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第十四話 忌み子 ④

(本当に嬉しかった……でも、この優しい方達を私の運命に()き込むわけにはいかないわ)


 自分の中に宿った温もりを与えてくれたふたりを護りたい……。

 それは、ユリアの偽らざる本心だった。


 しかし、そんな想いを向けられているふたりは己の意に反した状況に陥っており、意識を失いソファーに突っ伏したクレアに続いて達也も片膝を付いてしまう。

 薄れゆく意識を(つな)ぎ止めようと頭を振って(あら)うが、その意志を捻じ伏せんとする強い睡魔には(こう)しきれない。


「くっ! ユ、ユリア……こ、これはっ、君か?」


 今にも途切れそうな意識を叱咤(しった)して必死に問う達也へ、生まれて初めて見せるであろう精一杯の笑顔を向けたユリアは、心からの謝意を告げた。


【心配なさらないで……ほんの数分だけ眠りに落ちるよう意識下に働きかけただけです。どうか、クレアさん……いいえ、お母さまに『ごめんなさい』と伝えて下さい。そして、お父さまっ。いつまでも御壮健(ごそうけん)で……生まれて初めて『お父さま』と呼ばせて戴きました……それが何よりも嬉しい】


「こ、こらっ! 待てっ……この、ばか……娘ぇっ!」


 カーペットの上に(うつぶ)せに崩れ落ちた達也の口から最後に(こぼ)れた言葉……。

 その『娘』という温かい響きを忘れないよう、ユリアはその温もりと共に大切に心の中に仕舞い込んで抱き締める。


(本当にありがとう……お父さまの言葉の温もりだけを戴いて()きます……天国で待っているお母様に胸を張って報告ができますもの……戴いた十年という年月は、決して無駄ではなかったと……)


 人生の最後に最高の幸せに(めぐ)り合えた……。

 そう胸を張れる自分が誇らしく、そして(たま)らなく嬉しかったのだ。


           ◇◆◇◆◇


 残された力で、憑依(ひょうい)している紅の宝玉ごと屋上に転移したユリアは、雲一つない夜空に浮かぶ春月の(あわ)い光に思わず目を細めてしまう。


(こんなにも清々(すがすが)しい気持ちで、夜空を見上げる日が来るなんて……)


 自分には無縁のものだと思っていた幸せを得たのだ。

 (たと)え、それが刹那(せつな)の夢であったとしても、もう充分ではないか……。

 満ち()りた思いで人生の終幕を迎えられるのだから、これ以上の望みなど何も ありはしない。

 自分を娘だと呼んでくれた恩人達に心の中で最後の別れを告げ、ユリアは毅然(きぜん)と顔を上げた。


 視線の先にはその害意を隠そうともしない襲撃者が二名……(あわ)い月光の下で此方(こちら)を見ている。

 今や王侯貴族が儀礼の場で身につける位しか出番のない、仰々(ぎょうぎょう)しい軽金属製の鎧を着込み、その上から純白の長法衣を(まと)った男達の姿から、彼らがシグナス教団の守護を(つかさど)る神衛騎士団の上級騎士だと直ぐに分かった。


「ほおぉ~~これは、これは……(まぎ)れもなくユリア十八姫ではないか……とっくに死んだと思っていたが、(いま)だに生を(つな)いでいたとは驚きだ」

「教団本部の祈りの御子(みこ)から、()み子の反応が感知されたと聞いた時は耳を疑ったものだが……今度こそ煉獄(れんごく)の炎の中へ送って差し上げよう」


 刺客たちの手にした武具が(あわ)い光に包まれる。

 教団から選ばれし戦士である彼らは、その神力を宿(やど)した《法具(ほうぐ)》と呼ばれる武器を自在に操り敵を排除(はいじょ)する、シグナス教団最高戦力なのだ。


 一人は白銀(はくぎん)に輝く錫杖(しゃくじょう)を構えて、もう一人は漆黒の鋼材でできた(こん)無造作(むぞうさ)に握ったまま距離を詰めて来る。

 捕縛する気など毛頭ないようで、身体から漏れ出る殺気がそれを裏付けていた。


【今更命乞(いのちご)いをする気などありません。私の命ならば喜んで差し上げますから……ですがっ! この階下の住人にはなんの罪もないのです……偶然私と関わり合いになっただけ……それ以上の意図を持つ者たちではありません! だからっ、どうか彼らに手出しをしないで下さいっ。お願いしますッ!】


