その十一
屋根の破片、厳密には職人のおっちゃん達が穴を塞ぐのに都合の良い形にするために削り取ったそれらに、研究所の二人は黙々と何かを塗っていた。
「手伝いは必要?」
二人の作業を見つめてるだけってのもあまりよろしくないと思ったのか、アイシアがそんなことを提案したのだが。
「いえ、この薬品、結構危険で丁寧に扱わなければならない代物でして。アイシアさんに扱わせてしまっては、万が一があるかもしれないので今回は見守っていただければそれで充分です」
意訳 アイシアは結構大雑把なので近寄らないでほしい。
なるほどなあ。俺が深く納得して頷いていると、金髪の女は俺の頬に手を添えて。
「人間のほっぺたってわりとちぎりやすいのよね……」
「待て、そんな不穏なことふぉひふほは」
ぐにっと、両頬をつまみ上げられてしまう。食べ物を摂取できない体にされちゃう!
「大丈夫よ。多少の怪我は自己治癒するから」
ニヤリと笑ったアイシアは、俺の頬を左右に引き伸ばし、そこから上下左右にぐにぐにしてくる。
こいつ遊んでやがるな。いや、遊びじゃなかったら、顔の左右に穴が空いちゃう訳だけど。
「ケイトさんには、手伝って頂きかったんですが……」
「お嬢、諦めましょう。この二人に暇を与えてしまったこちら側に非があります」
研究所の二人は、なにやらボソボソと相談しているみたいだが、俺はアイシアに反撃のほっぺたグニグニをしていたので、話している内容は聞こえてこなかった。
◆
「お待たせしました」
「って、二人とも何やってんの?」
俺の石の形を真似た右の手が、アイシアのこちらは剣を模した右の手によって切り裂かれて、本日三度目になる、ほっぺたを上上下下丸三角の形に動かすやつをやられていたところで、先ほどの検査(多分)の結果が出たらしい。
本来なら石と剣と草原の三竦みで成立するはずのこの遊びも、アイシア基準でやると剣の一強になってしまう。こいつ、負けが込んでくるとアイシア基準適応してきやがるからな……。私なら全部切り裂けるっていう理屈、やめてくれ。
「「暇潰し」」
「だろうねえ」
「大変仲がよろしいのは分かりましたが、こちらは興味深い結果を得ることができました」
俺達は、協力者と顔を向き合わせる。
「まず、一点目。喜んでください、今回の騒動は魔獣の仕業です。はい、はくしゅー」
「「「「わー!」」」」
パチパチと手を叩き合わせて全員を称える。こういうの結構大事。
シノアが、頃合いを見計らって手を上げ下げすることで、こちらの拍手を制止する。
まず、ってシノアがつけていたので分かったことは二つ以上あるのだろう。
「そして、もう一点ですが、その魔獣の正体が分かりません!これから、捕獲に行きましょう!」
「え?」
「は?」
正体不明ってどういうこと?




