その二
進まない(定期)
案の定、会館はてんやわんやだった。屋根がなくなったことの対応に追われている職員、それでも通常の受付業務をしなければならない職員、炊き出しをしているおばちゃん達等々。
最後、何のために炊き出ししてんの?
ギルマスが愛用している受付カウンター奥のデスクは、そんな職員達が使っているのでとても落ち着いて話が出来る状況ではなかった。
「しょうがありませんね……執務室の方に行きましょう。少なくとも静かではあるので」
「何か含みがありそうな言い方ね」
「気のせいでしょう」
ギルマスは肩をすくめてそんなことを言いながら、さっさと階段を上がっていってしまった。
「何だと思う?」
「女連れ込んでるんじゃねえの」
そんな訳ないだろうけど。アイシアは、まったくもってテキトーな俺の解答に呆れたようだった。
「もし、本当にそうだったら、私の十八番の物真似あなたに見せてあげるわ」
「そいつは楽しみだ」
ほなら、さっさと執務室行くべ。行けばなにか分かる。まあ、女は連れ込んでないだろうけどな!
執務室の扉は壊れていた。というより、意図的に蝶番を外したというべきか。
部屋の状況は端的に言えば、書類が溢れている。
「うわあ……」
「これ、山みたいになってるていうより、海みたいっていう方が正確じゃない?」
ギルマスは、器用に書類の隙間を縫うようにして部屋の奥へと進んでいく。
俺たちもそれにならって、書類の地面を踏んづけないように、ギルマスの所まで向かおうと、
「ギャッ!」
ん?
「アイシアなんか叫んだ?」
俺の問いに、アイシアは首を振って否定する。
気のせいか。
「早くこちらに」
ギルマスは、こちらを急かしてくる。
「悪い」
すぐさま足を踏み出そうとしたのだが、書類の床がなぜかもこもこ動き出した。
ぞもぞと床が蠢いている部分を、アイシアが足で軽くつついた。
「人を足蹴にするものではないぞ」
うーん、確実に気のせいじゃないねこれ。聞いたことある知の貴族の女当主の声だ。なんで書類に埋まってるのかは分からんけど。
取りあえず、
「アイシア」
「機嫌悪いときのギルマスの顔やりまーす!」
おお、なかなか良い感じじゃねえ。
そうそう、口元だけが笑っていて、目が一切笑っていない感じが。
本物そっくり。
「は や く こ っ ち に き て く だ さ い」
「「ごめんなさい」」
本家の迫力には敵わなかった。二人できっちり謝罪する。
書類に埋まっていた(言葉通り)ユリアも顔を出した。
マジで何をやってこんなことになってんの?人間としての尊厳なくしたの?