 そのユリアの懇願(こんがん)に、二人の騎士は顔を見合わせて意味深な含み笑いを漏らす。


「なるほど……それは殊勝(しゅしょう)な考えです。いいでしょう。シグナス神は慈悲深い。貴女のような災厄の魔女にも寛大な御心をお与え下さいます。その願いは聞き届けられました」


 説法をするかの様な物言いをする騎士がユリアの前まで歩み寄って来るや、(まばゆ)い光を発する錫杖(しゃくじょう)を大上段に構える。


「この法具の光はシグナス神の慈悲であるっ! 貴女のような不浄(ふじょう)な精神体は滅すべき存在なのだ! 死して己が呪われた身を浄化(じょうか)するがいいっ!」


 尊大なまでの大喝(だいかつ)と同時に、発光する錫杖(しゃくじょう)が猛然と振り下ろされる。

 その時ユリアの心に浮かんだのは、優しい温もりをくれた白銀家の面々だった。

 自分を家族だと言ってくれた人々の面影に抱かれて、今は亡き母親の御許(みもと)()ける……ユリアは心から幸せだと満足したのだ。


 だが、そんな死という不条理を受け入れる彼女の諦念(ていねん)を許さない人間がいた。

 まさに錫杖(しゃくじょう)鉄槌(てっつい)がユリアの根源まで滅殺しようとしたその刹那(せつな)……。

 踊り場に続く鉄製のドアが激しい破砕音と共に吹き飛び、同時に中から放り出されて宙を舞った物体が、ユリアを襲撃する錫杖(しゃくじょう)に叩きつけられ、凄まじい放電の火花を()き散らした。


「ぎゃあぁぁぁぁ──ッッ!!」


 凄絶(せいぜつ)な絶叫を上げて地をのた打ち回るのは、二人の騎士と同じ装束に身を包んだ三人目の襲撃者の成れの果てだ。

 その悶絶する男が如何(いか)にしてこの状況に立ち(いた)ったのかユリアには分からなかったが、大恩ある白銀家の者達を襲ったのだという事実だけは()ぐに理解できた。

 状況が理解出来ずに数歩下がって態勢を整えようとした二人の騎士に、ユリアは怒りの思念をぶつける。


【どういう事ですかっ! これはっ!? 貴方は神に仕える身でありながら、口先だけの詭弁(きべん)(ろう)したのですかっ!】


 神官(ぜん)とした襲撃者の顔が忌々(いまいま)しげに(ゆが)み、その法具を持つ手が怒りに震えた。


「黙れぇっ! 罪深い魔女の分際で神を口にするとは不敬(ふけい)(きわ)まるッ! 今すぐその身に死をくれてやるから感謝するがいいッッ!」


 激昂してそう叫ぶや、一足飛びに距離を詰めた騎士がユリアの頭上に凶悪な得物を振り下ろす。

 しかし、その一撃は激しい金属音と共に(はじ)かれてしまい、後退を余儀(よぎ)なくされた刺客らは怒りに顔を強張(こわば)らせたのである。

 そこにはユリアを背に(かば)い立つ一人の男の姿があり、その右手に握られた聖剣は、まるで持ち主の怒りを代弁するかの様に、その刀身を震わせていた。


【し、白銀……達也さま……】


 呆然とその男の名を(つぶや)いたユリアだったが、(およ)そ、その場の雰囲気にそぐわない飄々(ひょうひょう)とした言葉で問い返され、大いに戸惑ってしまう。


「何だい? もう『お父さま』とは呼んでくれないのかな?」


 現状を理解しているとは思えない、如何(いか)にも場違いな笑顔を向けられたユリアは、唖然(あぜん)として達也を見つめるしかなかった。


【そ、そんな……でも、どうして、こんな……】


「こいつらのような性根が(くさ)った連中が約束など守る筈がないじゃないか……不躾(ぶしつけ)にもベランダから入って来たから、叩きのめしてやっただけだ。あぁ、それから、あの程度の精神操作では僕を完全に眠らせるのは無理だよ。今度やるなら少し強めのものにした方が良い」


