その六
「ということで、そろそろ作戦をはっぴょーしまーす」
「いえーーーーい、変なこと言ったらどっかーんねー」
あ、はい大丈夫です。下水道を移動するなんてことは、言いません。
「アイシア、お前空飛べるよな?」
「ええ、まあある程度はね」
「どのくらいの高さ飛べる?」
「さあ?」
「え?」
「限界まで飛んだことないのよ」
なるほど。
「因みに、これまでで一番高く飛んだ時は?」
「んー、前に逃げようとした飛行型を空から引きずりおとした時かしらね」
そう簡単に竜種とやりあうんじゃありません!つーか、引きずり落とすってどうやったんだよ。
「小型だったから、尻尾つかんでぶんぶんって」
「言い方は可愛いんだけど、絵面がやべえんだよ」
しかも、小型ってことはそれなりに飛行能力が高いだろうし。
「あー、なら聞き方変えるわ。あの塔より高く飛べるか?」
「余裕ね」
「そうか、んじゃ頼んだ」
「いいけどそれで何をすれば?」
「ばばあの固有魔法の範囲外から不意打ちしてくれ」
ばばあこと、変態師匠の固有魔法はその二つ名通り視覚に関するものだ。どんなものか簡単に言うと、眼をとばすように任意の地点から世界を俯瞰できる。まあ要するに索敵能力がめちゃくちゃ高い。ただ、どんな固有魔法も便利なことばかりではないのが世の常で、①透視能力はない、②自分より高い位置は見れない、という短所も存在するのだ。
ざっくりと固有魔法について説明を終えると、アイシアは降ってくる矢をさばきつつ、
「そういうことなのね。だったらあなたは何をするの?」
「下で陽動だな」
ばばあも自分の固有魔法の弱点は分かっているので、アイシアが視界から消えた場合俺が何を狙っているかには気づくだろう。そうしたら、固有魔法を使うのを止めて普通にアイシアを撃ち落とそうとするはずだ。ばばあの弓の腕は、今のところ当代一だしな。いや、もうすぐ抜き去る予定だけど。
まあ、そんなわけでいくらアイシアでもばばあなら撃墜する可能性があるので、そうさせないためにばばあを俺に掛かりっきりにさせてしまえばいい。
「これでなんとかなるだろ、多分」
「それでも多分なのね……。けど、残念ながらその作戦はダメよ」
え、なんで?
「私がわざわざあなたを迎えに行ったのは、監視の意味もあるんだけど」
「あー、だからちゃんとコート羽織ってたのね」
そんなとこだろうとは思っていた。
「明日からはちゃんと私の可愛い私服姿を拝ませてあげるから」
「なんでそんな話になってんだよ」
「がっかりしてそうだったし」
「してねえわ」
話がそれている気がする。
「で、こっからが真面目な話なんだけど、あなたがもし騒ぎを起こしたら私の監視の目を掻い潜ったってことになるじゃない」
「あ……」
「因みに、今ここの駐屯基地には黒狼と麒麟、あと魔狩りも配置されているわ」
「つまり、俺が騒ぎを起こすと」
「殺してでもあなたを止めるために、彼らがやってくるわね」
そうなったら、多分俺死んじゃう。
「ということだから」
アイシアは、突然手に持っていた蓋を投げ捨てて俺の足を払う。当然のごとく、俺はぐらりと体勢を崩した。
「は?」
「よいしょっと」
「おい、まてなにする!」
まあ、何が起きたかを説明すると倒れ掛かったところを受け止められて、そのまま横抱きにされた。
「舌噛むわよ」
「へ?」
「一、二の三!」
掛け声と共に、アイシアは地面から飛び発った。
俺を横抱きにしたまま。
俺の中の大事なものが失われていく気がするーーーー!




