
「そんな……あれは封印していた鹵獲品ではないか……いったいなぜ、あんな物が戦場に……」
スクリーンの中で暴風の如く猛威を振るう殺人マシーンの映像を凝視するクルデーレは、呆然と呟くしかなかった。
ヴァルキューレと呼ばれるAI制御の無人戦闘機は、北部方面域辺境地帯にあるコロニー連合国家が開発した兵器である。
無人機の利点である高機動性能を極限まで突き詰めた傑作機だったが、如何せん肝心のAIの制御技術が未完成だったために敵のウィルス攻撃に弱く、そのコントロールを乗っ取られてしまうという致命的な欠点があった。
そこで開発チームは敵味方識別機能を封印し、AIから《敵と味方》という概念を抹消し、その上で起動したが最後、敵味方を問わず周囲の物体に対し無差別攻撃を仕掛ける《ジェノサイドシステム》を搭載して実用化へと踏み切ったのである。
いわばヴァルキューレは、最終決戦用の自裁兵器として運用するしかなかった、曰く付きの兵器だった。
些細な政治問題が原因で拗れたコロニー連合国家との間で紛争が勃発し、派遣された銀河連邦軍艦隊が激戦の末に平定したのだが、その際に多くの犠牲を払いながら鹵獲したのがヴァルキューレだ。
だが、開発部門にそのサンプルが送られて解析と研究が試みられたものの問題を改善できず、不良品として倉庫の奥でガラクタ同然に放置されたまま忘れさられていた代物だった。
一旦戦場に解き放ったが最後、周囲の存在全てを敵と認識して戦い続ける兵器が如何に驚異的かは、現在スクリーンの中で繰り広げられている殺戮劇を見れば一目瞭然であろう。
いったい誰がそんな欠陥兵器を戦場に投入したかが問題になれば、真っ先に嫌疑を掛けられるのは、管理保管している航宙艦隊の責任者である自分以外にはない。
これだけ大々的に情報映像が銀河中に拡散されてしまったのでは、そう遠くない内にこの問題を追及されるのは必至であり、クルデーレはその顔に苛立ちを露にして歯噛みするしかなかった。
(おのれぇ~~いったい誰が私を陥れるような真似を……これでは白銀と確執がある私が疑われるではないかぁっ!)
たとえヴァルキューレによって憎き白銀達也を葬れたとしても、身に覚えのない嫌疑で自分までもが失脚しては元も子もない。
自身の栄達の道が閉ざされる可能性に焦るクルデーレだったが、背後から喜色を含んだ声音が投げ掛けられて思わず振り向いてしまった。
「こんな隠し玉があるとは正直驚いたわい……クルデーレ。貴殿も漸く一皮剥けたようじゃのう?」
「何時までも半人前扱いは酷かろうよ。念願叶って、憎っくき白銀達也を葬り去る寸前まで追い込んでいるのだ。褒めてやっても罰は当たるまい?」
人が破滅するかどうかの瀬戸際に立たされているというのに、見当違いも甚だしい両元帥の言い種に憤るクルデーレだったが、彼らと目が合った瞬間、そこに潜む悪意を見た気がして立ち竦んでしまう。
モナルキア元帥とエンペラドル元帥は好々爺とした表情を崩してはいなかったが、その四つの瞳には欠片ほどの笑みも浮かんではいないのだ。
その瞬間に全てを察したクルデーレは、背筋が凍るかの様な恐怖に打ちのめされるのだった。
「まっ、まさか……あの鹵獲機を持ち出されたのは……」
戦慄く唇からやっと絞り出した言葉までもが小刻みに震えているのは怒りの為か、それとも残酷な現実を知ったが故の絶望か……。
しかし、その言葉はモナルキア元帥によって遮られてしまう。
「何を言いたいのか分からんが、戦況から目を離して良いのかのう?」
力ある者には絶対服従という身に染み込んだ貴族の性が、条件反射のように彼を振り向かせた。
そして、視線の先にあるスクリーン映像を目の当たりにした彼は、その端正な顔を驚愕に歪めて呻き声を漏らさざるを得なかったのである。
戦場を映し出した映像の中では、見た事もない小型の球状の物体が、変幻自在に宙空を駆け巡り、次々とヴァルキューレを墜としていく様子が映し出されていた。
