その五
俺の師匠の話をしよう。
師匠は、俺を育てた恩人であり、弓を教えてくれた人物だ。だからまあ、感謝はしている。
勿論、魔狩りで未だに現役の化け物みたいな婆さんだ。その実力は、『天眼』という二つ名を拝しているところから察して欲しい。
というか、こう思うと師匠の二つ名かっこいいな。良い感じの枝なんて良く分からん名前がつけられた今となっては、死ぬほど羨ましい。
「それで、何であなたの命を狙ってるのよ!」
「甘いなアイシア、これくらいはあのばばあの認識じゃお遊びだ!」
先程から、飛んでくる矢の量が尋常じゃないことになっている。せめて的を絞らせないように、かつ他人に迷惑をかけないように移動しているのだ。というか、人気の少ない路地に俺たちが逃げ込んだことを幸いにと射ってきてね?
「あなたの師匠とのお遊びに私まで巻き込まれている件」
「それは悪いと思っているから、あのばばあから謝らせるわ」
俺は、悪くねえけど。
「それで、ここらで一番高い建物はどこだ?」
「宛もなく、走ってたの!?」
「しゃーねえだろ、土地勘ないし!」
「あー、そうだった。ここらなら、塔が一番高いわね」
じゃあ、固有魔法の特性的にばばあはそこにいるだろう。方角は、こっちでいいのね。
「あとさ、さっきから攻撃が、私が動こうとするところに的確に降ってくるようになったんだけど」
「おめでとう。君は、ばばあに動きを完全に掌握されたんだ」
俺はもはや諦めて、排水溝の蓋を頭にのせている。え、ださい?俺もそう思う。
「この短時間で?」
「師匠だしなぁ」
曰く、「可愛い子の一挙手一投足をオレが見逃すわけないだろう」らしい。理由になってねえぞ。
アイシアは、色々と葛藤の末俺にならって排水溝の蓋を、持ち上げた。黒い虫どもがウゾウゾと湧き出てくる。
「さいあく……」
「お気持ちお察しします」
「というか、今気づいたんだけど、私まで逃げる意味ないんじゃない?」
やはり、気づいてしまったか。その真実に。だが、
「残念だなアイシア。ばばあに動きを把握されたということは、相当気に入った証拠だから、粘着されるぞ」
「あなたの師匠なんなの?」
「実力のある変態」
「なら、あなたをここで捕まえて、盾にすれば粘着するのやめて貰えたりしない?」
なにが、ならなんだよ。この外道女め。
「その場合、俺は全力で通りまで逃げて謎の虫に集られている竜卿様のお姿を広めるぞ」
「この外道め……!」
どっちもどっちじゃねえかな。
「つー訳で、俺とお前は一蓮托生だ」
どういう気持ちの顔ですか、アイシアさん。
「あと、一蓮托生ついでに俺とドブに潜ってくれ」
「死ね」
ごめん、実は冗談なんだ。だから、頭にのせている排水溝の蓋に印を刻まないで!爆発しちゃうでしょ!




