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その四

さて。

大体の人間というものは、数日遭難してたら栄養失調であったり睡眠不足であったり、なんかしら身体に影響が出ることになる。基本的に頑健な魔狩りであっても、そのルールから外れることはない。

そこで、問題のアイシアである。


「お前、なにやってたの?」


肌艶バッチリ、目の下に隈なんかもないし、弱ってる感が全くない。さっきまで正気を失っていたというか人間性をなくしていたのは確かだが。


「…………てへ!」

「かわいいけど、それで誤魔化せると思うなよこのアホ女!」


存外に健康だと判明したので手加減なく顔面をわしづかみにして、力を徐々に込めていく。


「やへははひ、はほひにゆひふひはらほふひへくへるほよ!」

「そんなもん今さら気にするかお前が」

「ひにひはいへど!」


そらみろ。

大体、こんな大事になってるんだからこれくらいで済んでるだけましだぞ。


「あのー……」

「なんだ、シノア」

「ひはひふひへひのあ、へんひだっは?」


かなり力を込めているのに、アイシアは余裕そうにシノアにひらひらと手を振る。まーじで頑丈なんだよなこいつ。


「なんで、その状態のアイシアさんがおっしゃってることが、分かるのかとか、アイシアさんが何をしてたのかとかもろもろ気にはなるんですけど。 うちのカイがそろそろピンチなので安全なところに行ってから続きをやりませんか?」


ふと気づけば、カイが四体の魔獣に囲まれていた。あ、これはやばいわ。


行きは、ガチで急いでいたし俺もそれなりには焦っていたようで、この近くに村があることに気づいていなかった。

どうにも、アイシアはここの人達からの依頼を引き受けてこの地に来たらしい。


「さっぱりした……」


交渉のすえ、というか普通に宿屋のサービスの一環として、お湯を貰えたので頭からかぶる。これでかゆいのもマシになるだろう。


「なんで私よりもあなたの方が汚れてたのよ」

「一切の連絡を断ちやがったどっかの誰かさんを探す為に、風呂に行く暇もなかったんだよ」

「ごめんなさい」


うん、謝れて偉いね!(やけくそ)


「アイシアさん、帰ったら説教する、だそうです」

『popou!』


ギルマスから派遣された鳩さんが運んできてくれた手紙にそう書かれていたようだ。


「はい…………」


そりゃそうだ。めずらしく神妙にしているアイシアの頭をパタパタと叩きつつ、


「まあ、理由次第では説教も短くなるだろうから、さっさと話せ」

「クモがずっと増殖しやがって終われなかったのよ……」


……なんて?

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