圧倒的に有利だった戦況は完全に逆転しており、機動性に優れ多方向に射撃可能な新兵器の前にヴァルキューレは為す術もなく蹂躙され、ほんの数分で駆逐されてしまったのだ。
白銀達也に対する怨嗟も晴らせず、無断でヴァルキューレを戦場に投入し、然も味方艦隊を襲撃させたという濡れ衣だけが残る最悪の結果に、唖然として立ち尽くすクルデーレ。
「おやおや……期待させておいて、最後は何時ものパターンか……」
「そう意地悪を言うもんじゃないぞ。所詮は白銀の方が数段高みに居るという事よ……金獅子の双牙の片割れに犬っころが敵う筈もなかろう?」
両元帥に嘲笑されたクルデーレは、恥も外聞もなくリクライニングシートに身を沈める両元帥の足元に平伏した。
「なっ、何故でございますかっ!? 今まで懸命に尽くして来た私をッ! 何故陥れるような真似をなさるのですかぁッ」
血を吐く様な詰問にも表情一つ動かさない両元帥は、ただ冷然とした視線を哀れな道化師に向けるのみだが、その冷徹な反応を見たクルデーレは、恥も外聞もなく床に額を擦りつけて許しを乞うていた。
「どうか! どうか御見捨て下さいますな! 必ずお役に立って御覧にいれます! 何卒、何卒ッ御寛恕を賜りますよう! お願い致しますッ閣下ぁッ!」
必死に懇願するクルデーレを見下ろして、モナルキア元帥が淡々とした声で突き放すように答える。
「のう、クルデーレ。そなたも権謀渦巻く貴族社会で他人を蹴落として位階を極めたのであろう? そなたが出世するたびに奈落の底に堕とされた者達と同じよ……今度はお主の順番が来たというだけの事じゃ……潔くするがよかろうて」
その言葉に続いてエンペラドル元帥も冷めた表情で口を開く。
「人間引き際が肝心よ……軍人としては物の役にも立たなかったが、銀河貴族としての矜持まで捨てた訳ではあるまい? せめてもの情けだ……全ての責任を己自身が負う事で最後の奉公とするがよいぞ」
両元帥からの死刑宣告が下されたのと同時に入り口のドアが開いたかと思えば、一人の高級将校と数人のMPが入室して来た。
「何だッ貴様らはッ!? 誰も呼んではおらぬぞッ! 今は取り込んでいるッ。早々に出て行けッッ!」
両元帥を説得する以外に未来がないクルデーレは、怒りに任せて喚き散らす。
だが、MPを従える男は口元に薄ら笑いを浮かべてその命令を無視するや、場にそぐわない飄々とした声音で挨拶した。
「これは、これは……お取込みの所を誠に申し訳ございませんねぇ。両元帥閣下には御機嫌麗しゅう。情報局局長クラウス・リューグナーであります……評議会からクルデーレ大将閣下に緊急召喚の命令が下っております。申し訳ございませんが我々に御同行願えませんかねぇ~」
クラウスは慇懃に頭を垂れる。
「新任の局長自らお出ましとはのぅ……まぁ、丁度良かったわい。今しがた儂らの説得を受け入れて、クルデーレ大将も観念した所じゃ……白銀大将と確執があったとはいえ、危険な鹵獲品まで持ち出すのはやり過ぎじゃろうよ。この上は潔く罪に服すと言うておるから、どうか寛大な処置を頼みますぞ」
「閣下ぁッ! そっ、それは貴方がたがぁッ──ッ!」
モナルキア元帥の芝居がかった言種に激昂したクルデーレが真実を暴露するよりも早く、立ち上がったエンペラドル元帥が彼を強引に抱きしめた。
「クルデーレ大将……いやユリウス! そなたは我ら両名にとって掛け替えのない仲間であった。クルデーレの家名も残された一族郎党も、決して悪いようにはせんッ! そなたの息子に跡を取らせ、家名が存続できるように取り計らってやる……だから、そなたは心安んじて己の過ちを償うがよいぞ」
元帥の恩情を装ったその言葉に隠された真の意味を理解したクルデーレは、苦渋に顔を歪めて怨嗟の言葉を呑み込むしかなかった。
