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その二

「それで! アイシア様は何日帰ってきてないのさ!」

「四日だとよ!」


ごおおおお、と風を切る音がする。それに負けないように大声を出す。俺は今、研究所付きの魔狩りであるカイに担がれていた。


「四日ですか。 それは長引いていますね、確かに!」


もう一人の研究所から派遣された女、シノア・ド・ディグディグは空飛ぶ槍に乗った状態で、カイにロープを結んで引っ張られていた。


「いや!」

「そうでもないです、お嬢!」


カイが全力ダッシュするのが、目的地にたどり着くには一番早いとは分かっているが、中々に不便だな。いちいち大声を出さなきゃならん。まあ、担がれてる分際で文句は言えんが。


「そうなんですか!?」

「そもそも! 依頼をこなす期間は! あくまで目安だからな!」


魔狩りが相手取るのは、魔獣だ。こいつらは、当然ながらこっちの思い通りになってくれない。だから、例えば目的の魔獣が全く見つからない、なんてことも起こりうる。一応、会館あるいはギルドに依頼が届いているということは、何らかの魔獣による被害が既に出ていたり、その魔獣が出現する根拠が明らかであることが多いので、魔獣が見つからないなんてことは滅多にないのだが、それでも長く魔狩りを続けていると何度かは経験することになる。

俺が一番悲惨だったのは、幼い魔獣の捕獲依頼を引き受けた時だった。お母さん魔獣が中々出産しないわ、逆子になってるわで、幼体を俺が取り上げた時はお母さん魔獣とは謎の絆が育まれていた。今は研究所の裏手で、親子ともども元気に過ごしている。


「四日くらいは普通ならば誤差です! 僕は1ヶ月耐久したこともあります!」

「あの時って、長期の採取だったのではないのですか!?」

「予定では三日でした!」

「うわあ……」


どんだけ運がなかったんだ。さすがにそのレベルは俺も経験したことないな。いや、別に経験しときたいとかそういう訳はないんだが。


「それではなぜ! 私たちにまで声がかかったのですか!」

「それは、アイシアだからだよ!」


あの女の場合は、俺達と事情が異なる。竜卿という立場にあるからだ。分かりやすくいうと、あいつにはこまめに連絡する義務があるのだ。

所在地が分からなくなると、いざというときに呼び出せないからな。

だから、ギルマスの使い鳩達が妙に鍛えられているのは、竜卿に連絡をつけなければならないから、という事情もあったり。


「八日間連絡が途絶えてるらしい!」


何かあったと考えるべきだろう。


「それで! 私が呼ばれたのですね!」

「それはあるだろうな!」


もし竜卿でどうにもならない事態が起きているのなら、同等の戦力である″魔法使い″を投入することになる。因みに、俺たちはアイシア探索の第一陣で、第二陣ではもっと大勢の魔狩りが派遣されてくる。

普通にオオゴトなのだ。


「着いた……!」


アイシアの連絡が途切れる前に、一番最後にいた場所にたどり着いた。カイは、地面に倒れ込んだ。半日以上全力疾走してくれたからな。

シノアが、マッド謹製の謎の液体をカイにぶっかける。


「ごぼがばごほっ!?」


まあ、無事だろう。


そして、なんとまあ、非常に拍子抜けなのだが。

アイシアはすぐに見つかった。見つかったのだが。


『kisyaaaaaaaa!』

「ふー!!! ぐるるるるるるっ!」


野生に還っていた。


「…………無事って分かったことだし、放置して帰って良いと思うか?」


研究所の二人から、即答でダメと言われた。


なにやっとんだよ、あのバカ女。

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