その六
自己暗示というのは、ある意味では魔狩りを続けていく技術の一つであったりもする。
自己暗示とまでいかなくとも、何らかの手段で仕事とそうじゃないときを切り離すというのは、ベテランの魔狩りであれば多かれ少なかれやっていることだ。カイなんて、普段はくっそ無口なのに、仕事の時はその分軽口たたくし。
その切り離しの方法の一つとして、自己暗示をかけるタイプの魔狩りもいるのだ。
アイシアの場合は、俺と同じく自己暗示は使わないタイプなのだが、自分自身にあった切り離し方を探すために一通りの方法を試す時期が魔狩りにはある(断言)。
「お前、自己暗示普段使わねえじゃん」
「かかりやすすぎて、『私は最強』って暗示かけたときに、王都の家を半壊させかけちゃったのよ」
うーん、確かに向いてないかもしれない。暴走してるわけだし。
だからといって、それで連絡の一切をド忘れするな、おいこらお前のことだぞ。そこの、
「アホバカ間抜け女」
「うう……」
「心配させんな」
「…………ごめんなさい。 あと、苦しいから、もうちょい優しく抱き締めてほしいんだけど……」
要望は無視した。
「あのー」
シノアがやけに申し訳なさそうに、声をかけてきた。
「なんだ?」
「それで、これでもう帰還しても、問題ないでしょうか?」
「あー…………ごめん、シノア。 ここの依頼は達成しておきたいの」
そういえば、そうか。
クモの討伐はできていないことになるのか。依頼の内容的に、別にアイシアがというか竜卿がこなす必要はないのだが。
「なるべく早く討伐しないと、ここの村の人たちが困っちゃうし」
アイシアという魔狩りとして、許せないのだろうかと思ったのだが、
「ここのお宿、『クモを討伐して下さる魔狩り様のためなら、お代は頂きません!』って言って泊めてくれてるから、このままだとお代を踏み倒すことになっちゃうのよ…………」
それはアカンわ。
「シノア、ギルマスら急かす感じのことを言ってたか?」
「いえ」
「なら、さっさとクモを片付けよう」
そもそも、本来ならそんなに時間がかかるもんじゃねえんだよ、クモの討伐なんてものは。
「そうなんですか?」
「そうなんですよお嬢。 居場所さえはっきりしてるなら、半日もかからずに終わります。 薬さえあれば」
そう、薬さえあれば。
アイシアは、そっと目をそらした。
やっぱり持ってねえなこいつ。先人の『こいつら大量湧きしてマジでうぜえから、これを使えマジで』っていう知恵を無駄にしやがって。
ということで、カイ薬持ってる?




