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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
62/81

ep.60 王都平原の戦い(中)




 開戦の火蓋は、松明の炎とともに断ち切られた。

 夜の帳は落ちきって、暗がりに炎が無数に点る。平原の戦いが始まった。

 中央からぶつかり合うような総力戦は、8000の兵を持つ王都軍側が有利なのは間違いがない。

 それに加えて地面も微妙に傾いており、やや下り坂の王都兵は勢い的にも美味いと言えた。

 ぶつかり合うまで残りわずか。周囲では既に矢が飛び交い、倒れ伏す兵も少なくない。

 喚声は高鳴り平原を包み。周囲の山々に反響して唸りをあげる。


「っしゃあ!!」


 軍馬を駆り先陣を切る鉢巻の男の存在感は、新興国軍の中にあって随一だった。

 振りあげた長剣が、輝きとともに風圧を纏い、無理矢理に地面へと叩きつけられた。

 瞬間爆ぜる大地は、亀裂を走らせながら王都軍を蹴散らしていく。

 先鋒がいとも簡単に瓦解した王都軍の、傷口を抉るように新興国軍が突貫を敢行、一気に錐行陣が王都軍の戦列を叩き割った。


 突然の攻撃に混乱を隠せない王都軍だが、それ以降の攻撃に鉢巻男の姿は無い。

 ならばと、突き進む新興国軍の先端に、何かが穿たれた。


「……ルーが出張って来たか」


 新興国軍後方で、逐一伝達を受けていた竜基は呟いた。

 ルーの存在位置を把握する為、ただそれだけの為にガイアスを使い、基本的には防衛中心の戦闘展開を行う。

 これが今回の平原の戦、その要であった。


 平原での戦は数がものを言う。魔剣使いが居るからこそその常識は覆すことが可能だろうが、やっかいなのは相手の魔剣使いが"暗殺専門"というところだった。

 つまるところ、下手を打てば消されるのだ。この戦いで、相手にはまだ最後の防衛地点が残っている。

 だが逆にこちらは一度の敗北が命取りだ。

 そしてその肝は五千からなる本隊ではなく、アリサという首魁と、魔剣使い二枚。

 暗殺専門の魔剣使いと対峙して、ガイアスはともかくライカに勝ち目があるとは思えなかった。

 そして魔剣使いはこんなところで失っていい戦力ではない。アリサに至っては言うまでもない。


「……いや、策は弄した。万全だ、問題ない……あとは」


 竜基は考える。

 この戦、勝利条件はそろっている。後はいかにして被害を出さずに勝利するか。


「仕上げだ、ファリン」

「はい」


 どこからともなく現れた少女に、竜基は二言三言告げる。

 すると彼女は小さくうなづいて、掻き消えるようにどこかへと去った。

 これで、この戦の勝利条件は整った。


 大丈夫。そう思っていても、油断などとてもではないが出来ない。

 竜基が竜基だからこそ、その気持ちは消えやしない。


 見上げた空は暗く、しかし星々が平原を照らし出していた。

 雨は止んだ、空気も湿り気は抜けてきた。


 後は、行動あるのみだ。


「銅鑼を鳴らせ、陣形を別展開せよ!」


 竜基の指令に従って、盛大に鳴らされる指令の合図。

 前方の形が目に見えて変わっていくのは、これまでにクサカやガイアスたちが仕込んだ訓練のたまものか。


 アリサ軍の本隊が動くと、それにあわせるように、練度こそ追いつかないものの丁寧に右翼左翼も形を変えていく。

 三角形だった陣形が、横長の長方形へと変わっていくのだ。


「……ルーの位置を把握する為の陣形だったって訳?」

「魔剣使いが居る戦と、そうでない戦とでは戦略が大幅に異なってくる。既存の兵法では下策とされているものが、上策だったりするから厄介なんだ」


 魔剣使い。

 それそのものが一つの戦術にまでなるその一人一人を考察し、どうすれば勝利に導けるのか考えなくてはならないこの状況。


 だから竜基は考えることをやめなかった。

 勝利が確定しているのは、あくまで既存の兵法によって、既存の戦術に乗っ取ってのこと。

 暗殺専門の魔剣使いが相手に居るそのこと事態が、どれほど厄介であるかをわかっているからだった。


「でも、暗殺専門の魔剣使いが相手に居るのにガイアスを繰り出すって危険なんじゃ……」

「そうだね。だけど、向こうも知っているんだよ」

「なにを?」

