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第一話 左遷されて故郷に帰る ②

 如何(いか)なる理由があろうとも、上官反抗罪には厳しい処分が課せられるのが常だ。

 それは軍隊という組織の根幹(こんかん)を成すルールでもあり、中将である達也であっても例外ではなく、階級を一時剥奪(はくだつ)された上で、銀河連邦宇宙軍本部であるアスピディスケ・ベースへの送還が命じられた。

 しかし、そんな司令部の対応とは裏腹に、共に戦い窮地から救われた将兵達は、盛大な見送りを(もっ)て心からの謝意を表したのだ。

 また、移送艦の艦長の厚情によって上級士官用の個室を与えられた達也は、その寛大な処置に深謝したのである。


             ◇◆◇◆◇


 無事に任務を完遂(かんすい)できて安堵(あんど)した達也は案内された個室で(くつろ)いでいたが、昨今の上級士官の質の低下には目を(おお)わんばかりのものがあり、それを今回の件で(あらた)めて思い知らされてしまい、暗澹(あんたん)たる思いを(いだ)かずにはいられなかった。


 今年は現最高評議会構成国家、いわゆる《始まりの七聖国》の合意の下に銀河連邦評議会が設立されてから、一五○○年の節目を(むか)える目出度(めでた)い年だ。

 銀河連邦創設以前は銀河系中心域で多国間の紛争(ふんそう)が相次いだ結果、無益で破滅的な争いを回避する為に七つの大国が利害と恩讐(おんしゅう)を乗り越えて手を取り合い、巨大コミュニティの(いしずえ)を築いたと歴史には記されている。

 それ(ゆえ)銀河連邦評議会はその理念に《多文化主義》と《文化相対主義》を(かか)げ、他種多様な民族とその自治や価値観に優劣はなく、全ての知的生命体が平等であると(うた)い、その理念に賛同する加盟国の増加と共に急速な成長発展を遂げたのだ。


 しかし、評議会参加国家の実に七十%が、王制や帝政を()く専制君主主義国家で構成されていた為に、身分制度を当然のものと主張する貴族閥の勢力拡大を許してしまい、それが禍根(かこん)となって連邦の発展に影を落としたのも事実である。

 その結果現在の銀河連邦評議会には、尊敬に値する貴族も多く存在するものの、出自や身分に胡坐(あぐら)を掻いて他者を見下す、鼻持ちならない似非(えせ)貴族らも少なからず存在しており、玉石混交の状態であるといえた。

 それらの中でも始末(しまつ)に負えないのは、強欲な性根を隠そうともせずに連邦評議会の要職を欲し、私物化している無能で悪辣(あくらつ)な貴族連中だ。

 そんな低次元の権力者に振り回されるのは日常茶飯事であり、達也も辟易(へきえき)させられている一人だった。


 将官用のロングコートを脱いで簡易ベッドに身体を横たえる。


(地球を出てから、もうかれこれ十四年か……皆は元気にしているだろうか……)


 最近頻繁(ひんぱん)に脳裏に浮かぶ想い……。


 統合政府の移民政策に応募した両親に連れられて地球を旅立ったのは、彼が三歳の時だった。

 しかし、運悪く移民先に向かう航海の途上で海賊艦隊の襲撃を受け、両親はその混乱の最中(さなか)で命を落としてしまう。

 幸か不幸か、生き残った達也は地球に送還されたのだが、両親以外の親族は(すで)に絶えており、北海道にある養護施設に引き取られて十年以上を過ごしたのだ。

 裕福な生活ではなかったものの、実の母親同然に愛情を(そそ)いでくれた院長先生や優しい職員達、そして、施設を出て社会人になった仲間らにも(いつく)しまれ、少年期は精神的に満たされて幸せだったと言えるだろう。


 しかし、そんな(おだ)やかな生活の中でも、達也の心の中で(くす)ぶり続けた想い……。

 理不尽にも、自分の眼前で父と母の命を奪った海賊達への憎悪と復讐心だけは、ただの一日も忘れられなかった。

 その浄化されない想いを清算する為に、軍人になろうと誓ったのは、(むし)ろ自然な流れだったのかもしれない。

 大恩ある院長先生を始め、周囲の知人ら全てから反対されて(いさ)められたが決意は変わらず、達也は中等教育を修了した日に養護院を飛び出したのだ。


 当時の幼い自分がどれほど(おろ)かしい真似をしたのかは、今ならば理解できるが、『太陽系外の宙域を跋扈(ばっこ)する海賊と戦うには、銀河連邦軍に入隊するしかない』、そう一途(いちず)に思い詰めていたあの時の子供が、それに気付くのは困難だった。