 その呑気(のんき)な物言いに我に返ったユリアは、思わず激昂して(なじ)ってしまう。


【何を巫山戯(ふざけ)ているのですかっ? どうして私などを(かば)おうとするのですッ!? 貴方が護るべきは、クレアさんとさくらちゃんの他にはいないでしょうっ!】


 その慟哭(どうこく)は彼女の偽らざる本心だったが、達也は小さく左右に首を振り、それは違うと愛しい少女へ告げるのだった。


「彼女達は絶対に君の方が大切だと言うに決まっているのでね……目が覚めた時に君が無事でなければ納得してくれないよ。勿論(もちろん)、僕だってそうだ……大切な家族を誰一人置き去りにしたりしない。だから君も護ってみせる。それが父親というものだからね」


 そう力強く宣言する達也の言葉に胸を衝かれたユリアは、自分には許されない事だと思いながらも、心の中に拡がる歓喜という感情を(おさ)えられず言葉を震わせてしまう。


【ば、馬鹿ですぅ……わっ、私なんかのために、本当に……馬鹿……】


「ふふふ。男親は馬鹿ぐらいで丁度(ちょうど)いいのさ……いいかい? 僕を信じろとは言わない……だが、クレアやさくらの想いを無下(むげ)にはしないでおくれ。きっと道は残されている……だから、決して死に急がないで欲しい」


 その言葉にユリアは小さくだが、それでも強く(うなず)いて達也を安堵(あんど)させた。

 しかし、一方で邪魔をされた挙句(あげく)に存在自体を無視された騎士達の憤りは凄まじく、達也に法具を突きつけて怒りを(あらわ)にする。


「何者だっ? 神の御裁可もこの場の事情も知らぬ下賤(げせん)の者が出しゃばるなっ! 大人しく引き下がらぬのであれば、怪我ぐらいでは済まさぬぞっ!」

「今更許しを()うても手遅れぞッ! (おぞ)ましい()み子を(かば)い立てした罪は重いッ! きさまの身内も含めて神罰を下してくれるぅッ!!」


 だが、彼らの怒気など何処(どこ)吹く風と受け流す達也は、ユリアが一時的に憑依(ひょうい)している《エルフィン・クイーン》を拾い上げた。


窮屈(きゅうくつ)かもしれないが、(しばら)此処(ここ)で辛抱しておくれ……()ぐにこの五月蠅(うるさ)い連中を黙らせるから」


 そう優しい声音で告げるや、紅の宝石を胸ポケットに大切に仕舞い込む。

 すると、その刹那に周囲の空気が別のものへと変化したかと思えば、烈火の(ごと)き怒りの炎をその瞳に宿した達也が、騎士達を睥睨(へいげい)して言い放ったのである。


「お前たちシグナス教団の薄汚いやり口は承知しているし、ユリアの事情も充分に理解している……その上で俺から二つだけ忠告をくれてやる」


 声を荒げもせず威圧的(いあつてき)な言葉を使う訳でもない……。

 しかし、これから初夏へと向かおうとする朧夜(おぼろよ)にも(かか)わらず、周囲の気温が下がったかの様な錯覚を覚えた騎士達は思わず身震いしていた。


「一つ目は、この娘に……私の愛娘にこれ以上理不尽なちょっかいを出すのは許さない……(いわ)れのない『()み子』だとか、『災厄の魔女』などという無粋(ぶすい)な呼び名も御遠慮願おうか」


 一瞬の間を置いて言葉を続ける。


「二つ目……これ以上、私の家族への手出しも許さない……この忠告を無視するのならば、お前達の教団も帝国も私が跡形(あとかた)もなく叩き潰してやるから覚悟しろ……と教皇なり皇帝なりに伝えるがいい」


