⑰討伐開始
ハンス達と別行動を取るエドとアーヴィン、そしてキャロンの三人は分散した場所からワイバーンの巣を探しに歩き始めたが、
「……歩き回って時間を無駄にするより、さっさと巣を見つけましょ!」
「そりゃそうだが、どうやって?」
「勿論、精霊達に聞いてみるのよ」
キャロンはそう言うと二人に周囲の警戒を頼み、精霊に巣の在処を尋ねる事にした。先ず、周囲の木々や流れる風に含まれる精霊の気配を探り、彼女が強く感じる属性の霊気の元を調べる。
眼を閉じて全身に触れる霊気の大半は、寡黙で声を潜めがちな木の精霊達。彼等の霊気は気が静まり穏やかにさせてくれるが、今はそんな気分にはなれない。
木の精霊の霊気から意識を離すと、直ぐに自己主張の強い精霊の霊気がキャロンの周囲で渦巻き、彼女の気を引くように自分から姿を現した。無論、様々な霊気が混在する森の中では、言葉を介して意志疎通出来る上位精霊が現れる筈も無く、大半は無邪気に宙をクルクルと回りながら舞うシルフである。
シルフや木の精霊達はキャロンに対して、敵意は一切無い。あくまでも傍観者の立場でしかない彼女に対して、精霊達の反応は穏やかである。だが、そんなキャロンの前に突如現れた精霊は全く違う反応だった。
(……ワイバーン、キライ!! オレタチノスキナトコ、ウバッタ!!)
彼女の目の前に姿を現したサラマンダーは、そののっぺりとした愛嬌のあるトカゲのような見た目に反し、怒りを露にしながら盛んに火の息を吐き、尻尾を振り回しながら訴えてきた。
(……何かあったの?)
(……ワイバーン、アッタカイトコスキ、ダカラヤッテキタ……)
(……じゃあ、私達がワイバーンを追い出してあげるわよ?)
(……ホント?)
(ええ、だから案内してくれない?)
(……ワカッタ!)
サラマンダーは彼女の思念に答えると小さな火の玉に姿を変え、キャロンの肩の上にポンと飛び乗った。
「熱くないのか?」
「ん~、ちょっとだけ熱いけど平気。この子が居場所まで案内してくれるって」
「便利なもんだなぁ……」
エドに答えながらキャロンがサラマンダーの化身に指先を向けると、ひょいっと飛び移り行き先を示しながら先導し始めた。
「おーい、クラウツ! この辺りで良いのか?」
「ああ、土も柔らかいしここで良さそうだな……」
キャロン達から一転し、その頃ハンス達はワイバーン対策の為に仕掛けを施した場所で、また新たな何かを講じていた。彼等は地面に手を当てて確かめるとシャベルを当て、ざくざくと土を砕いて掘り始める。二人は暫く地面を掘り続け、やがて人一人が横たわれる広さの溝を作った。
「ハンスさん、こんな所に穴を掘ってどうするんですか?」
「……これかい? うーん、エレナさんに上手く説明するのは難しいんだが……」
エレナがその穴に興味を示すと、ハンスはそう言いながら持ってきた布を穴の内側に被せ、その縁に石を載せて固定してから新たな布で蓋をし、枯れ草や土で目立たないように細工をする。
「……もしかして、落とし穴?」
「いや、空を飛ぶワイバーンが落ちないでしょ……それに狭過ぎるから!」
エレナとチェモリが当て合いに興じる中、ハンス達は偽装を済ませ離れた場所から眺め、出来を確かめるとまた違う場所に穴を掘り、同じように布を被せる。そうして何ヵ所も穴を掘っては隠してを繰り返し、辺り一面に施し終えたハンスとイワノフは、
「まあ、こんなもんだな」
「全く、こんな所でタコツボ掘りする羽目になるとはなぁ~」
そんな事を言い合いながら、エレナとチェモリに後は待つだけだと告げて適当な場所に座り込んだ。
「ところでさぁ~、ハンスさんはどうやってワイバーンをここに誘導するつもりなの?」
「……ん? ああ、それは例のアレを揚げてエド達に任せるさ」
そう言ってロープの先に括り付けられた皮袋を指差し、彼等ならきっと上手く見つけてくれるからと言う。そんなハンスにチェモリは、
「まぁ~、三人共良い腕してるし信頼するのは当然よね!」
そう同意しながら立ち上がり、イワノフの方に近付こうとスカートの端を手で払って砂を落としてから、
「……でも、どうやってワイバーンを誘き寄せるつもりなのぉ?」
と、至極当然の疑問をぶつけてくる。その問いにハンスが即答するも、
「んん、そうだなぁ……エド達がきっと上手く追い込んでくれるんじゃないか?」
そう返すハンスに、チェモリは半笑いの微妙な表情を浮かべるしかなかった。
サラマンダーの化身に導かれてキャロン達が辿り着いたそこは、なだらかな丘陵地帯の窪地。その片隅にぽっかりと口を開いた洞穴が現れ、案内役のサラマンダーはキャロンの手の上でくるくると回りながら、
(……ココ! ワイバーン、ココ!)