 責任ある大人の保護者が居ない達也には、軍と傭兵契約を交わして規定の年数を戦い抜き、特別士官に任官されるという乱暴な方法でしか切望を果たす術はなく、だから寸毫(すんごう)も迷わずに血塗られた道に足を踏み出したのだ。


 慈愛(じあい)という優しさを()しみなく注いでくれた院長先生が、唯一嫌悪(けんお)した人と人との争い。

 自分の望みを(かな)える為に争いに身を投じた中で、人を殺し続ける日々に葛藤(かっとう)し、その挙句(あげく)に思い知らされた己の浅はかさ……。

 そして、母と(した)う彼女を裏切り、絶望の涙を流させてしまったと気が付いた時の慚愧(ざんき)と後悔。

 何もかもが手遅れだと分かってはいても、懊悩(おうのう)だけが尽きずに胸を刺す。


 睡魔に誘われて闇の狭間(はざま)に沈む刹那(せつな)

 別れの日に自分の背中を打った院長先生の慟哭(どうこく)耳朶(じだ)の奥に(よみがえ)った。


『憎しみという愚かな感情に(とら)われては駄目よッ! それは貴方だけじゃないッ、貴方の周りの人々をも不幸にしてしまうわッ!』


 今更(ゆる)して貰えるとは思えない……。

 そんな呵責(かしゃく)から逃れたくて、達也は闇の底へと意識を沈めるのだった。


            ◇◆◇◆◇


 三昼夜の航海の後、護送艦はアスピディスケ・ベースに到着した。

 この銀河連邦宇宙軍総本部は、最高評議会筆頭七聖国の一柱ティベソウス王国が支配する、グラシーザ星系内の本星近海宙域に常駐する小惑星改造要塞である。

 百万隻の戦闘艦艇を有する銀河連邦宇宙軍の本部基地だけあって、常に十万隻の艦艇を常駐させており、その存在は銀河連邦評議会の力の象徴として、他の勢力に対する十分な抑止力の役目を果たしていた。


 不思議にも手錠(てじょう)等で拘束(こうそく)される事もなく、警務隊の衛兵達に先導された達也は、そのまま軍令部直属の高級参謀の執務室へと案内される。

 そこで書類仕事に追われている青年士官を見た彼は思わず口元を(ほころ)ばせた。


「ミュラー大佐。白銀中将閣下をお連れしました」

「御苦労だったね。(すで)に査問会の開催は見送られ、白銀閣下に対する嫌疑は晴れている。監視は不要だから下がってよろしい」


 衛兵達が退出してドアが閉じられるのと同時に相好を崩したラインハルト・ミュラー大佐は、仕事用の椅子から立ち上がって親友へと歩み寄る。

 同じ様に達也も歩を進め、間近で顔を合わせたふたりは固い握手を交わした。


 眉目秀麗(びもくしゅうれい)を絵に描いたような整った顔立ち、そして均整のとれた体躯(たいく)と気品を(あわ)せ持つ金髪の青年士官。

 実家は七聖国に連なる名家であり、歴とした銀河貴族の一員でもある。

 そんなエリート中のエリートとして、軍上層部に将来を嘱望(しょくぼう)されているのが、このラインハルト・ミュラー大佐だった。


 出自だけを見れば、全く水と油のふたりだが、初対面のときから妙に馬が合い、意気投合して十年以上の親交を重ねた親友同士でもある。

 ふたりが配属されたのが、並居る海賊や犯罪シンジケートの悪党共から【冥府の金獅子】と渾名(あだな)されて恐れられた、ガリュード・ランズベルグ元帥が率いた艦隊だったのは、まさに僥倖(ぎょうこう)以外の何ものでもなかった。

 それ以来、ガリュード元帥が退役するまでの八年間を共に切磋琢磨(せっさたくま)して艦隊内で頭角を現すや、ふたり揃ってとんとん拍子に出世したのだ。

 そんなふたりは何時(いつ)の頃からか【金獅子の双牙】と呼ばれる様になり、海賊連中から恐れられる存在へと成長したのである。


 現在、彼らの階級に差があるのは、ガリュード艦隊解散後に准将に昇進して艦隊勤務を命じられた達也と、本部付き高級参謀を命じられたラインハルトの進む道が分かたれたからに他ならない。