 その傲岸不遜(ごうがんふそん)な物言いに騎士らが激昂しないわけがない。

 明らかな挑発に我を忘れた刺客達は蛮声を張り上げて地を()った。


「愚者の分際でっ! 神の代行者たる教皇猊下(げいか)に対するその不遜(ふそん)な物言いッッ! 断じて許せんッッ!」

「この()れ者めがぁッ! 我らの鉄槌(てっつい)(もっ)って大罪を(あがな)うがいい──ッ!」


 悠然(ゆうぜん)と立ち尽くす達也との距離を一瞬で詰めた騎士達は、左右から同時に法具を振り払う。

 だが、攻撃が命中したと思った刹那(せつな)、達也は疾風(しっぷう)(ごと)き身のこなしで回避するや、いとも簡単に騎士らの背後をとって見せた。


「ふん。親衛騎士団とはこの程度なのか? だとしたら先程の忠告は、少々大袈裟(おおげさ)だったかな?」


 鼻先で嘲笑(あざわら)われた騎士達は、満面朱(まんめんしゅ)をそそぎ吠える!


「ならばっ! 法具の真の力をっ! 神罰の(ことわり)を知るがいい──ッ!」


 二つの法具が激しく打ち()えられたのを見たユリアが悲鳴を上げる。


【い、いけないッ! あの法具は持ち主の思念を(かて)にして、精霊獣を具現化(ぐげんか)できるのです!】


 彼女の危惧(きぐ)(すぐ)ぐに現実のものになった。

 打ち合わされた法具が激しい明滅を繰り替えし、周囲に拡散する光の粒子が急速に収束していくや、それは巨躯(きょく)の狼と猛虎に姿を変えたのである。

 余りに非現実的な光景であったが、達也は驚愕するどころか鼻を鳴らし、不敵にも口角を吊り上げ笑って見せた。


「「神獣の牙にて裁きを甘受(かんじゅ)せよッ!」」


 騎士の雄叫びと神獣の咆哮(ほうこう)が重なる中、光の粒子を()き散らす虎狼が神敵目掛けて爆走し襲い掛かる。

 その猛襲は達也が横薙(よこな)ぎに払った炎鳳の一閃(いっせん)と激突するや、一瞬で渦巻く烈風へとその姿を変えて彼を()み込むや、激しい大渦となった。


「あぁっ、はははははぁぁ! 神の裁きの前に滅するがいいッ!」

「今度こそ邪教の魔女の最後だっ! 我が神の教義こそが真理だ!」


 巨大な光の渦を前にし気分が高揚(こうよう)したのか、騎士達は狂ったように哄笑(こうしょう)する。

 しかし、その異変は唐突に、そして劇的に彼らの眼前に顕現(けんげん)したのだ。


 激しく渦巻く光の流れの彼方此方(あちこち)に切れ目が走ったかと思えば、そこから無数の炎羽が飛び出し、猛々(たけだけ)しい炎の翼が脆弱(ぜいじゃく)な光の奔流(ほんりゅう)を喰らい尽くしていく。

 信じられないその光景に唖然(あぜん)とする騎士達が見たのは、大渦と化した神獣が炎に呑まれて消滅し、その中心に無傷で立ち尽くす達也と彼に従い大翼を広げる炎の大鳳(おおとり)の姿であった。


「この程度の攻撃で勝ち誇るとはな……図々しいにもほどがあるぞ? そもそも、地を()う動物風情が、天空を(かけ)鳳凰(ほうおう)に勝てる筈がないだろうに」


 今まで法具の力で無敵を誇って来た騎士達の目には、傲慢(ごうまん)な態度でそう(うそぶ)くや、圧倒的な力を誇示する男が悪魔の化身に見えたとしても不思議ではないだろう。

