「彼女のモノローグ」
~~~高城恋~~~
『Girls,be ambitious!』が終わった直後、神様はすぐにわたしに体を返してくれた。
残りは『CHANGE!!』と『彼女のモノローグ』の2曲。
直前までの神様のパフォーマンスがあまりにもすごかったので、正直やりづらかった。
神様みたいな声を出そうとしても出せずに声が震え、時にトチった。
神様みたいなジャンプをしようとしても出来ずによろけ、時にテンポがずれた。
でも依然として、お客さんはヒートアップし続けていた。
神様が温めてくれた会場は、わたしの失敗のひとつやふたつで盛り下がるようなものじゃなかった。
最後の曲が終わると、一斉にアンコールが起こった。
もっと演れって、演ってくれって。
でもわたしたちにまったく用意は無かったし、そもそもの問題として持ち時間を消費し切っていたから出来なかった。
やがてアンコールは、万雷の拍手に変わった。
わたしたちは歓声と口笛と、たくさんの笑顔に包み込まれた。
「恋! すごいなおまえ! いったいなんだよさっきの!」
顔を真っ赤に染めて興奮した忍ちゃんに抱きしめられた。
力強い手で、何度も背中を叩かれた。
「恋ちゃん忍ちゃん! すごかったよ! わたしちょっと泣いちゃった!」
ステージの袖から赤根ちゃんが駆けて来て、力いっぱい拍手してくれた。
「恋氏ー! 恋氏ー! ふぉう! ふぉう! ふぉう! ふうううーっ!」
ステージの下から、七海ちゃんがぶんぶか手を振ってエールを送ってくれた。
「ひゅうーっ、やるじゃんふたりともっ。だが軽音部も負けねえぜえー?」
ドラムスティックをくるくると回しながら、黒田さんが声をかけてきた。
「……恋っ」
最後に声をかけてくれたのはプロデューサーさんだ。
珍しく顔を赤くしているのは、それだけ感動したという証なのだろう。
「素晴らしいステージだった。感動した」
目を潤ませながら、たくさん褒めてくれた、讃えてくれた。
それはもちろん嬉しかったんだけど、素直には喜べなかった。
むしろちょっと、後ろめたいような気持があった。
なぜなら、今日のステージを作り上げたのはわたしじゃないからだ。
本当に褒められるべきは神様であり、わたしはただのお飾りに過ぎないからだ。
「恋……なあ、教えてくれないか?」
忍ちゃんから解放されたわたしの耳元に、プロデューサーさんが口を寄せて来た。
ドキリとする間も無かった。
プロデューサーさんの形の良い唇が、驚くべき言葉を発したからだ。
「おまえやっぱり、レンなんだろ? 昔のじゃなく、未来の。俺と同じ時代から来た」
「──っ?」
一瞬、反応が出来なかった。
プロデューサーさんが何を話しているのか理解出来なかったからだ。
理解出来なかったのに……なぜだろう、その言葉はザクリとわたしの胸に突き刺さった。
わたしの中の柔らかい部分を、深々と抉った。
そして……。
「……レン、どうした?」
「おいなんだよ。あたし、そんなに強く叩いてたか?」
「恋ちゃん……泣いてるの?」
口々に指摘され、初めて気づいた。
そうだ──わたしはその時、泣いていたのだ。
意味不明な、しかし揺るがしがたい絶望に打たれ、泣いていたのだ。




