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「大会へ向けて」

 ~~~三上聡みかみさとし~~~




「落ち着いてっ、お願いだから落ち着いてくださいプロデューサーさんっ」

 

 レンの必死の声で我に返った。

 

 いつの間にか、ライブハウスの外に連れ出されていた。

 路地裏の壁に押し付けられ、腹にはレンが必死にしがみついている。


「……レン、すまない」


 震えるレンの頭を撫で、正気に戻ったことを示した。


「ちょっと……いやかなりその……ホントに悪かった」


 レンは顔を上げると、潤んだ瞳で俺を見た。


「わかりますよ。わかりますけどね……わたしも、あの人のことは許せない部分がありますし……でも暴力はダメですよ。それじゃ何も解決しません。アイドルだったらやっぱり、ステージで勝負しないと」


「ステージで……?」


「そうですよ。向こうも東京都予選の西ブロックに出るんでしょう? だったらそこで戦いましょう。わたしたちが圧倒的大差で勝って、向こうを枠から蹴落としましょう」


「向こうにはソアラもリンカも、レミィもいるんだぞ?」


「こっちにだってしのぶちゃんと一恵いちえちゃんがいますから。全然負けてませんから」

 

 言い切るレンの口ぶりには、いつにない鋭さがある。


「……ふうーん、やっぱり穏やかな関係じゃないみたいだな」

「あれだけの練度のチームといったいどんな因縁があるのかしら? いつまでもふたりでコソコソしてないで、いいかげんに教えてくれません? だってもう、わたしたちはひとつのチームでしょう?」


 ふたりは口々に言い、こちらに真剣な眼差しを向けてくる。


 ううむ……。

 さすがにこんな現場を見られてしまっては、下手な言い訳は出来ないか?


「プロデューサーさん。もういいですよ。明らかにしてしまいましょう」


 躊躇する俺の肘を、レンが掴んだ。


「レン、だけど……」

「正直そろそろ、限界かなって思ってました。レンちゃんとの代わりばんこ生活には無理がありすぎます」


 レンのすすめもあって、俺は自分たちの置かれた状況を説明した。

 もちろん、笑い飛ばされるのを覚悟の上だが……。


「ふうーん……なるほどねえー……」

「ってあなた、ホントに理解してるの? ふたりが言ってるのはつまり、タイムリープしてるってことなのよ? 10年間の因縁が降り積もった3人が相対して、今しも決着をつけようって話なのよ?」

「決着をつけるってとこがわかってりゃ問題ないだろ」

「あのね、それじゃ理解の半分も……」


 仙崎と関原は案外とすんなり状況を呑み込んでくれて。


「まあー簡単に言うとあれっしょ? 見た目は子供、中身は大人ってことっしょ?」

「た、大変なことになっていたんだねえー……?」


 黒田くろだ赤根あかねも納得してくれた。

 それ自体は非常に助かる話なのだが……。


「お、おいおまえたち。そんなに簡単に納得していいのか? 自分で言うのもなんだが、もう少しこう、疑うとかだな……」


 4人は顔を見合わせると、力の抜けたような笑い声を出した。


「あのなあ、今までの自分らの行動のおかしさ、まったく気づいてなかったのか?」

「そうですよ。日ごとに性格の変わる女と、未来予知でもしてるみたいになんでも知ってるプロデューサーの組み合わせはあまりにも奇抜すぎます。それぐらいの真実があってちょうどですよ」

「いっやあー、スーパー生徒会長のスーパーの秘密がわかって良かったわー。本気で人種が違うくらいの差を感じてたからさー。同じ男としてへこむっていうかさー」

「えっとでも、スーパー自体はもともとスーパーだったわけだから……。むしろウルトラスーパーのウルトラの部分がわかったぐらいじゃないかな?」


 皆が口々に言う中、仙崎があっと思い出したように言った。


「そーだそーだ。恋本人はどう思ってんだ?」

「そうね、そっちの意見も聞きたいわね」


 レンが缶バッチを外すと、即座に恋が表層に出て来た。


「もちろん、やるからには絶対負けない! プロデューサーさんをバカにして! レンさんをいやらしい目で見て! しのぶちゃん一恵いちえちゃんのこともあざ笑った! あんなムカつく人、絶対絶対許せない!」


 拳を握り締めて力強く宣言する。

 その姿自体は実に雄々しかったのだが……。


「あっはっはっは、なんだよおまえっ。そんな仕組みかよっ?」

「ちょ、ちょっと笑っちゃ悪いわよ……ぷっ、くくくく……っ」


 缶バッチの着脱によるレンと恋の入れ替わりが滑稽に映ったのだろう、仙崎と関原が堪りかねたように笑い出した。

 

「ヤバい……ツボっ、ツボった……っ」

「だ、ダメだよ笑っちゃ……っ」


 黒田と赤根はしゃがみこんで身を震わせている。


「ってちょっとちょっとちょっと! みんなおかしいでしょ! 今すべきはそうゆーリアクションじゃないでしょ! もっとこう勢いに乗ってみんなでえいえいおー! みたいな! 一致団結、みたいな感じでしょ!? ねえ!?」


 顔を真っ赤にして怒り出す恋。


「もう! なんでよ! こんなの絶対おかしいよ!」


 そのあどけなさは俺たちに笑顔と余裕と、そして半年後に迫った大会へ向けての結束をもたらしてくれた。


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