その十五
相対する襲撃者のたたずまいは、明らかに玄人のそれだ。魔狩りとは違い、意図的に削ぎ落とした細身の肉体は、素早さあるいは隠密性に特化しているのだろう。
(さて)
はっきり言うと、俺は対人戦闘が苦手だ。圧倒的に経験が不足しているからだ。なので、いつものように出たとこ勝負するわけにはいかない。いや、結局出たとこ勝負なんだけども。
「隠れていてくださいね」
「邪魔はせんから安心してくれ」
まず、優先順位の確認しよう。一番大事なのはこの人を死なせないことだ。そして、次に俺が死なないこと。最後にこの暗殺者を倒すことだ。
つーことで俺がやるべきことは、時間稼ぎに他ならない。別に俺がこいつを殺らなくて良いわけだし。
ということで、
「おらよ!」
「………………!」
「おまけにこれも!」
部屋にある家具をぶん投げる。ついでに、俺の固有魔法で作った枝も投げておいた。
ただの嫌がらせだ。
だが、この屋敷においては、それが一番効果的になる。相手も気づいたのだろう。
ぞわりと。
強大な気配が動く。多分、ジジイだ。
「卑怯ものが!」
「暗殺する気満々だった奴がなにを言ってるんだよ……おっと」
投げつけられた暗器は枝で弾いた。カランと軽い音を立てて床に落ちる。
「不意打ちする奴がなにを……ってうわ!」
今度は、お馴染みの煙石だ。俺でもそうする。すなわち、逃亡のための撹乱。ただ、あいつがアイシアを掻い潜っていると言う事実を加味するなら、もうひとつ罠を仕掛けるだろう。ということで、最重要事項の遂行にあたる。
「ちょっと失礼」
「え、あ、はっ!?」
咄嗟に押し倒した警護対象が、直前まで居た場所に何かが刺さる。舌打ちが聞こえた。
おそらく、あいつの固有魔法は透明化なのだろう。暗殺に最適というべきか。
俺は奴が投げた暗器が刺さった角度から、大体の位置を特定して枝を投げる。まあ、意味はないだろうが。案の定、壁にそのままぶつかった。
「あー、まあそろそろ終わりかな?」
「終わりと言うが、君取り逃がしただけだろう」
あ、退かないとまずいな。俺は一応安全を確認してから、高貴な方を立たせるべく手を差しのべる。俺の手は要らなかったようで、目の前の人は自力で立ち上がり服の裾をパンパンと払った。
「いや、まあ、結局この屋敷からは出られないので逃がしてはないですよ」
「それはどういう」
名前が分からないからギルマスの知り合いなので、ギルフレと便宜上呼ばして貰おう。ギルフレさんは最後まで質問ができなかった。窓の外から断末魔の叫びが聞こえてきたからだ。その声を聞きながら、
「先代が庭先に居座ってましたからね」
「気づいていたのか」
「まあ、はい」
こんだけ殺気出してたらねえ。暗殺者が気づかなかった理由は分からないけど。
結局、俺の謁見は部屋を代えて実施されることになった。
アイシア「ぶっころす」
先代爺「ぶっころす」
一般人「なんかすごい怖い気配がする」
主人公「くんくんくん。こっちがアイシアの気配……!なら庭先は爺さんだな」




