その七
「取りあえず飛んでみたけど」
「お前まさか無策とか言うんじゃねえだろうな」
「なに言ってるの、当たり前でしょ」
ダメだこいつ。知ってたけど。
「さっさとしないと、ばばあにバレるしなぁ」
「じゃあ、さっき言ってたみたいに片方を囮にすれば良いんじゃない?」
「つっても、この状況でどうやれと?」
現在俺はアイシアによって横抱きにされたままお空にいるわけなので、身動きが自由にとれるというわけではない。というか、落とされたら確実に五体がバラバラになるから変に動きたくない。
因みに、アイシアの空の飛び方は、爆風を利用したもので一度高度が上がっては下がりその都度爆風を引き起こすという感じだ。
全然自由が利かない。
「あなた一応小型の携帯弓は持ってきてるんでしょ?」
「あるけど、この体勢で組み立てられねえぞ」
「だったら、私が取り出せばいいでしょ」
ずた袋ことマイバックは、背負うタイプのものなので、当然ながら俺の背中に引っ付いている。そして、アイシアがそのバックから物を取り出すためには当然俺を支えているその手がなくなる。
「うおおおおお!」
耐えろ俺の腹筋、背筋!
力が緩まれば俺は落下死するぞ!
しばらく俺の背中あたりでもぞもぞ動いていたその手を止めて、アイシアが言った。
「気づいたんだけど」
「なんだ!」
早くしてくれ!
「これ別に空中でやる必要ないんじゃないの?」
「……………………………………」
うん。
そうだね。
◆
後先考えずに、飛び立ちやがったバカにはアイアンクローをお見舞いしてやった。
「なにするのよ」
「余計に事態をめんどくさくしたのは誰だよ」
アイシアは、アイアンクローされながら俺の弓を組み立てている。多分、一応、きっと、お詫びのつもりなのだろう。
手持ちぶさたなので、頬っぺたもつねっておいた。
因みに今、俺たちは屋根の下にいるのでばばあが気づくまでは無事だ。
「それで、あのままだったら次は何をするつもりだったんだ?」
「塔の真上からあなたに矢を打ちまくらせるつもりだった」
「あー、まあ悪くはねえけど、お前ばばあが塔の中にいる可能性を考えてなかっただろ」
「あっ!」
こいつ調子悪いな。アイシアは脳筋だが、野性的直感というかなんなのかパっと考えた作戦でも、穴は限りなく少ない。まあ、間違いなく今回は集中力というかやる気がないのだろう。
「なんか付き合わせて悪いな」
「どうしたのよ急に」
「いや、よくよく考えたらお前が今回俺を手伝うメリットないなって」
「ない訳じゃないけど……。熱が入っていないのは確かね」
まあこんなアホらしい(アイシアからすれば)ことに巻き込まれたらそうなるわな。
だが喜ばしいといえば良いのかなんというか、アイシアの不調はそう長くは続かなかった。この後すぐにアイシア自身が当事者になったからだ。
俺と師匠のはた迷惑な戯れに、アイシアの師匠も絡んできたのだ。正しくは、最初から絡んでいたと言うべきか。
アイシアの師匠、それすなわち先代竜卿であり、元史上最強の男だ。
しれっと50話達成
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