 だから、その恐怖に負けて意味不明の金切り声を上げた彼らは、法具を振り(かざ)して無謀な突撃をするしかなかったのである。

 しかし、時(すで)に遅く、地を()って疾駆(しっく)していたのは達也も同じだった。

 甲高い剣戟(けんげき)の音が夜空に響いたのはホンの一瞬の間で、再び訪れた静寂の中で、二人の騎士はその場に崩れ落ちて動かなくなってしまう。


「メッセンジャーがいなくなっては困るからな……黄泉路(よみじ)への片道切符は預かっておいてやる」


 弾き(はじ)飛ばされ地に落ちた武具が両断され、片や騎士達は重症ではあったが、辛うじて命だけは(つな)いでいる状態だった。


「急いで治療すれば命は助かるだろう……帰って皇帝に伝えるがいい。もう、この世の何処(どこ)にも帝国十八姫と呼ばれた娘はいない……今後は白銀ユリアとして生きて行くから御承知いただきたいと。いずれ銀河連邦宇宙軍白銀達也が御挨拶に御伺(おうかが)いするので楽しみにしていて欲しい……とね」


 倒れ伏す襲撃者以外には誰もいない闇に向ってそう告げるや、達也は足早に階段に続くホールへと姿を消すのだった。

 すると月下の大気が()らぎ、黒衣に身を包んだ人物がその姿を見せる。


「ふふふっ、白銀達也と言ったか……私の存在に気づいて意識の半分を向けたまま刺客を一蹴(いっしゅう)するとは……(あなど)る訳にはいかぬな。それにしても教団も不甲斐(ふがい)ない。常日頃の大言壮語は何処(どこ)へやら……」


 そう(つぶや)いた男が軽く右手を振った途端、地に倒れ伏していた三人の騎士の身体が蒼炎に包まれ、断末魔の悲鳴すら上げる暇もなく、灰の(かたまり)へとその姿を変じた。


「恥を晒したばかりか、貴重な法具まで失う能無し共を連れて帰る義理はない……メッセンジャー役は私が代わって務めるので安心するがいい……次の機会は帝都で()える日を楽しみにしいるよ……白銀達也殿」


 誰の耳にも届かないその台詞は、凄絶なまでの喜色を帯びたまま夜気に溶けるのだった。


            ◇◆◇◆◇


 出迎えてくれたクレアに散々説教されたユリアだったが、謝罪しながらも何処(どこ)か嬉しそうな声音で何度も礼を言ってさくらの中へと戻った。


「あまり無理をさせる訳にもいかないし……明日一番でヒルデガルド殿下に連絡をとってみるよ」

「やはり負担が大きかったみたい……ゆっくり休ませてあげないと……」


 事情を完全には理解していないクレアの不安は大きく、憔悴(しょうすい)した面持ちで肩を落としてしまう。


「当分の間はさくらを一人にしない方がいい……そこで提案なのだが、(しばら)く保育園を休ませた上で、全員でリブラに生活拠点を移さないか? あそこなら襲撃される可能性は低いし、万が一に(そな)えるのも容易(たやす)い」


 寸瞬の間黙考(もっこう)したクレアは表情を引き締めて頷き、その申し出を了承した。


「私も賛成です。今夜中に必要な荷物だけ用意して、さくらとティグルちゃんには明日の朝に話せばいいでしょう……嫌だとは言わない筈です」


 恋人の答えにほっと安堵したのと同時に、達也の携帯端末がコール音を(かな)でる。

 相手はイェーガーだったのだが、彼の口から語られた内容に驚愕し、達也は絶句せざるを得なかった。


『先程ラインハルトから緊急連絡が入りました。GPO本部がテロの標的にされ、ヒルデガルド殿下のオフィスが炎上中との事です。詳細が分かり次第再度御報告いたしますが……』


 耳の奥に消えていくイェーガーの声が、やけに遠くに聞こえる気がした達也は、(しば)し呆然と立ち尽くすしかなかったのである。

◎◎◎

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― 新着の感想 ―
[一言] 時には他者を受け入れる、そんな器が無い存在など神仏にあらず!! これはしっかり成敗してやらんと!! そしてヒルデさん……大丈夫なんだろうか(゜Д゜;)
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