第5話 F-35BJ
国防海軍は、世界でも最も優秀な海軍として評される。人材に装備のみならず、太平洋は広大な訓練海域だ。
第5海防戦隊は訓練航海を続け、数日の後に訓練海域へ到着した。母港を出航してからこれまでに幾つかの訓練状況が発生した。主に各艦の被弾時におけるダメージコントロールや負傷者発生時の応急処置、指揮系統を通じた報告など。
そして、いよいよ大掛かりな訓練が始まる。戦隊司令官の号令の下、各海防艦が運動を起こし、水上艦の陣形が変形した。『ふそう』を中心として周辺に汎用海防艦が並び、先頭に『たかお』が着く。
艦隊は風上に向いて進んでいる。各艦の艦載機が甲板に姿を見せ、発艦の準備を始めた。最初に上がったのは哨戒ヘリだった。
海防艦から、SH-60Kが飛び立つ。機は艦隊の周辺の海面に付き対潜哨戒訓練を行う。
『ふそう』の飛行甲板にも複数のF-35BJが揃い、発艦が始まろうとしていた。一機が艦橋の航空管制と誘導員に先導され発進位置に着く。
搭乗するパイロットの豊浦歩少佐の目の前には、滑走路の先に12度に上がったスキージャンプ台がある。発艦準備にかかるF-35BJは、胴体中央に備えられたリフトファンを稼働させるため、胴体上下の扉が開き、V/STOL用のF135ジェットエンジンの噴射口が下方に向いた。
管制の発艦許可が下り、エンジンの出力を上げた。轟音を響かせる機体は前へと進み、ジャンプ台を跳び空中に飛翔する。一番機が飛び立って、待機していた二番機が位置に着き発艦する。
「彼らの様に空に上がりたと思うか?」
久松は双眼鏡から飛行する戦闘機部隊を見る艦長に尋ねた。
「衝動に駆られる時があります」
石橋は答えた。パイロットとしての寿命は30歳代が平均的だ。彼も例外でなく、中佐時には30代後半で飛行隊長となり、2年目の職務の交替に伴い第一線勤務から退く事となる。しかし、彼の技能と能力から優秀なパイロットたちが集う飛行教導群への転属の噂も流れた。ところが、統合参謀本部勤務の辞令が届き、所在地の東京の市ケ谷へ向かい程なくアメリカ留学の辞令が下る。
飛行隊長の時から、新型DDV艦長候補生の話が掛けられていた。戦闘機隊長から空母艦長への魅力に駆られ、候補生に希望した。
豊浦少佐は、空軍のテランパイロットの一人だ。『ふそう』就役前には、アメリカで強襲揚陸艦を用いた離着艦訓練を行っている。洋上に浮かぶ艦隊は針のように細い。その中でも空母は例えるなら切手だ。
発進した2機編成は、空中哨戒任務で艦隊周辺を飛行した。翼下には、増槽と空対空ミサイルを搭載している。ステルス性を落としても長い滞空時間と戦闘能力は、弱点を埋めるのに十分だった。
F-35戦闘機は、国防空軍の次期戦闘機として採用され、陸上機タイプのA型をF-35JとしてF-4EJ改戦闘機部隊に配備し、艦載機タイプのB型をF-35BJとして新設の空母飛行群に配備された。機体は一部の電子機器を除いて殆どがアメリカ仕様に準じている。
短距離空対空ミサイルAIM-9【Sidewinder】に視程外射程空対空ミサイルAIM-120【AMRAAM】の空対空ミサイルの他、国産の空対艦ミサイルASM-3、空対地兵装にJDAM誘導爆弾を加え、AGM-65【Maverick】などの多様な兵器を日本仕様も運用を可能とする。これが一昔ならばF-35の導入を巡って国会で議論され、様々な制限を加えられていただろう。
戦後の歴代戦闘機では、F-104JやF-4EJは必要以上の機能は周辺国への脅威となる理由から対地攻撃能力と空中給油機能が外された。しかし、F-15Jの導入する時期には国防を取り巻く情勢が変化しており滞空時間延長による効率的な運用が求められ空中給油機能はそのまま残されている。
F-2戦闘機の導入する時勢には、各国は多用途戦闘機の導入を進めており、国防空軍も次期戦闘機に対艦及び対地攻撃兵装を運用可能することによって仮想敵国に対する抑止力になると主張され、日米共同開発によって誕生したF-2には、初の本格的な対地攻撃兵装の運用が可能となった。
次の哨戒機部隊が『ふそう』から発艦した。一時間ほどの飛行を行った豊浦の部隊は、『ふそう』の航空管制の指示に従い着艦する。機体胴体のリフトファンから強力な風力をもの凄い轟音で響かせ飛行甲版に垂直に着地した。
待機スポットに機体を誘導される。キャノピーが開き、豊浦は頭に被るヘルメットを脱いだ。潮風が涼しく感じるが、湿度も高くフライトスーツに籠った体温が背中に汗を流すのを感じた。
ふと、艦橋後部の航空管制室を見上げると、千草大佐が親指を立てていた。豊浦も親指を立てて飛行終了を合図した。




