第二王子、落ち込む。
「それとユティア・サフランス嬢について、もう一つだけ話しておきたいことがあります」
ルークヴァルトが話を続けると、その場の三人は「今日はいつもよりもよく喋るなぁ」と言っているような表情を浮かべたため、軽く咳払いをしてから言葉を続けた。
「彼女は……魔法を創ることに関して、長けているようなのです」
「あら、それじゃあ……。そのご令嬢の趣味は魔法を創作することなのかしら?」
イルンが楽しげに訊ねてきたが、ルークヴァルトは静かに首を振る。
「いいえ。……魔法を創ることは彼女にとっては趣味を満喫する上で必要なもの、という立ち位置のようで……才能があることを自覚していないようなのです」
「ええっと、つまり……。サフランス嬢の趣味は別にあるけれど、その趣味を楽しむためだけに新しい魔法を創っているということかな?」
自分の言いたいことをカークライトは的確に言い当てたため、肯定するように頷き返した。
「魔法を創ることが趣味ではないのですが、それでも彼女は……数年前から魔法を創っていたようで、そのほとんどを魔法管理局に登録していなかったようなのです」
「あら」
「まぁ」
イルンとサラフィアはすぐに言葉の裏に乗せていた意味に気付いたようで、驚いたような声を上げる。
「え、でも今年、学園に入学してきたということは……」
「そうです。ユティア・サフランス嬢は魔法管理局に自分で登録が出来る15歳よりもずっと前から魔法を創っていました」
「それは……」
三人はごくりと唾を飲み込んでいる。恐らく、彼らの反応は世間一般の反応と変わりないだろう。
……だが、ユティア嬢は自覚していない。己の探究心がどれほど貴重な才能なのかを。
ユティアはただ、己の趣味──「昼寝」のために新たな魔法を創っているだけだ。
彼女にとっては昼寝の快適さを求めることは重要であり、そのために魔法を極めるのは「当たり前」のことなのだろう。
だが、それは才能の一種だとルークヴァルトは思っている。
一般的に魔法を創ることが出来るのは15歳以上からだと言われている。それは学園に入り、魔法の創り方を授業の中で学べる機会があるからだ。
そして、魔法を発動させることが安定するようになるのが、個人差はあるが15歳程からだと言われている。
だが、ユティアはそれよりも以前から魔法を上手に扱ってきている。
それが趣味のためだとしても、才能と言わずに何と言おうか。
「……なるほどねぇ」
イルンが面白いと言わんばかりに笑っている。
「放っておいたら、色んな場所から引き抜きの声がかかるでしょうね」
「ええ」
魔法が有能な人間はその実力に見合う場所へと誘われることが多い。
ユティアは今のところ、表向きに魔法を使い、目立つようなことはしていないが誰かの目に留まれば、声がかかることになるだろう。
彼女の実力は本物だからだ。
「それで、彼女が創った魔法の中に『特別指定魔法』に入りそうなものがありまして」
「あらあら」
もはや、驚かなくなっている母は随分と楽しげに笑っている。
特別指定魔法とは、一般人向けに公表されない魔法のことだ。
その魔法を使う人間だけでなく、存在を知る人間も限られるもので、許可が無ければ使用が出来ない仕組みになっている。
誰であっても使用が禁止されている禁忌指定魔法とは違い、ある程度の手順を踏めば使用出来るようになっているが、その許可を出すことが出来るのは魔法管理局の局長かもしくは国王だけだと言われている。
つまり、重要度が高い魔法なのだ。
それをユティアは簡単に作ってしまっていた。
「なので、彼女が創った魔法を特別指定魔法として登録しておきたいのです。……説得したところ、彼女も魔法管理局に登録しに行くと言ってくれましたので、今度連れて行こうかと思っています」
「ふむ……特別指定魔法ねぇ……。まぁ、その辺りは魔法管理局の局長が判断してくれるでしょうね。……分かったわ。私の方から魔法管理局の局長に話は通しておくわ」
「ありがとうございます」
「でも、『連れて行く』と言っていたからには、あなたもサフランス嬢と一緒に魔法管理局に行くつもりなのよね、ルーク。それはエスコートの件を申し出た後日にお連れするつもり?」
「……そのように予定しています」
やはり、その一言はしっかりと聞いていたようだ。
「それじゃあ、ちゃんと『第二王子』だということをサフランス嬢に明かさないといけなくなるわね。……それに魔法管理局に第二王子がとある令嬢を連れて行けば、一瞬で様々な噂が飛び交うでしょうよ。その辺りはちゃんと対策はしている?」
「……いえ、していませんでした」
エスコートの件とユティアの魔法を何とか魔法管理局に登録しなければ、とその二つだけを頭に置いておいたせいですっかり忘れてしまっていた。
ルークヴァルトは母からの追及に苦いものを食べたような表情を浮かべ、首を横に振る。
「そうだと思ったわ」
少々呆れたと言わんばかりの表情を浮かべる母に対して、返す言葉もない。
「もしかして、当日はサフランス嬢の家まで迎えに行くつもりだった?」
「……でした」
「浅はかだわ~。もうっ……。こういう部分だけ、あの人に似なくても良かったのに……。本当、大事なところは爪が甘いんだから……」
困った息子だと視線で語りつつ、母は頬に右手を添える。
「あなた、婚約を結ぶ前にそんなことをしてみなさい。ルークとの関係を確かめるために集中砲火を受けるのはサフランス家とあなたの想い人のサフランス嬢よ。迷惑がかかることを考慮していなさ過ぎよ。全く……空気を読める男になりなさいとあれ程、言い聞かせて育てたというのに……」
「うっ……」
「そのご令嬢と早く距離を詰めていきたいのは分かるけれど、周囲の目があることを忘れないようにしないと、一番被害を受けるのはサフランス家なんだから」
「……はい。仰る通りです」
母が正論過ぎて、ルークヴァルトは何も言い返せなかった。
確かに魔法管理局にユティアを連れて行くことを約束した際、彼女ともっと距離を縮めたいと思い、家まで迎えに行く提案をしていたことを思い出す。
母は何でもお見通しなのではと思えるほどに、ルークヴァルトが行おうとしていたことを容易く看破した。
むしろ自分よりも母の方がユティアの立場や気持ちを考慮しているように思える。
自分の駄目な部分を客観的に見直したルークヴァルトは己の身勝手さと不甲斐なさに少々落ち込むことになった。
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