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【進め!異世界!!戦車人間(タンクマン)!!】~元ドイツ陸軍戦車兵の転生先はひよっ子ビーストテイマーの使役獣?~  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章・ハンスと仲間達

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⑩家出息子の凱旋



 最早、初回の剣合は遥か彼方へと消え、エドの木剣は人が操る速さの限界に到達していた。本来ならば剣の腹と腹で打ち合い、相手を力や技で圧倒すれば勝負が決まる。だが、リグレット翁の打ち込みを往なしながら返しの打ち込みへと繋げる動作は省略され、最大限の回転速度を与えられた剣が次々とリグレット翁へと襲い掛かる。


 だが、リグレット翁も体力の差を熟知しているからこそ、エドと真正面から打ち合う事は望んでいない。相手の裏を読み小さく歩を進めながら間合いを崩し、エドの振りより内側に身を置き、木剣ならではの軸を回すような近距離からの打撃へと移行する。


 呼吸を乱されぬよう同じ間隔を維持し剣を振るエドに対し、リグレット翁は木剣の真ん中に掌を添えて、相手の急所を突く小さな動きで反撃を続ける。やがて互いの速度が均衡し剣を重ねる瞬間だけ、剣と剣が止まって見える状況が僅かに続いた後、


 「……年寄りに、無茶をさせるのぅ……」


 そう呟きながらリグレット翁が距離を取り、追撃を妨げる斜め下からの斬り上げでエドを牽制する。


 「……リグ爺の嘘つきは、相変わらずじゃないですか?」


 その剣を跳び退いて避け、エドは肩の上に木剣を載せながら渋い顔を見せる。リグレット翁の打ち込みを防ぎ続けていた彼の木剣は鍔が折れ、先の尖った木の棒と化していたが、それはリグレット翁の木剣も同じであった。


 「剣の痛みも激しいからの、替えても良いのじゃぞ?」

 「それはお互い様ですよ。それに……戦場で剣が折れたら敗けだと教えたのは、リグ爺じゃないですか」


 そう二人は言い合いながらエドは木剣を構え、リグレット翁はヒビが入って折れかけていた鍔を自らの手で折り取った。


 「……な、何なんですかあの二人! 速くて全然見えませんよ!?」


 決して常人より劣ってはいないハンスの視力でも、二人の打ち合いは辛うじて見える程度。そんな彼の呟きにラクエルの方はと言えば、二人の勝負は見飽きたとばかりにハンスの方を向きながら話し続ける。


 「ええ、そんなの当たり前ですよ。リハレス家の剣技の真髄は……あ、ハンスさんは魔導の知識はありますか」


 話題を変えながらそう質問するラクエルに、ハンスは首を振りながら答える。


 「いえ、そんなに詳しくは……ただ、女性は魔導が使えて男性は使えない、その程度しか知りません」

 「それで十分です。私も深く学べば魔導が扱えるかもしれませんが、男性は全く使えません。専門的な知識はともかく、それが通説になっています」


 ラクエルが通説、と言った時、向き合っていたエドとリグレット翁の方から一際高い圧力が押し寄せる。


 「……但し、男性に魔力が無い訳ではないのです。魔導を使う為に必要な()()が限り無く細い上に、魔力を溜める器が小さいので……大半の男性は一切の魔導が使えないのです」

 「それでは……リハレス家の人達は違うと?」


 ハンスの言葉にラクエルは首を横に振り、


 「いえ、伯父も弟も魔導は使えません。但し、ご覧のように並みの剣士とは比べ物にならない素質と才能……そして、類い希な身体能力から見て、リハレスの血を継ぐ者は他の男性と何かが違うのでしょう」


 そう彼女が話している最中も二人の打ち合いは続き、そのタフさがラクエルの言葉を裏付けていく。


 「……埒が明かんのぅ」

 「……降参すれば、終わりますって」

 「お主がじゃろ?」

 「……誰がするもんか!!」


 木剣の先はとうに丸まり、平たかった形状も棒そのものに成り果てながら、二人の打ち合いは止まらない。だが、周囲の観衆が止めに入ろうかと思案し始めたその時、


 「……のう、エドよ」

 「……降参しますか?」

 「……違うぞ。お主、ハンス殿の本気の打ち込みを往なしてみせぬか」


 「……何だって?」


 唐突にそう切り出したリグレット翁に、エドの手が止まる。無論、突然槍玉に上げられたハンスも同様である。


 「……お主が頭角を現せんのは、まだおのれの立ち位置が判らんからじゃないか?」


 諭すように話すリグレット翁に、エドは無言のまま否定も肯定もしない。


 「……ハンス殿、良ければ不祥の孫を相手に一手、打ち込んでくださらんか」

 「それはいいですが……」


 そう言いながら木剣を取ろうとするハンスに、リグレット翁は首を振る。


 「いや、それではない。儂にまだ見せておらん手があろう?」

 「……えっ? あ……そ、それは……」


 まさか、とハンスが声を詰まらせながら目を剥くと、リグレット翁はにたりと笑いながら、


 「うむ……お主の、隠しておる奥の手の方じゃよ」


 彼の思いを見透かすように頷いた。





 「……ほほぅ、噂には聞いておったが……」

 「あまり、見ないで貰えませんか……」


 ハンスが【鋼の虎】の姿になると、リグレット翁を始め居合わせた人々が興味津々で眺め、羞恥心からハンスが身悶えする。無論、彼の動きに合わせて縮小された88ミリ砲もブンブンと左右に揺れるのだが。


 「……何というか……ご立派ですね」

 「いやっ、そこは褒めんでくれませんかね!?」


 エドが何気無く言うと、ハンスが狼狽える為、周囲の男性陣から微妙な半笑いが起きる。当然だが、女性陣の大半は更に微妙な反応である。


 「さて……それではエドよ、その木剣でハンス殿の攻撃を跳ね返せ」

 「リグレットさん……やっぱり止めませんか?」

 「何を言うか、ハンス殿。我がリハレス家に名を連ねる限り、いずれ己の限界を越えねばならぬ日が訪れるのじゃ」

 「……下手すると、今日で最後の日になると思うんですが」


 エドと距離を離してハンスが位置に付き、傍らで待機するリグレット翁に何度も提案するが、当然のように退けられる。


 「さぁ! ハンスさん全力で!!」

 「ほれ、エドもそう言ってるぞ?」

 「……どうなっても知りませんよ!?」


 遂にハンスも諦め、それなら出来る限りエドが無事で終わるよう、弾種を通常徹甲弾に決めて狙いを定める。しかし、受け手のエドはあろうことか真正面の位置、しかも腰を落とし右手は順手、左手は逆手で横薙ぎの構えを取って待機しているのだ。脳筋、ここに極まれり、である……。


 「……では、行きます! ……情け無用!! 【正面射(フォイヤー)】!!」


 もう、どうにでもなれと破れかぶれになりながら、ハンスは【鋼の虎】の砲門を開いた。




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