「もう一人、魔剣使いが居ることを。そして、俺たちが"ルーという魔剣使いを知っている"ということも」

「どういうこと?」


 疑問符を浮かべるアリサに対し、竜基は小さな声で解説を始めるのだった。















「ルー殿!」


 戦場のまっただ中に居て、ルー・サザーランドは伝令の声に振り向いた。

 敵を斬り続け、針をとばして蹂躙しながらなおも攻撃の手はゆるめることがない。

 だが、それはルーが最初に打ち合わせで決めた行動とは異なっていた。

 それを疑問に思った副官の、伝令がやってきていたのだ。


「ルー殿は本陣のナグモ・リューキを暗殺するのではなかったのですか!?」

「……そのはずだったがな、読みが外れた」

「読み?」

「アリサ軍は失うものが無い。ならば全力で落としにかかってくるだろうと思っていた。魔剣使い二枚は必ず居る。だからこそ、大挙して押し寄せてくるだろうとな」


 次々に針が新興国軍の敵を穿つ。上る悲鳴に気圧されて、逃亡兵は続出する。

 その中で淡々と、ルーは言葉を続ける。


「おそらく相手は、私のことを知っている。細かいことは知らずとも、隠密を得意とすることくらいはな。……王都へと向かう意志よりも、奴らは保身を優先した。それだけのことだ。……ならばエリザ様の命令通り、兵を削ぐことを優先するしかないだろう」

「保身……?」

「なぜ魔剣使いが一枚しか見えないのだと思う?」

「それは……! 貴方のことを知っているなら、首脳の護衛に?」

「そういうことだ。ならば私はそれを逆手に取り、第一の優先事項、兵力の削減に力を尽くすまで」


 もう一人の魔剣使いさえ見えていれば、ルーはすぐにでもナグモ・リューキを殺しに行くつもりだった。

 だが、状況は異なった。

 魔剣使いの姿は片方しか見えず、そうとなればルーが向かってもナグモ・リューキの暗殺まで時間がかかるだろう。

 そうすると魔剣使いを擁さない自軍が敗北するのは目に見えている。大した兵力も削れずに。


 ナグモリューキの暗殺より、兵力を削ることが最優先。


 ならば、次点である暗殺はあきらめるしかないだろう。


「そういうことでしたか……!」

「全軍に号令だ、攻め上がれ!」

「はっ!」


 副官に命じ、振り返った時だった。


 ルーは、息を飲んだ。


 暗くなった今では見え辛くとも、ことルーの目にははっきり見える。


 背後の、山。


 トルネ山にあがる、火の手。


 唯一の山、防衛地点には、自軍の兵糧が保存されている。


 雨上がりでこの湿気の残る中、火計を行うのは難しい。兵糧に直接火をつけるにしろ、山ごと燃やすにしろ、ふつうは出来たものではない。


 五千の兵しか居ないと聞いた。そして、今回の総力戦に、相手の兵が少ないという報告も無かった。


 ならば。


 寡兵で、堅く守られた兵糧庫に火をつけるにしろ。

 雨上がりで山に火をつけるにしろ。


 よほどの力を持つ人間が居ない限り、無理がある。


 背筋が凍る。


 この場に魔剣使いが居なかったのは、防衛の為では無く。


 兵糧庫を焼かせる為だったとでも言うのか……!!


「…………のれ」


 ぽつり、言葉が漏れた。

 寒気立つほどの殺気が、ルー・サザーランドからあふれ出す。


「おのれえええええ!! ナグモ・リューキイイイイイイ!!!!」

「ご注進!! と、トルネ山に火の手が!」

「うるさい!!!」

「ぎゃっ!?」


 報告に来た兵士の喉元に針を一閃。

 もうどうでもいい。

 もう許さない。


 風の魔剣使いが居たということは、今の本陣は魔剣使いなど居ないのだろう?


 なら……兵糧なしで戦が出来ない以上……殺してやる……!


「おい……」

「はっ……!」


 焦燥と恐怖に顔を青くした副官の使者は、まだそこに居た。

 怒りを湛えた視線で彼をにらむと、言葉を告げる。


「トルネ山の兵糧を確認し、長期戦を不可能だと思ったら突撃をかませ。全軍でもって死力を尽くし、アリサ軍を少しでも殺せ」

「は、は……しかし、兵糧が無いなら撤退戦を」

「黙って従え。殺すぞ」

「は!」


 使者が慌てたように戻って行った、それを確認したルーは、矢のように飛び出した。

 向かう先は前方。……敵の本陣だ。


 殺意のままに、彼は自らの魔剣をそっと撫でて跳躍した。


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