その八
ばばあは、俺たちを眼で追いかける。視覚に特化した固有魔法の持ち主だからだ。
ならば、先代竜卿はなにで俺達を見つけ出したかと言うと、
「お祖父様は、音で全てを識別するのよ」
「へー、もっと早くに教えて欲しかったな」
屋根をぶち抜かれた。少し会話している間に、天井からミシミシと言う音がして、隙間から覗き込んだ刃先をみてアイシアが特定したのだ。
「聞かれなかったし」
「そりゃまあ、関わってくると思ってなかったからな!」
悠長な会話ができたのは、そこまでだった。二人して、間一髪のところで屋根を貫く凶器の群れから何とか逃げ出す。
「先代の固有魔法って確か」
「そうそう、無限増殖よ」
「ずるくね?」
「まあその代わり、魔法を使う最中は目を開けられないんだけど」
その分耳で補えるなら、なんのデメリットになってねえだろ。
家主には先代が弁償してくれる、多分。
「取りあえず、外に出るぞ!」
「それしかないわね」
そして、外に出た瞬間ゴオッと音を立てて、とんでもない質量の凶器の群れが空から襲いかかってくる。
「伏せて!」
塊になって降ってきていたのが幸いした。アイシアが、一発でその塊を散らす。安堵も束の間、アイシアの隙を狙った矢が線を引くように飛んでくる。俺は、造り出した棒でそれを弾く。
「知ってた」
「ありがとう」
あのばばあなら、その隙をつかないわけがないと分かっていた。
しかし、それはそれとして流石にムカついてきたな。せっかく、久々の休暇で王都に来たって言うのに、俺はまだ飯すらくってねえんだぞ。アイシアも、同様の思いを抱いているようだった。ひとつうなずき合う。
「もうさ」
「おう」
「二人で突っ込んじゃおっか」
「それが早いな」
不意打ちとか、色々考えるのを俺達はやめた。
「「師匠どもをぶん殴る!」」
カチコミじゃあ!
そんな師匠と俺達は、仲良しです。
◆
そうと決まれば、速かった。アイシアは俺を担いで、全力で走る。アイシアは一歩ごとにどんどん加速する。文字通り爆発的な踏み込みだ。
「これ修復にいくらくらいかかるんだ」
「舌噛むわよ」
代償は、舗装された道がボロボロになることだ。まあ、足元を爆破して発生した推進力を利用している訳だからな。
しかし、いくらアイシアの移動速度が凄まじいといっても、高所は向こうに押さえられている。必然的に、時折凶器たちが降ってくるのだが、
「ケイト!」
「あいよ」
アイシアが俺を斜め前に投げた。空中で、俺は矢を放つ。我ながら頭がおかしい迎撃手段だな。
「ほい」
「どうも」
そして、全てを撃ち落とした時には、もうアイシアが真下に居て俺を回収する。相手が、アイシアの動きを先読みするからなんとかなっているな。
さて、ほとんどタイムロスなく駆けたことで、間もなく俺達は、塔に辿り着く。
「さて、どうしてくれようかしら」
「そりゃ初手最高火力だろ」
「そうね」
まあ、この時の俺達は本気でキレていたのだ。