罪を認めて身代わりにならないのならば、爵位も家名もそこに拠る一族郎党全てを葬り去ると脅迫されれば、最早どうにもならない。
絶対的な力関係に支配される貴族社会の無情さを己が身で思い知る立場に立たされたクルデーレは、身を焼かれるような屈辱に歯噛みするしかなかったのである。
それでも自らの代で家を潰したと嘲笑われるのだけは我慢ならず、そんな恥辱を被るぐらいならば、死んだ方が遥かにマシだという考えが頭を過ぎった瞬間……。
「ああぁぁッ!? ああああああ────────ぁぁッッ!!」
言葉にならない慟哭の叫びを張り上げたのを最後に、床に蹲ったまま抜け殻の様に沈黙してしまうクルデーレ。
「中々に殊勝な心掛けですねぇ……この様子を報告すれば、評議会の方々もきっと恩情を掛けて下さるでしょう。クルデーレ大将閣下を丁重に御案内せよ。くれぐれも御無礼なきように」
クラウスが白々しい物言いでMPを促すと、脱力して蹲ったままのクルデーレを、屈強な男達が両脇から抱える様にして部屋から連行していく。
再び静寂が戻った室内に残された三人は、誰もが猿芝居の内幕を知りながらも、素知らぬ顔を取り繕った。
権力の座にある者達にとって敗者などは、顧みる必要もなければ、同情に値する存在でもない。
取り換えの利く便利な手駒など、彼の後に列を為して控えているのだから……。
「閣下方の御協力で無事に任務を果たせました。感謝申し上げます。それでは小官はこれにて失礼させて戴きます」
形だけの敬礼をして退出しようとしたクラウスだったが、エンペラドル元帥から声を掛けられて足を止めた。
「リューグナー少将。君は白銀大将と入魂の間柄だという噂があるが本当かね? もしそうだったら、彼との仲立ちをお願いしたいのだが?」
笑顔での問い掛けだったが、彼の思惑を瞬時に察したクラウスは、態と顔を顰めて惚けておく。
「それは残念ですねぇ~~。かの日雇い提督殿と親しければ、私にとっても何かと便利なのですが……私の方こそ是非とも御紹介戴きたいものです」
クラウスにとって、両元帥に取り入るメリットは殆んどないと言っても過言ではないが、好んで敵に廻すほど酔狂でもない。
だから情報を提供して御機嫌を取るぐらいのリップサービスは、彼にとって何ら罪悪感を覚えるものではなかった。
「そういえば……最高評議会が、彼に【神将】の称号を与えると決めたという話を小耳に挟んだのですが……おっと、私としたことが……どうか御聞き流し下さい。確証もない噂ですから……では、これにて失礼」
言いたい事だけを言ってクラウスが退出するや、両元帥は難しい顔をして互いを見る。
彼らはクラウスが噂話と念を押した情報を本物だと判断したのだ。
寧ろ、アナスタシアとヒルデガルドが牛耳っている今の最高評議会ならば、信憑性は高いと考えてもおかしくはなかった。
「【神将】とは不味いのぅ……銀河連邦の歴史上、奴で四人目……二代目と三代目の悪行の所為で良い評判は聞かぬが、【神将】の位階は大元帥じゃぞ?」
「確かに……仮に下賜されれば、方面域司令官なんぞに任じておく訳にもいくまい。それこそ、クルデーレの阿呆の後釜の席ぐらいは用意せねばなるまいよ」
クルデーレの後釜に子飼いの貴族を据えようと思っていた両名は、思惑とは裏腹に最悪の事態を考えて顔を顰めてしまう。
だが、エンペラドル元帥は黙考の末に名案を思い付いてほくそ笑んだ。
「そうだな……称号の下賜を逆手にとって、逆に白銀を排除できるかもしれんぞ」
そして両元帥は長い時間部屋で密談を重ねるのだった。
一方クラウスは退出したばかりの部屋のドアを一瞥し、口角を吊り上げて不敵に微笑んだ。
(あんな爺さん共の策謀でどうにかなる貴方ではないでしょうが、くれぐれも油断しないように……貴方には大切な者達を預けているのですからねぇ。私をガッカリさせないでくださいよ……)
取引相手の健闘を秘かに祈りながら、彼は静かにその場を離れるのだった。




