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王都編:ドレスコード

ユリアによれば、貴族がなんらかのパーティーをする時には、それはもうとてつもない数の決まりみたいなものがあるらしく、そして俺には本当にわからないのだが、それぞれの決まりひとつひとつが、もれなく意味を持つらしい。

そういうことで、参加者が何を着るのかというのも意味を持つそうだ。


「だから、君がここで白を着るということは、実質的に君はもうアイシア嬢のパートナーであるということを、世間に喧伝することに他ならないのだよ」

「なんで堂々と着替え覗いてくんのお前」

「減るものじゃないだろう?」


減りはしないかもしれないが、増えはするんだよ。具体的には、アイシアの嫉妬心が。


「今更、どうこうなり得るはずがないことは、彼女も分かっているだろうに…………。 アイシア嬢は、めんどうな女だったのだな」

「ユリアだけは、それを言える道理はねえだろ」


会館凍結騒動引き起こしやがって。

めんどくせえ男とよりを戻したばかりのめんどくせえ女はそっと視線をそらした。


「しかしまあ、なんと言うか。 流石は、一流の魔狩りというべきか、意外と様になってるじゃないか」


話題まで変えて来やがったが、そこは追求しない。


「恥ずかしいから、俺の格好には触れるな」


当然のごとく、魔狩りの仕事着ことなんか鎧とか弓とかその辺を担いだまま、これから始まるお偉方大集結のパーティーとやらに出ることが許されることはなかった。多分、護衛とかそういうのならいけたんだろうけど、貴族たるアイシア・ディ・グノルの婚約者御披露目だからなあ……。俺も主役の一人だし。

で、俺に準備されたのは何か全身白づくめだった。かっこいい作りになってることだけは良くわかる。あと、なぜか矢筒も渡された。こちらも白である。


「先程、説明しただろう。 着るものには意味があると。 竜卿は紛れもなく、武の貴族の頂点に位置している。 じゃあ、武器はなんのために持つ?」

「戦うため」

「その通りだよ。 そういう存在であると言うことを、知らしめるんだよ」


俺が今、着ている服はタキシードというらしい。ユリアがなにやら箱を渡してきた。蓋を開ければ──これは俺もわかる──白いネクタイが一本。


「先程、君の師匠が来られていてね。 これを置いてもう出ていかれたが」

「ばば……師匠が?」


あの人、今こっち来てたのか。そして、もうどっか行ったと。


「まあうちの家令によるとぷんぷんと香水の匂いを全身から漂わせていて、白粉が少し襟元についていたそうだが」

「ばばあ、元気すぎん?」


どうして、シンプルに感謝させてくれないのだろうか。

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