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その十七

愉快犯ことアイシアは、結局踏んづけられている。それにしても、この元カノだか元婚約者さんだかの身のこなしは目を見張るものがあるな。


「そうそう、忘れてた。こちら元婚約者さんことユリア・ド・クランチよ」

「ユリア様と呼んでくれ」

「じゃあ、元カノさんで」


めっちゃくちゃ睨まれた。いや、さっき俺も同じようなことやられたし。


「せめて名前で呼んでくれ……」

「あー、じゃあユリアさんで」


相手の身分を考えると気安すすぎるか?

ユリアは、アイシアに跨がったまま首を横に振った。


「この状態で畏まられる方が問題があるからな。一応この女は武のトップだし、それより私が偉そうにするわけにはいかん」

「あー、これはそのままで話を進めるんですね……」

「あなた達、私はスッゴク偉いって分かってる?」


はいはいえらいえらい。椅子なのにしゃべれてすごいねー。

お、なんだその顔は。やるか?


「君らはあれか?隙あらばいちゃつかないと死ぬのか?」

「「いちゃついてませんが」」


いや、今はまじでそんなつもりなかったぞ。


「改めて、ユリア・ディノ・クランチだ。もう既に知っているとは思うが、知の貴族の一員だ」

「あー、ケイトです。家名はないただの魔狩りです」


そう名乗るしかないよね。手を差し出されたので、握った。

因みに、ユリアが落ち着かなかったらしく、結局アイシアは椅子の役目から解放されていた。


「噂はかねがね」

「あー、どうも」

「アイシア嬢にまとわりつく悪い虫と」

「「そっち?」」


てっきりこの前の大氾濫絡みだと思ってたんだけど。というか、誰が悪い虫だ。


「こっちよってこないでよ、悪い虫」

「あ?」


なんだとてめえ。無理矢理でも近づいてやるよ。具体的にいうと、ソファの端に逃げやがったアイシアの拳ひとつ分くらいとなりに座り直す。アイシアが、その隙間を埋めてきた。


「冗談だから安心してくれ。それに、見てる限りアイシア嬢の方がベッタリのようだしな」

「うーん、どっちもどっちじゃない?」

「それはそうだ」


ユリアは疲れたように、テーブルに置かれたカップに口をつけた。


「すまない、おかわりを」

「飲みすぎじゃない?」

「誰のせいだと思ってるんだ。それでだ、ケイト」

「はい」


こっからは真面目な話だと理解して、俺は姿勢をただした。


「今回の謁見の目的なのだが、一つ目は君の素行調査みたいなものだ」

「はあ」


俺、本気で警戒されてるのね。何割かは、となりに座っている女と仲が良いのも理由になってそうだ。


「そして、二つ目なのだが、そのだな」


やけに言いだしづらそうだな。

さっきまでと違って、なんだかそわそわしているし。


「あの、バカから、何か、預かっているだろう?」

「すいません、バカって誰の事ですか?」

「く、クリストファだ!」


どなた?

知り合いにそんな名前の人いたっけ。

その答えは、アイシアがこっそり教えてくれた。


(ギルマスの名前よ)

(あー)

(本当に忘れてたのね……)


しょうがないだろ。ギルマスのことを、ちゃんと名前で呼ぶなんてこと滅多にないし。

ちょっと待てよ。ということは、ギルマスが胃壁に穴を開けながらも俺に渡してきたあの手紙は。


「ラブレター?」

「違う!」


めっちゃくちゃ食い気味に否定された。必死さがやべえな。

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