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その七

これは茶番だ。


「シノア、もう一度言ってもらえるかしら」

「ですから、私たちは今回は協力できません」


アイシアが、組んでいた脚をほどいて勢い良く地面へと叩きつける。信じられない程の音が響き渡った。

あ、床がちょっとへこんだ。

お前がやったんだから、涙目で助け求めてくんな。


「なぜ?」


若干潤んだ目のまま、アイシアはシノアを問い詰める。

シノアの背後に立っているカイは、こちらに指を5本立てるジェスチャーをしている。

修繕費ね。俺は知らんぞ。


「アイシアさんはご存知のはずですが」

「ディグディグ本家とギルマスの確執のこと?でも、今更本家の顔色をうかがう必要なんてないはずでしょ」


めっちゃくちゃ茶番なのだが、その声音だけは真剣そのものだった。少なくとも、廊下で聞き耳を立てている存在にとっては、茶菓子を食べながら片手間で行われている会話のようには聞こえないはずだ。


「げふっ。そういうわけにはいかないということも、お分かりでしょう?」


おいこらシノア、げっぷすんじゃねえよ。後ろの大男が、頭抱えてるぞ。


「なにをお望み?私に恩を売れるっていうだけで、かなりのメリットがあると思うのだけれど」

「あらあら、望みなんてありませんわ?ただ、私は今回の件に竜卿たるあなたと、魔法使いである私が関わるのが不味いと思うだけで」

「なら、こうしましょうか!」


パン、とアイシアが手を叩いた。いや、もう、白々しいったらありゃしない。


「確かに、今回は竜卿が出張る案件ではないわ。なら、腕の良い魔狩りに依頼を出せば良いのよ」

「竜卿より、腕の良い魔狩りが存在するのですか?」

「丁度、知人に強さでは私と比べられないほどに弱っちいけど、それはもうクソザコだけど、結構名前の売れた魔狩りがいるわ」


そこまで弱いって強調すんじゃねえよ。お前と比べたら誰でもクソザコだよ。それに、千回に一回くらいならお前相手でも勝ちは拾えるよ!


「アイシアさんがそこまでおっしゃられる魔狩りがいるのですか!?」


わざとらしすぎるぞ、そこの紫髪。


「でしたら、こちらもうちのカイを出しましょうか!」

「交渉成立ね!」


なかよくあくしゅ。

はいはい、良かった良かった。これほどまでに結末が決まっている話し合いがつまらんとは思わなかったな。


部屋の外の気配は無事に消えた。

シノアは、カイに指示を出してなにやら紙を部屋の至るところに貼り付けさせて、自身が手に持っていた紙を引き裂いた。


「はい、念のためにこの部屋の音が外に漏れないようにしました」

「そんなことできんの?」

「ええ、こちらの気生符があれば簡単です。今ならなんと!」


絶対買わねえからな。カイお前アイシアにペンを渡すな、アイシアお前俺の名前を署名すんな!

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