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その五

太陽はしばらく前にその姿を隠して、夜になった。日中はキラキラした陽射しと共に、

『GYA GYA GYA!』

という肉食の魔獣の鳴き声と、

『Kyoaaaaa!』

って感じに追いかけられる草食の魔獣の悲鳴が聞こえるという至極平和なこの森も、今は夜行性の魔獣にひっそりと食べられる草食の魔獣の、

『Kyo』

という断末魔の叫びが聞こえる恐ろしい森に様変わりしてしまった。

あんまり違いないな。日中の方が、被捕食者が反撃できる分危なそうだわ。


冗談はさておき、夜は俺たち魔狩りにとっては、あまり望ましい時間ではない。辺りが暗いということは、未知の危険が潜んでいるということに気づくことが難しくなるわけだからだ。最も、固有魔法でそれをひっくり返せる奴もいるけど。

だが、その危険性を踏まえた上でも尚、ヨルネズクの羽集めに関しては夜の方が効率が良いのだ。


「それで、モルトの見つけた巣はどこら辺のやつ?」

「あー、結構森の奥の方だな」


あーね。

多分、俺の捜索したエリアの方がこのキャンプ地か、近いだろう。


「取りあえず今日は、俺が見つけた近場の方にしとくか」

「そうだな」


安全第一。モルトは主武装である大剣ではなく羽集め用の袋四枚という身軽な格好で、俺は逆に愛弓と、笛を首からぶら下げた完全武装で、森に入っていった。


『Pyoaaaaaa!』

『ピーヒョロロロ』

『Piaaa』


こちらに急降下しようとしていた巣の主は、逆方向に転換して羽ばたいて行ってくれた。今度も無事に、巣に戻ってきたヨルネズクを追い払えたようだ。

モルトが登っている木の下で、巣を狙う不届きものを咎めに来た家主を追い払う任務に俺は勤しんでいる。完全武装であるが、むしろ現時点で重要なのは笛だったりする。

俺の耳には正直なところ間抜けな音色にしか思えないのだが、ヨルネズクには仲間からの警戒音に聞こえるらしいのだ。今回持ってきた笛は、「君、巣間違えてるよ」っていう意味の音らしい。他にもバリエーションがあるのだが、ヨルネズクの鳴き声を聞き分けて意味を理解して再現した職人さん達には頭が上がらない。


『Pyia!Pyia!』

『ピーヒョロラ』

『Pyi…………』


今度のヨルネズクはなんか哀愁を漂わせて去っていった。

この笛、マジで「君、巣間違えてるよ」って意味の音なのか?多分今のヨルネズク、結構ショック受けてたっぽいけど、俺の気のせい?


しばらく、同じ作業を繰り返していると、短い笛の音が聞こえる。モルトの合図だ。俺も笛で、危険がないということを伝えると、羽をかき集めていた男は木から飛び降りてきた。


「ふう」

「おつかれさん。どんなもんよ」

「袋半分位だな」

「ありゃ?」


あんまり溜まってないな。意外と、巣に羽がなかったのか?


「というより、ふわふわしてねえから、量があんまり増えないんだよ」

「ふわふわってお前……」

「他に言いようがないんだからしょうがねえだろ!」


うん、別に悪くねえよ。ただ、筋骨粒々の厳つい野郎が、ふわふわって言い方するミスマッチがおかしいだけで。


「何にせよ、もっと多くの巣からかき集める必要があるな」

「やっぱそうなるよね」


知ってた。

ひとまず、空も白み始めたので今日のところはこれでおしまいということになった。


──二日目


「羽どんなもんよ」

「取りあえず一袋と、少しくらいだな」

「先は長いな……」


──十日目


「はね?」

「はねはねは」

「ね…………」


──十二日目


「はね?」

「終わったぞ」

「は?」

「四袋全部終わったんだよ!」

「「いやっほうーーーー!!!」」


熱い抱擁を交わし合う。俺もモルトも確実にぶっ壊れていた。


──十五日目


「なあ、相棒」

「何だ相棒」

「羽、行かねえか?」

「素晴らしい提案だな、相棒」

「アホ言ってないでベッドで寝ときなさい!」


俺たちはアイシアに意識を刈り取られた──

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