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【進め!異世界!!戦車人間(タンクマン)!!】~元ドイツ陸軍戦車兵の転生先はひよっ子ビーストテイマーの使役獣?~  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章・ハンスと仲間達

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⑥初めての剣術




 ベッドに横になり自室の天井を眺めながら、ハンスは今日起きた事を思い出していた。


 大金槌を振るい、88ミリ砲を射って魔物の群れを駆逐した。それ自体はともかく、問題は自分の記憶が途切れ途切れだと言う事である。


 超常の力を扱える事は、常人のハンスからすれば実に好ましい。だが、身体に心が付いていかないと言う事は、一歩間違えれば罪の無い者を殺め取り返しのつかぬ事態を招きかねない。


 今回はエレナが止めに入り、事なきを得た。しかし、次は果たしてどうなのか。


 そう思うだけで言い知れぬ不安が胸中を(よぎ)り、居ても立ってもいられなくなったハンスは、ベッドから起き上がるとアルベルナの宿舎から外に出て、そのまま通りの雑踏へ紛れて行った。




 「おい、クラウツ!! ……って、居ねぇのか?」


 相部屋のイワノフが扉を開けて中を覗くと、ハンスの姿は見当たらない。先程まで人が居たとおぼしきベッドの上は()抜けの殻。勿論、書き置きのような気の利いた物も無く、イワノフはフンと鼻を慣らしてから扉を閉め、つまらなそうに呟いた。


 「……んだよ、折角祝ってやろうって思ってたのによ……つまんねぇ」




 ハンスは暫く雑踏の中を進み、当て所無く彷徨(さまよ)っていたが、見慣れぬ一軒の平屋の建物の前で立ち止まった。そこは両開きの扉が開け放たれ、誰でも自由に中の様子を見る事が出来るようだ。


 「……剣、指南所……? だよな、この看板」


 その建物の上に看板が掲げられていて、現地の流麗な文字でそう書かれている。無論、剣術など全く知識の持たぬハンスがそれ以上の興味を抱く道理は無い。そのまま通りに戻ろうとした刹那、


 「おや、こちらにご興味がありますか?」

 「は、はぁ……まあ、そうなんですが……」


 中から不意に顔を覗かせた老人と目が合ってしまい、何となく答えてみたものの、そこでハンスは気付いた。


 開け放たれた扉の向こうに、人の気配は無かった。ならば、この老人は一体何処でハンスの来訪に気が付いたのか? と。


 「見学ですか、それなら直ぐ支度いたしますよ? さ、さ、中へどうぞ」


 しかしハンスに熟考の(いとま)を与えぬまま、老人は彼の手を掴むと中へと引き込んでしまった。





 剣指南所、と言われてどんな場所なのかと思っていたハンスだが、板敷きの広い空間に木剣が幾本か立て掛けられ、それ以外は何も無いように見え、少し落胆してしまう。


 だが、殺風景な指南所の中に唯一、光を放つように輝く見事な甲冑が一揃え上座に鎮座し、睨みを効かせるように置かれていた。


 「……あれは、あなたの鎧ですか?」

 「うむ、もう着られんが……いや、鎧だけでなく、昔は軽々と持ち上げられた剣も、今は重くて骨が折れる……」


 そう言うと老人はハンスに木剣を差し出しながら、


 「しかし、興味を持った若者を追い返す程、耄碌(もうろく)はしとらんのでな。一つ、手合わせしてみるかね?」


 そして自らも使い込まれて先の丸くなった木剣を片手で握ると、ハンスに向かって手招きする。


 (いや、流石にご老人相手に力技で立ち合うのは……しかし、)


 ハンスは心の中で躊躇しながら、相反する()()()()を抱いてもいた。老境の元騎士に手解きを受けるなど、まるで幼少期に読んだ騎士物語の絵本の世界そのものではないか、と。





 「ほれ、お主一回死んどるぞ?」


 すーっ、と紙の表面に切っ先を当てて引き切るかのように、ハンスの身体の正中線を断つ一閃が見事に決まった。しかも、既に何度も、である。


 一回目の手合わせの際、ハンスは相手がかなりの高齢だと思い、出来る限り力を入れぬよう細心の注意を払いながら剣を持った。


 そして、ゆったりとした足捌きで近付く老人に遠慮しながら打ち込んだ結果、彼の手の甲に木剣がピタリと添えられていた。


 「あっ? えっ……あ、参りました……」


 ハンスは正直に負けを認めはしたものの、思考が全く追い付かない。そもそも、自分から打ち込んだ筈なのに、相手は避ける動きもしていなかった上、気付いた時には木剣がハンスの身体に触れていたのである。


 「うむ、素直な事はとても大事だが……まだ剣そのものに慣れておらんのを、受け入れるべきじゃな……」


 老人はそう言うと、ハンスにもう一度同じように打ち込んできなさいと促した。


 再び、ハンスが前に出る。今度は先程より力強く一歩踏み出し、足の裏で床の感触を確かめながら速さへと繋げる。それは、禁じていた力技の解放だったのだが、


 「……まだまだじゃな」


 するりと老人の切っ先がハンスの木剣を巧みに受け流し、絡め取られた木剣が床の上に落下する。


 そんなやり取りを何度も何度も繰り返され、漸くハンスに()()()()が全てを凌駕している事を悟らせた。


 「のう、名前をまだ聞いておらんな」

 「はい……ハンス・ウェルナーと言います。自分は……」

 「よい、よい。肩書きは要らんでな。儂は只の老いぼれじゃし、ハンス殿は()()()()()殿じゃ」


 そう告げると老人は愉しそうに微笑み、自らの名を告げた。



 「……儂はリグレット、昔は城付きの騎士だったが、今は子供相手に剣術指南をしとるが、只の年寄りじゃよ」


 リハレス・リグレット。


 中央都市元騎士団長、そして元筆頭剣術指南役として長く名を馳せた国一番の剣の達人と、使役獣ハンスとの初顔合わせだった。




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