 目に見える成果を挙げ辛く、縁の下の力持ちとして参謀の職務に忠勤したラインハルトと、直率する艦隊を与えて貰えない『日雇い提督』とはいえ、前線で目覚ましい活躍を()げた達也では昇進に差が出るのは仕方がない事だ。

 しかし、そんな立ち位置の違いによる結果の差などは、ふたりにとっては些末(さまつ)な事に過ぎず、親交に支障をきたすものではなかった。


「すまないなラインハルト。上の連中にかなり嫌味を言われたんじゃないのか?」

「そんな大袈裟(おおげさ)な話ではないさ。今回はあの能無し貴族が元凶なのは明白だからな……敵前逃亡という不名誉に目を(つむ)る代わりに予備役送りにしてやったよ」


 肩を(すく)めながら笑うラインハルトが達也にソファーを勧めると、彼の秘書官らしい女性少尉が紅茶とお菓子をトレーに乗せて入って来た。

 そして、手慣れた所作でテーブルの上にそれらを(しつら)えた後、一礼して退出する。

 その女性士官がドアを閉めたのを確認したラインハルトが先に口を開く。


「さっきも言ったが、今回の件は不問に付されている。貴族閥の連中も下手に騒ぎを大きくして、不都合な話を蒸し返されても困るだろうからな」

「お前にはいつも感謝してるよ」

「何を水臭い……だが、完全に無罪放免とはいかない。さすがに大勢の将兵の前で上官を()め上げたのは不味(まず)かった……もっと強弁しても良かったのだが」

「余り無茶はしてくれるなよ。処分は甘んじて受けるつもりだから」

「前線勤務からは一旦(いったん)外れて貰う事になった。辺境域の方面司令官という肩書だが、指揮する艦隊も無い事務職だな……期間は約一年だ」


 命令書を差し出してくるラインハルトの憤懣(ふんまん)やる方ない表情から、厳しい処分を主張する他の参謀部の面々と激しいバトルを繰り広げ、自分を(かば)ってくれたのだと容易(ようい)に察せられ、達也は顔を(ほころ)ばせて謝意を伝えた。


「本当に苦労を掛けたな……クビにならなかっただけ上出来さ……改めて感謝するよ、ラインハルト」


 真摯(しんし)に礼を述べる親友の言葉に、ラインハルトも安堵(あんど)して表情を(ゆる)め、同時に何時(いつ)にも増して堅苦しい達也の物言いに苦笑いしながらも忠告する。


「お前ねぇ。いくら将官だからといって必要以上に肩肘張(かたひじは)るのはよせよ……ただでさえ強面(こわおもて)なんだからさぁ。周りの人間に誤解を与えるだけだぞ」

「おいおい、酷い()(ぐさ)だな。これでも俺なりに若輩者と(あなど)られない様にと苦労しているんだ。それをお前までが……あぁ、もう! 分かった、分かりましたよ!」


 親友の身も(ふた)も無い指摘に、達也はソファーの背凭(せもた)れに身体を預けて嘆息するしかない。

 実績主義を(かか)げる銀河連邦宇宙軍とはいえ、彼の年齢で中将にまで昇進を果たした例は、その長い歴史の中でも(わず)かに散見される程度だ。

 その上、貴族閥の軍首脳陣からは(うと)まれ続け、准将に昇進して以来、銀河系内の問題ありとされる戦場をタライ廻しにされる将官など滅多にいはしないだろう。

 それ(ゆえ)『日雇い提督』なる不名誉な蔑称(べっしょう)を頂戴しており、その事で作戦指揮に悪影響が出ない様にと、殊更(ことさら)に表情を取り(つくろ)い厳格な司令官を演じているのだ。


