第1話 追放令嬢と山間の村
アルミナ・フェルヴァトは、夕暮れの王都の空を見上げながら、静かに涙をこぼしていた。
「女だから、魔法学院には入れない……?」
噂も、嫉妬も、誤解も、すべてが重なった果てに、ついに家を追放されたのだ。
重い荷物を背負い、馬車で王都を後にする。目指すのは、母方の故郷に近い、ひっそりとした山間の村。そこには、幼いころに母から聞いた古い魔薬の伝承があった。
村に着くと、空気は澄み、木々は緑に輝いていた。だが、歓迎してくれる人は誰もいない。
「やっと来たのか……」
出迎えたのは、村の老人で草薬師のランデル。彼の手には、色とりどりの薬草が握られていた。
「君がアルミナか。噂は聞いた。王都の追放令嬢だそうだな」
「……はい。これからどうしたらいいかもわかりません」
アルミナの声はか細い。しかし、瞳の奥にはわずかに決意の光が宿っていた。
ランデルはにっこり笑う。
「大丈夫だ、ここでは君の性別や家柄は関係ない。薬草と魔薬を学び、村人を癒せばいい」
そして、アルミナの手に最初の薬草を握らせた。
その夜、星空を見上げながら、アルミナは思う。
「追放されたけれど、私はまだ何かできる……母の異血の力を、私なりに生かすことが」
翌日から、アルミナは薬草の採取と魔薬の調合を学ぶ日々を送った。
最初は小さな怪我や熱に効く薬から始め、やがて魔法病に苦しむ村人のための特殊な調合に挑戦する。
ある日、村の青年ルードが鍛冶場から駆けつける。
「アルミナさん、大変です!村長の息子が魔法病で苦しんでます!」
アルミナは薬袋を抱え、ルードとともに村の家へ走る。
そして、異血の知識と薬草の力で、初めての人命救助に成功する。
薬を差し出すアルミナに、村人は涙を浮かべながら感謝する。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
アルミナは心の中で小さくつぶやく。
「これから、私はこの力で、もっと多くの人を癒してみせる……」
こうして、追放令嬢アルミナの、草薬師としての第一歩が始まった――。




