その三
道中、と言っても階段を上ったくらいだが、身動きできなくなっていた魔狩り達を助けつつ、遂に元凶二人の根城へとたどり着いた。
「こんにちは~!」
アイシアが容赦なく、根城ことギルマスの執務室(兼応接室)の扉を蹴り飛ばす。
「昏倒させに来ました~!」
俺はマッドから預かった薬(粉末)を部屋へと投げ入れて。
「え?」
「は?」
「どーん!」
アイシアが、まだ残っている砂でそれを部屋いっぱいに拡げる。
ついでに、もう一発。
今度は扉の近くで爆発させて、俺達の方に粉薬入りの風がこっちにやってこないようにした。
「あとは、5分待てばどうにでもなるらしい」
うーん、お手軽。
「…………ここまでやっといてなんどけど、あなた話し合いが一番良い手っていってなかったっけ……?」
「…………あ」
忘れてた。
「………………」
「…………………………」
ここは。
「やっちまったもんはしょうがないということで、ひとつ」
「まあ、そうね。 正義は私たちにあるものね」
なんかいよいよ、俺達の方がやってること悪い気がしてきたな。
◆
薬の効果は覿面で、元凶二人はすよすよ眠っている。折よく、廊下やら階段やらは凍っているので、襟元を掴んで滑らせながら外へとやってきた。
因みに、俺がギルマスを運び、アイシアがユリアを運んでいる。
意識のない人間は、普通は重くなるものだから、この廊下やら階段やらはだいぶありがたかった。
「取りあえず、目下の問題は」
「ああ。 マッド、これいつ目覚めるんだ?」
寝かしつけといてなんだが、全くもって意識を取り戻すことがない。
だいぶ、乱暴な扱いしてたんだけど。
「一晩は見ておきたいねえ」
なんでも、疲労具合に比例して眠りが深くなる魔術薬の試作品だったそうだ。一般人なら、瞬時に薬が効いたとしても、そこまで深い眠りにはならない、っていう実験結果があるらしい。
「つまり、はっきりしたことがあるね。 この二人は、相当な疲労をおした状態で、語彙力の死んだ喧嘩を繰り広げて、なんなら会館を壊滅寸前まで追い込んで、魔狩りやら職員まで、巻き込むレベルの固有魔法を使い続けていた、ということになるねえ。 この二人はバカなのかい!」
「マッドお前……一応上司に向かって、バカって」
気持ちはよーく分かる。
「とにかく、今から事情聴取は無理ってことよね。 じゃあ、二人をギルマスの家に放り込んで解散、ってことでいいかしら」
すっ、と職員の一人が手を上げる。
「顔に落書きは?」
「消せるなら、オッケーよ」
いいのかなあ。
でも、職員達が腹をたてる理由も分かるしなあ。
消せるなら、いっかあ。(思考放棄)




