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その四

ここの砦は、かつては対人間の侵略に備えて建てられたらしい。今の感覚ではそんな余裕があるのかと思ってしまうが、その頃は人間同士の争いが日常茶飯事だったそうだ。因みに、そんなことを現在しようものなら、通りがかりの任意の魔獣にプチってされる。

当然、ここの砦も当時のままではないのだが、まあ名残みたいなのはあるわけで。


「なあ、アイシア」

「…………なによ」

「俺たち、迷子になってないか?」

「奇遇ね、私もそう思っていたところよ」


そうだよね、やっぱり。さっきから、やたらと行き止まりとかにぶち当たってるんだよ。

なんで迷路みたいな構造になってるの。意味ないでしょ。


「無駄に広いんだよここ……」

「仕方ないから、戻って誰か職員捕まえましょう……」

「そうするか……」


こうなったら、マッドについてきて貰うんだった。

ちょっと後悔しつつ、元来た道を辿ろうとして、


カチッ


「あ」

「え?」


アイシアが、色違いのタイルを踏んだ。奇妙な音が響く。

そして、


「「ぎゃー!」」


パカッと床がなくなった。突然のことでアイシアは飛ぶこともできず、俺には元からこういうときに何とかする術はないので、仲良く落下した。




「やっと、来おった……なんでそんなにボロボロになってるんだ?」

「「ここの砦の責任者出てこい!」」


この建物なんなんだよ!


落とし穴は、直通で武器庫に繋がっていたのだ。それゆえ、わざわざギルド職員の手を煩わさずに済んだことだけは、よしとしよう。


「で、結局客人ってのは、ばばあなのか?」

「師匠と呼べクソガキ」

「春街には行かなかったんだよな、俺たちより先にここにいるってことは」


じゃなきゃ、俺たちより先に着いていないだろう。


「オレも、本当ならかわいい女の子達に酌をされてたはずだったんだが」


そう言いながら、ばばあはアイシアの方を指差した。厳密には、少しずれているので壁に積むまれた箱の方だろうか。


「どっかのジジイにこれを運べとパシられてな」

「あー、白の武器ね。お祖父様は、ちゃんと護衛費用支払ったのかしら?」

「それだ。アイシアちゃんから、請求しろと言われとる」

「やっぱりそうなのね、それじゃあ銀四枚でどう?」


アイシアとばばあはそのまま、値段交渉を始める。

俺はというと、ずっと箱の方から目が離せないでいた。


「なあ、師匠」

「なんじゃい、馬鹿弟子」

「矢はどこにあるんだ?」


どうも、白の武器が量産品というのは本当だったようで、木箱がいくつも積み上げていられたが、矢が入っている箱はなさそうだ。


「あー、それな。お前が使う矢は、ほれ」


ばばあは、自分の腰に着けていた弓入れから、黒い皮の袋をこちらに投げてきた。


「あ、1本だけばばあが持っていたのか」


俺が確認しやすいように、そうしていたのか。珍しく気が利くな。

巾着を開けると、真っ白な矢が姿を表す。魔獣の素材特有の、匂いがした。


「1本だけというか、この1本だけだぞ。矢は」

「はえ?」

「馬鹿弟子、何か勘違いしとらんか。お前が今回使うのは、正真正銘白の竜の牙と骨からできた、一点ものの矢だぞ?」


ま?

動揺して、手が滑った。

アイシアが、床すれすれでキャッチしてくれた。


「えーと、竜卿さん?」

「どうしたの?」

「本物って……本物?」


嘘だよね?そんな、伝説の武器なんてほいほい出てくるわけ。


「うん、私も今まで知らなかったんだけど……これ、白の竜使ってるみたいね」


そう言いながら、アイシアは俺にその矢を握らせた。

たった1本の矢が一気に重く感じられる。今回、俺は一体何を任されるというのだろうか。

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