⑬田舎娘も着飾れば
「……これ、派手過ぎますよ絶対……それに私、ただの村娘なんですよ!?」
ハンスとイワノフに挟まれながら、幾度もそう繰り返すエレナだったが、
「エレナさん、君は若い女性なんだ。ただ動き易いだけの格好も良いが、時には相応しい服装に身を包む事も大切なんだ」
「村娘ねぇ……そんな事はわざわざ言わなきゃ、誰も判りゃしねぇと思うぜ?」
「……そうでしょうか……?」
二人の意見に返す言葉を失った彼女は困惑した表情のまま、長い丈のスカートに四苦八苦しながら今夜の会場となる【クエバ・ワカル亭】の前に立った。
「いらっしゃ……わっ! さっき来たエレナさんだよね!? スゴいスゴい!! 別人みたいだねー!!」
予約に来た時に来ていた薄茶色の野外着から一転。水色を基調にしたフリル付きのドレスと赤い靴。ただその組み合わせだけでエレナの印象はガラリと変わり、出迎えた従業員のチリも手を叩きながら声を上げた。
「やっ、やっぱり着替えて来ても……」
「ここまで来たんだ、諦めて座った方が落ち着くよ」
「ところでよ、この店って何屋なんだ?」
未だ決意の固まらぬエレナに椅子を勧めながら、イワノフの質問にハンスが答える。
「そうだね……食堂かな、たぶん」
「……たぶんっ!? おいおい本当に大丈夫なのかよ! いきなりぼったくられたりしねぇよな!?」
ハンスの言葉に色めき立つイワノフだが、この後、エド達と合流してから供された料理を見て、
【……魔女の婆さんの宴かよっ!?】
と奇妙な雄叫びを上げた後、口にした料理に一切の不満は言わなかった。
以前訪れた時は、未知なる食材への恐怖心から戦々恐々だったハンスだが、今日は全く違う。その素材が如何に奇怪な代物だとしても、下拵えと調理の過程に精通した料理人が十分な技量を差し挟めば、きっと革靴とて食える料理に変わるだろうと悟ったのだ。実際に食えるかどうかはともかく。
仕入れ先が市場経由の食材ばかりで、前回のような奇妙な食材は皆無だった。そのせいで一般的な料理が並びハンスは(これはこれで旨そうだが、冒険的なメニューも……)と思ってしまう。
だが、ハンスとは違いエド達は、この店の独特な料理を知っているらしく、普通が一番いや前回の巨大ヒルは秀逸だったと言い合いながら、幾つも並べられた皿から銘々に料理を分けていく。
「……あの、ええっと……色々ありましたが、無事に仕事が終わりました! そんな訳で皆さんの無事な帰還をお祝いします……乾杯!!」
主宰のエレナが手にした果汁水のグラスを掲げると、残りの六人も各々のグラスを掲げ、互いの無事を祝して杯を合わせた。
人が集まれば、必ず場を主導する者が現れるものである。担ぎ上げられて主宰になったエレナだが、ハンスとイワノフから「いい加減落ち着いて座らんと食事出来ないぞ」と言われるまで、二人目の従業員かと思いたくなる程、くるくると歩き回っていた。慣れぬスカートの裾を掴んで託し上げながら、チリから飲み物のお代わりを受け取って配っていたのだ。
最初は双方の者同士で固まるように座っていた面々だが、宴も佳境に入るに従い椅子を掴んで話し相手の隣に移り、あの時はどうだったと言葉を巡らせていた。
そして、酔いも回って隣のチェモリにされるがまま状態のイワノフ以外に向かって、姿勢を正したエレナが切り出したのである。
「……エドさん、キャロンさん、アーヴィンさん、チェモリさん……今日お招きしたのは祝宴も確かにその一つでしたが、実は皆さんと私達でパーティーを組むのを、提案したかったんです」
「……パーティー? お祝いでもするのか?」
ハンスの言葉にエドとエレナは肉団子を落としかけ、チェモリとイワノフが同時に皿で受け止めた。
「……あー、そのパーティーじゃなくて……共闘する為に一緒に行動する、って意味なんだが……」
エドが説明すると、ハンスはポンと掌を打ちながら、
「ああ、つまり小隊編成になるって事か? ここらではそう言うのか。なかなか洒落ているなぁ」
そう言って納得すると、イワノフもフン、と鼻息を洩らしながら薄めたワインを煽った。流石に少年の姿のイワノフに度数の高い酒を提供する訳にもいかず、店主が提示した妥協案を彼は仕方なく受け入れたのだ。
「実は……私達も四人のままでは心許ないと思ってたんです。盾役のアーヴィンと剣士のエド、魔導士の私と付与術士のチェモリ……一見するとバランスは取れてるんですが、治療士や弓士といった後衛や遠距離攻撃者が居なくて……」
「そーそー! この前も不意打ちされて割り込まれちゃったから、エドも怪我したしねー!」
そう二人で言い交わすキャロンとチェモリだったが、どうやら彼女達はエレナの提案に賛成のようである。しかし、エドとアーヴィンは受け入れてくれるのだろうか? エレナはそう思いながら二人の発言を待った。
「……エド、悪い話じゃねぇよな?」
「ああ、勿論。一度に三人も仲間が増えるのは大歓迎だ。でも……」
エドはアーヴィンの言葉を肯定しながら、しかし肝心な所を指摘する事は忘れなかった。
「……三人の【技能】を明かしてほしいんだが……どうだろう?」




