王都編:イワンガカウ その②
重ねてになるが、ウシの討伐の正攻法は遠距離から一瞬で命を奪ってしまうことだ。理由は、狩った後の商品的な価値が下がるというのもあるが、なによりもこいつらは危険を感じると種族魔法で本気でかちこちに固まりやがる。
だからもし、近距離でやるなら、こちらも同様に固くなるまでの間で瞬時に命を奪うか、もしくは毒餌をばらまくかの二択になる。
普通ならば。
「ロース!」
『Bmoa!?』
「タン!」
『Gabomo!?』
「ミノ!」
『mooooo……』
じゃあ、普通じゃないアイシアならどうするかというと。
「べきべき鳴ってる……」
そうだ。
種族魔法:硬直なにそれ美味しくなくなっちゃうの、と言わんばかりにぶん殴ってダメージを通せばいい。
魔獣とはいえ仮にも生き物ではあるのだが、先程から、ドタバキゴガギャン!と、一応柔らかい肉に覆われていると思えない音がしまくっていた。
「センマイ! ハツ! ホールモーーーーン!!!」
『nooooo……』
最後のウシがプルプル震えながら悲しそうに断末魔をあげる。そりゃ、捌かれた後の部位を叫びながら、せっかくの防御をぶち破ってくる奴がいたら、そうもなるわ。俺だって絶対に泣く。
それはそうとして。
「アイシアのアホ、どんだけモツ食いたいんだよ……」
ぱちぱちと薪が爆ぜる音がして、同時にお肉からはじゅうじゅうと美味しそうな音もしてくる。
アイシアの殺ったやつらはともかく、俺が最初の方に射貫いた連中は全てを持ち帰るわけにはいかないという竜卿殿の命令により、ここで食べてしまうことにしたのだ。
「モツは食わなくて良いのか?」
「ハツの掃除でお水全てを使い果たしたから諦めるわ」
あーね。具体的には水が全然足りねえからなあ。
王都近辺の狩り場がサハイテと異なる点は、魔狩り(時たま狩人)相手の商人がそこら辺をうろついていることだ。勿論、単にぶらぶらしてる訳ではなくて、客を探してるんだろう。
だから、狩りの途中の飲料水やら食事に困ることはない。まあ、大体の魔狩りは可能な限りこういうところの商人には頼らないようにするんだが。だって、高いし。ここぞとばかりに吹っ掛けてきやがるからな、あいつら。
だから、まあ、普通の飲み水に困ることはない。ただ、モツを掃除するとなると。
「水場が欲しい……」
「すげえ量の水使うもんな」
「うん……樽で買っても足りない……」
ままならねえな……。
あ、良い感じに焼けてる。焦げる前に食べろアイシア。ハツは半分わけてもらえると嬉しい。




