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その三

(野生化)アイシアは、魔獣と対峙していた。んー、脚の本数的に多分クモのどれかだろう。サイズ的にエンプレス種だろうか。


「しばらく放置で」

「助けようよ!」

「それでも、アイシアさんの運命の人ですか!」


いや、でもなあ。あとシノアは、その呼び方をやめろ。


「お前ら見てみろ、あれと」


四足歩行モードアイシアは、エンプレスに飛びかかり乗っかる。エンプレスは、クモの仲間の中でも大きい方で、普通ならばその身体に乗っかるのならロープとか欲しかったりするのだが、まあ、アイシアだしなあ……。


『syosaaaa!?』


自身よりもはるかに小さな存在に振り回されているエンプレスは驚いたような鳴き声をあげた。


「あれをいっぺんに相手したいか?」

「言ってる間に、アイシア様しか残らない気がするけど……」

「あの……魔狩りの皆さんは、エンプレスを素手で倒せるものなのですか…………?」


俺とカイは同時に息を吸い込み、そして。


「そんなわけない!」


声が揃った。



『kyoaaaaaaaa…………』


哀しげに鳴いたエンプレスは森の方へと逃げて行った。


「ふーーー!!」


アイシアは追いかけることもなく、髪を逆立てて唸り声をあげている。


「……食い物をばら蒔けば寄ってくるか?」

「アイシアさんのことをなんだと思っているんですか?」


野生の肉食動物。


「確かに、その身ひとつで魔獣と戦えるのは動物ですが。 それと、ケイトさん」

「アイシア様の気を引くなら食べ物よりも、良いものがあるよ」

「え、なに?」

「アイシアさんも、まっしぐら」

「なんなら、捕獲までしてくれるかもしれない便利なやつが、ね」


そんなよさげなものあるのか。


「だったら、それを使おう」


俺はカイに肩をがっちりと掴まれた。


「おい!?」

「行ってらっしゃい!」


背中を蹴り飛ばされた。



「ふーーーー!」

「よ、よお、アイシア久しぶりだな」


久しぶりというのは嘘ではない。お互いに、二十日以上ぶりの再会だ。片方、人語忘れてるけど。


「ふ……?」

「よーしよしよし、怖くないよー」


両手をあげて敵対するつもりはないことをアピールして、接近。


「…………………」


無事に近づけたので、背中をぽんぽんとあやすように叩く。


「………………!?!?」

「お、立った」


人間性を取り戻せたか。


「………………………………もりにかえる」

「帰るな」

「ワタシモリニカエル」

「お前は俺と違って森育ちでも、森生まれでもないだろうが」


元に戻って何よりだから、何があったか説明しろ。

あと、カイとシノアはその顔やめろ!


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