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「K/W:ソメイヨシノの木の下で」

 ~~~神様~~~




(………………)


 しばらくの間、わたしは言葉を失っていた。

 自らの軽率な行動が招いた結果に、打ちのめされていた。


(恋ちゃん……)

「お願い、答えて」  


 どんな言い逃れも許さない。

 そんな口調で、そんな目で、恋ちゃんは言った。


(うん……)


 そうだ。

 この期に及んで、逃げ道なんてあるわけがない。


(うん……)


 わたしは腹を括って恋ちゃんに対した。 


(落ち着いて聞いてほしいの。あのね? わたしはね?)

「その話──」


 わたしの言葉を遮るように、その声は響いた。

 この世で一番好きな人の、この世で一番心地いい声が、耳に届いた。

 

「俺にも、聞かせてくれないか?」


 プロデューサーさんだ。

 プロデューサーさんが、奥庭の入り口にいた。

 ソメイヨシノに手を添えて、真剣な瞳でわたしを見ていた。

 わたしを──恋ちゃんじゃない、恋ちゃんの中にいるわたしを。


(うぅ……っ?)


 わたしは思わず詰まった。

 

 しまった。

 ここまではさすがに想定していなかった。

 恋ちゃんに話すことはあっても、プロデューサーさんにだけは言わないつもりだったのに。

 だって、それをしてしまえば……。


逃げないで(・ ・ ・ ・ ・)、神様。また体を使ってもいいから、ちゃんと答えて」


 わたしの気持ちを見透かしたかのように、恋ちゃんは言った。

 低く、気迫のこもった声だった。


「……レン。俺からも頼む」


 どこまで察しているのかはわからない。

 けれどプロデューサーさんの目は、紛れもないわたしを見ている。


 ………………ああ。

 わたしはため息をついた。

 観念して目を閉じた。

 ふたりの強硬さにはお手上げだ。

 これはもう、どうしようもない。


(わかった。借りるね、恋ちゃん)

 

 断ると、わたしは再び恋ちゃんの体を借りた。

 ほころびかけたつぼみのような年頃の、若々しい肉体を。

 かつてわたしのものでもあったそれは、熱く燃えていた。

 膝が震え、激しく心臓が鳴っていた。


「うん……」


 怖いのだろう。

 いったいわたしは何者なのか。

 プロデューサーさんは何者なのか。

 

 知ってしまえば、きっともう後へは戻れない。

 それでも知りたいと願ったのだ。

 前へと進むために、恋ちゃんは。


 だったらわたしも行くべきだ。 

 一緒に、行けるところまで。


「うん……ありがとね。恋ちゃん」


 恋ちゃんの勇気に感謝を述べると、次にわたしはプロデューサーさんを見た。


「プロデューサーさんも、ありがとうございます。わたしを探してくれて、わたしを見つけてくれて。その通りです、わたしはレン」

 

 懐かしさで、一瞬泣きそうになった。

 でも泣いたらこの場が深刻になりすぎちゃうから、わたしは口元を微かに緩ませた。

 頑張って、笑顔を作った。


「あなたと同じ、未来からやって来ました」

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