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白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中  作者: 伊月ともや
一章 お昼寝令嬢、第二王子と出会う。
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第二王子、誓う。

 

 ふわりと重苦しい空気を和らげるような笑顔がこちらへと向けられる。


 ……本当に母上には敵わないな。


 母から慈愛に満ちた瞳を向けられたルークヴァルトは居心地の悪さを感じてしまい、つい視線を逸らしてしまう。

 まるで全てを見透かされているような気分だ。


 だが、それを悪いものだとは決して思わなかった。母は自分のことをちゃんと「息子」として見てくれているのだ。

 それがどのような場合であっても対等に尊重しつつ、接してくれるのだから嫌なわけがない。


「……ルーク。あなたは覚悟を持って、『特別な人』と接したいと思っているのでしょう?」


「……そうです」


 この母の前では嘘を吐くことは出来ないと分かっているルークヴァルトは素直に言葉を返した。


 すると、イルンはルークヴァルトの答えに満足しているのか、ゆったりとした笑みを浮かべ返してくる。

 しかし、その笑みの中に何かの含みが抱かれているように感じていた。


 見たことがある笑みだ。

 そう、例えば──何か不注意をしでかした父を叱る直前の表情によく似ていた。


「ならば、あなたの全身全霊を以て、その子を守り切るとこの場で宣言してみせなさい。私達が証人になるわ。でも、その宣言を破るようなことがあれば──そうね、()()()をしましょうか」


 優雅に、だが静かに威圧を放つ母の言葉にルークヴァルトはごくりと唾を飲み込んだ。


 宣言をする当事者ではないはずの兄も引き攣った表情をしている。自分と同じように、母が口にした一言に反応しているようだ。


 イルンが発した「再教育」とは、王家の人間の中で不品行な者がいた場合に行われる強制力の高い躾のようなものだ。


 その躾の内容としては武術や魔法、知識、社交と言った様々な面での教育が今まで以上に苛烈に執り行われるという。


 そこには「王家の人間」としての配慮は全く存在しないため、一個人を鍛え上げ直しているに過ぎない。

 むしろ、王家の人間だからこそ、決して甘やかすことなく過激に行えと言われている程だ。


 涙や汗、泣き言が連続で出る程だけならば、どれ程よいだろうか。

 この再教育では血反吐が出るようなことが容赦なく行われると聞いており、歴代の「再教育」を受けてきた者の中にはあまりの辛さに脱落した者も居たらしい。


 脱落した者の中には王家の籍から外された者もいたと聞いており、生まれながらに王子としての生を受けたルークヴァルト達はこの「再教育」の恐ろしさを幼い頃から言い聞かされて育ってきた。


 第二王子としての体面を保っているルークヴァルトも、今まで王子教育をしっかりと受けて吸収してきたからこそ、「王子」として成り立っている。


 しかし、「再教育」というのは、今までの王子教育よりもかなり激しく、厳しいものだ。

 しかも、それを受けたものは王子として問題ありと烙印を押されているようなものである。


 母は「再教育」を提示することで、自分に覚悟を見せろと言っているのだろう。


 王子としての矜持を持ち続けながらも、覚悟を示すことがどれ程までに責任が圧し掛かるものなのか、それを理解した上で進まなければならないのだ。


 だが、ルークヴァルトの答えは決まっていた。彼女のために守り切りたいと思った瞬間、気持ちは一瞬にして固まっていた。


 ……自分の中にも、これ程までに真っすぐに進みたいと思う感情があったんだな。


 ルークヴァルトは一度、姿勢を正し、真っ直ぐと母を見据える。

 まるで猛者に臨むような勢いで言葉を発した。


「──ルークヴァルト・アルジャン・フォルクレスは自身の名と想いに誓い、己の守りたいものを全身全霊で守り抜くことをここに宣誓します。つきましては、この場に居る皆様方にはこの誓いの証人になって頂きたく思います」


 淀むことなく、ルークヴァルトははっきりと告げる。その場に響く声に震えは含まれてはいなかった。


 イルンの視線はルークヴァルトを真っ直ぐと捉えて、そして彼女はゆっくりと頷き返した。


「あなたのその宣言、このイルン・タクティス・フォルクレスがしっかりと聞き入れました」


 にこり、とイルンは笑い返してくる。

 後戻りは出来ない、許さないと言わんばかりに。


「さて、これでルークも腹を括ったようだし、あとであの人に報告しておくわね」


 あの人、とは父である国王のことだ。ルークはこくりと頷き返した。


「ふふっ、それにそのご令嬢を守りたいと思っているならば、私達ももちろん力を貸すから安心しなさいな。ご令嬢だけでなく、相手の家も徹底的に守るためならば、色々とやってあげるから任せておいて」


 そう言って、イルンは黒いことを考えている表情を浮かべる。それに同意するようにサラフィアも頷き返した。


「そうですわ。何と言ったって、王家に連なる方になるんですもの。そして、私の未来の義妹として仲良く……ふふふっ! 私、兄妹は兄だけしかいませんから、ずっと妹が欲しかったのです。そのご令嬢にお会いする日が楽しみですわ!」


「あら、それなら私の義理の娘にもなるのだから、せっかくだし三人で何かしたいわね」


「いいですわね! 三人でお揃いのドレスを仕立てて、王宮でのパーティーの際に着るのはいかがでしょうか」


「まぁ、良い案だわ! 採用!」


「……」


 ここはびしっと、色々と宣言するつもりだったが結局、母と義姉に流れを持って行かれている気がするが気にしてしまっては負けだろう。


「……あー……。情勢や派閥も大事だけれど……とりあえず、相手の気持ちを一番大事に、ね」


 カークライトからは慰めるような言葉がかかったため、ルークヴァルトはこくんと頷き返すしかなかった。

 真面目な話をするつもりだったが、やはりいつもと同じように空気は緩くなってしまったらしい。

 

 

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