と興奮気味に伝える。キャロンは道案内を終えたサラマンダーに戻るよう促すが、
(……ワイバーン、オイダス、テツダウ!!)
そう訴えてキャロンから離れようとしない。
「そんなに言うなら……お願いするわ、宜しくね!」
(……ガンバル!!)
礼を述べながらキャロンが魔力を少し与えると、サラマンダーはボワッと丸く膨らみ、元のトカゲの姿に戻りながら手の上から飛び降り、彼女の足元でぶるっと身体を震わせた。
「……さて、それじゃ巣の中がどうなってるか……見に行ってみよう」
新しい仲間(?)を加えたエドとアーヴィンは各々の武器を手に取ると、暗闇に包まれた洞穴の中へと足音を忍ばせながら入って行く。
(……サラマンダーが居るお陰で、まっ暗闇じゃないな……)
その小さな光源でも十分過ぎる明るさの中、三人は巣に繋がる洞穴を進んでいく。足元はワイバーンが歩いて均らされたからか、尖った岩や石は見当たらない。静かに一歩一歩確かめるようにエド達が進んでいくと、前方に日の光が射し込む空間が見える。
(……どうやら地上に繋がる縦穴が有るみたいだな)
(……このまま進んでもいいがハンス達と合流した方が……)
エドとアーヴィンが小声で囁きながら様子を窺う中、キャロンはサラマンダーが落ち着き無さげに足踏みし始め、しきりに彼女の顔を見上げているのに気付く。
(……どうかしたの?)
(……コノサキ、オオキナワイバーン、イル……)
それが群れのリーダーだと理解した時、前方の空間から大きな獣が鳴き声を上げ、次第に騒がしくなる様子が聞こえてきた。
(……入り口まで戻って、巣の中に煙でも送り込むか?)
(そうだな……それでワイバーンが動き出せば、こちらも対処し易くなるかもしれん)
エドとアーヴィンはそう決めてキャロンと共に洞穴を戻り、入り口の周りで木の枝や枯れ草を集めて積み上げてから、
「……じゃあ、思いっきり派手にお願い!!」
(……ワカッタ!!)
キャロンがそう頼むと、サラマンダーの身体が一段と大きく膨らみ、口先を尖らせながら青白い炎を一直線に吹き出した。
キュゴッ!! と膨大な熱量を迸らせながら吹き出したブレスで枯れた草木に火が着くと、キャロンが追い打ちを掛けるように風の精霊に懇願し旋風を洞穴の中に送り込む。
「……これで動き出すといいが……おっ!?」
そうアーヴィンが呟くのと同時に、洞穴の少し先の盛り上がった丘の真ん中が爆発したように飛び散った。そして丘の上空に向かって煙と共にワイバーンが次々と飛び出し、最後に一際大きいワイバーンが現れ、上空でグルグルと旋回しながら待ち受ける群れに合流していく。
「さて……ここからが本番だな……」
「エド! これからどうするの!?」
魔力を使い火の玉の形に戻ったサラマンダーを肩に乗せたキャロンが尋ねると、エドはコキリと首を鳴らしながら回し、
「そうだな……一先ず、走るか!!」
ワイバーンの一頭が彼等を見つけ、上空から舞い降りてくる姿を確認しながら剣を鞘に収め、そう叫びながら林に向かって走り出した。