 本来達也は鷹揚(おうよう)で社交的な性格であり、士官、下士官を問わず、同僚や部下達からは大いに慕われている。

 ラインハルトはそんな親友の一面をよく知っているだけに、的外れの努力に苦言を(てい)したのだ。


「ふふふ、その(くだ)けた感じの方がお前らしいよ。今回の処分も良い骨休めだと割り切って、気分をリフレッシュさせればいいさ」

「言ってろ……それで、俺は何処(どこ)に派遣されるんだい?」

「西部方面域太陽系第三惑星『地球』だよ」


 その左遷先の名を聞いた達也は、盛大に顔を(しか)めて訊ね返した。


「冗談だよな?」

「まさか。これは正式な決定だよ……そもそも、お前さんの故郷だろうが?」

「だから不味(まず)いんだ! まさか俺に《地球初の連邦軍将官》なんて陳腐(ちんぷ)なフレーズをぶら()げて、軍の太鼓持ちをやれと言うんじゃないだろうな?」


 道化(ピエロ)を演じる自分の姿を想像した達也は、それだけで眩暈(めまい)を覚えてしまう。

 (しか)も、そんな滑稽(こっけい)な自分の姿を、院長先生や施設の仲間に知られると考えただけで、身が(すく)むような羞恥に(さいな)まれて悶絶するしかなかった。


「おいおい、最近は被害妄想まで(こじ)らせているのかい? 心配するな。あくまでも休養を兼ねてという事だよ……それにお前、傭兵時代を含めて一度も帰郷していないだろう? 良い機会だと割り切って気持ちを整理してきたらどうだい?」


 親友の台詞(せりふ)には、達也の心の中の葛藤(かっとう)を見透かしたうえで、自分の過去に真摯(しんし)に向き合ってみろという思いが滲んでいる。

 それに気付いた達也は気配り上手の友人のお節介に、(わざ)と皮肉を口にして感謝の代わりとした。


「知った風な口を……まあ、確かにこの二年間は働き詰めだったからな。ボーナス代わりに休暇を貰っても罰は当たらないだろうさ」


 そんな達也を見たラインハルトは心底楽しそうに微笑む。


「それから、現在太陽系に派遣されている艦隊はないが、統括武官としてフレデリック・イェーガー准将が去年から着任しておられる。軍政官ばかりだが二十名程の部下を率いていると聞いているよ」

「へえ~~あの艦隊参謀長殿が……」


 ラインハルトの口から懐かしい名前を聞いて、達也は相好を崩しかけたのだが、直ぐに小首を(かし)げて問い返した。


「イェーガ閣下はまだまだお若いだろう? なんで太陽系なんかの辺境に飛ばされたんだ? (しか)も、統括武官といえば軍政官僚の役職じゃないか?【作戦の神様】とまで言われた閣下には余りにも不釣り合いじゃないか?」


 達也の問いにラインハルトは苦笑いを浮かべて肩を(すく)める。


「お前と同じだよ……前任地で頭の悪い司令官をぶん殴って左遷されたのさ」

「うっわぁぁ……《ガリュード艦隊唯一の良識派》《艦隊の良心》と言われていたあの人がねぇ……ひょっとして殴った相手は貴族様かい?」

「……御明察。部下の安全も考慮せずに、感情に任せて艦隊運用をするような阿保(アホウ)だったらしくてな……さすがに堪忍袋の緒が切れたらしい」


 今度は苦笑いした達也が大きく嘆息した。


「最近よく目立つようになってきたな……どこかで歯止めを掛けないと肝心な時に後悔する羽目になるかも知れないぞ……まあ、俺はイェーガー閣下と御一緒できるのだから文句はないが」

(かつ)ての上官とは言え、今ではおまえの方が階級は上なんだから、二人きりの時はともかく、部下の前では取り(つくろ)う位はしろよ?」


 その忠告にバツが悪そうな顔をしながらも達也は席を立った。


「おいおい。もう行くのかい? ひさしぶりに我が家にも顔を出していけば良いのに……オリヴィアやキャサリンもお前に会えるのを楽しみにしているんだぞ」

「出来ればそうしたいが、命令書には地球時間の三月一日着任厳守とあるからな。今度地球のお土産をたくさん持ってお邪魔させてもらうよ。それに、出立する前にヒルデガルド殿下の所でティグルの奴を引き取らないといけないしな」

「そうか……残念だが仕方が無いな……」


 ふたりは固い握手を交わし再会を約束する。

 そして達也は軽快な足取りで執務室を辞去した。


           ◇◆◇◆◇


 親友の背中を見送ったラインハルトは身を翻し、執務室の奥にある客間へ(つな)がる扉を開けて中に入る。

 そこには、高級な仕立服に身を包んだ老紳士が(たたず)んでおり、老人とは思えない精悍(せいかん)な顔立ち、衰えを感じさせない筋骨隆々の体躯(たいく)を持つこの紳士こそが、達也とラインハルトが尊敬するガリュード・ランズベルグ退役元帥だ。 

 彼は七聖国の一柱ランズベルグ皇国の現皇王の実兄であり、れっきとした公爵家の当主でもある。

 にも(かか)わらず、若くして継承権を放棄した挙句(あげく)、国軍の司令官職には目もくれず、銀河連邦軍の軍人になった変わり者として、部下からは絶大な信任を得ていた人物だ。


「会ってやれば良かったのではありませんか? 達也の奴も喜んだでしょうに」


 やや非難を含んだ口調のラインハルトに、ガリュードは口元を(ほころ)ばせて首を左右に振る。


「あれはお前と違って腹芸が出来ないからな。ある程度は計画が形になってからでないと色々と不都合が生じよう……それで、どうなっている?」


 意外と照れ屋で意地っ張りな(かつ)ての上官の強がりに呆れながらも、ラインハルトは質問に答えた。


「万事順調ですよ。達也の地球赴任が実現した時点でチェックメイトです。軍令部や軍政部の連中は、今回の左遷人事こそが我々の落としどころだったとは、夢にも思っていないでしょう」


 達也を前にして納得できないという顔を取り(つくろ)っていたのは、現在進行形の作戦を悟られたくなかったが(ゆえ)のお芝居に過ぎない。


赫々(かくかく)たる戦果をあげながら、不当な賞罰を(もっ)て軽んじられるという蛮行を(ゆる)していては、銀河連邦宇宙軍そのものが腐ってしまう……あいつ自身が言ったように、いずれ後悔する日が必ず来るだろう」

「そうならないためにも、達也には可能な限り早く実働部隊のトップ……航宙艦隊幕僚本部総長。並びに連合艦隊司令長官に昇り詰めて貰わねばなりません」


 達也本人が聞いていれば、『冗談じゃないっ!』と憤慨し、猛烈な抗議をするのは間違いない不穏(ふおん)な会話が続く。


「貴族閥の……それも家柄以外に誇るものがない連中が、全ての総長ポストを独占している現状を打破出来るのは、達也以外には考えられん。ラインハルトよ、最高評議会は儂とヒルデガルドの婆さんで押さえる」

「そちらは閣下にお任せいたします……主力艦五十隻と補助艦艇が三十隻。通常の半個艦隊ではありますが確保済みであります。それらの艦長達が今回の人事に対して意見具申(ぐしん)し、弾劾(だんがい)権の行使も視野に入れて白銀艦隊の結成を談判する手筈になっております」


 意見具申(ぐしん)などと穏やかな言葉を使っているが、実際は司令部に対する恫喝(どうかつ)交渉に他ならない。

 というのも軍令部は、この二年間に達也が挙げた武勲の大半を隠蔽(いんぺい)し、子飼いの現地司令官の手柄と偽って不平等な賞罰を繰り返していた。

 達也の指揮下で戦い、その不当な事実を知る上級士官達が(いきどお)るのは当然であり、だからこそ、彼らはラインハルトからの要請を(こころよ)応諾(おうだく)したのだ。


「手始めとしては妥当な線だな。下手に目立つ動きをせずに賛同者を増やしていけばいい……勿論(もちろん)、お前も行くのだろう?」

「当然です。あいつは軍務以外はからっきしの朴念仁(ぼくねんじん)ですから……服装や食事には全く無頓着(むとんちゃく)で酒の(さかな)を夕食だと言って(はばか)らない奴です……どこで野垂(のた)れ死にしても不思議はありませんので……」


 ラインハルトの身も(ふた)も無い物言いに、ガリュードも憤然とした表情で頷きながら強く賛同するしかなかった。


「全くだっ……達也の場合。戦場で戦死するよりも、栄養失調で死ぬ可能性の方が絶対に高い! どうにかならんか?」

「早く結婚して身を固めるのが最善ではありますが……本人が呑気(のんき)に構えておりますので……私の妻も折を見て見合い話を勧めるのですが……」

「うちのシアも心配していてなぁ~~」

「アナスタシア様がですか?」

「ああ。女房にとって達也は可愛い孫同然だからなぁ……まあ、シアにも何か考えがある様だから、(しばら)くは静観するしかないが……いざとなれば、儂の縁戚に当たる皇国の貴族令嬢を(めあわ)せてでも結婚させるしかあるまい」


 世話好き体質のふたりは、達也に対する愚痴を(さかな)に酒盛りを始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ。貴族なキャラっていつもそうだよね(~_~;) みんな本当の意味でのノブレス・オブリージュの精神を失っているとしか思えない。 2世3世だからか?(ォィ というか少なくともラインハル…
[一言] 2年間分の武勲を隠ぺいして現地司令官の手柄にしたとしても他の将兵は全員見ているわけだからインターネットがある世界では絶対に隠蔽は無理でしょう。
[一言] SF戦争物で有能な人材でラインハルトの名前を使用してもいいのでしょうかww 少しもじってラインホルトとかレインハルトが良かったかもww
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