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白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中  作者: 伊月ともや
一章 お昼寝令嬢、第二王子と出会う。
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お昼寝令嬢、魔法を教える。

 

 気を取り直して、ユティアはさっそくルークヴァルトに教える予定の防御魔法についての話をすることにした。


「それでは、さっそく防御魔法についてお教えいたしますね」


「……ああ、宜しく頼む」


 ルークヴァルトは軽く頭を下げてくる。簡単に頭を下げて物事を頼むような貴族を滅多に見かけないので、彼の素直さには驚くばかりだ。


 ……せっかくなので分かりやすいようにと、説明を紙に書き記したものでも用意した方が良かったかもしれませんね。


 人に魔法を教えるのは初めてだ。魔法を教師から習うことはあるが、ユティアの場合だとほとんど快適な「昼寝」のために自分で魔法を調べて覚えることの方が多い。


 なので、ルークヴァルトが理解出来るように、上手く教えることが出来るか少しだけ不安だ。


「うーん……。最初は言葉で伝えるよりも、実際に体験してから感覚を覚えて、そのあとご自身で魔法を発動させた方が分かりやすいかもしれませんね」


 「習うより、慣れろ」である。

 ユティアは膝を少しだけルークヴァルトの方へと進める。


「ルークヴァルト様。両手を少し、貸して頂けますか」


「両手?」


「はい。……ああ。触れるのがお嫌でしたら、別にどこでも構いませんよ」


 出来るならば直接、肌に触れる方がやりやすいが、彼が嫌がるようならば、肩でも腕でもどこでも構わない。


「いや、そのようなことはないが……」


 ルークヴァルトは少々口ごもりつつもユティアの方へと両手を差し出してくる。どうやら、触れても良いらしい。


「では、触れさせて頂きますね」


「あ、ああ」


 ユティアはゆっくりとルークヴァルトの両手を自身のもので包み込むように掴んだ。


 ……男性の手を握る機会なんて、お父様かお兄様くらいしかなかったけれど、思っていたよりも大きいし硬いのね。


 そして、良く見ると彼の腕は昼寝の際の枕にちょうど良さそうな感触と太さだということに気付く。

 そんなことを考えていたがルークヴァルトの腕を枕にするなど失礼そのものなので、ユティアは必死に、過った考えを頭の中から逃がしていった。


「今からルークヴァルト様の身体に、私に施している防御魔法と同じものをかけさせていただきます。感覚をしっかりと覚えて下さいね」


「分かった。宜しく頼むよ」


「はい」


 ルークヴァルトの手を握りつつ、ユティアはゆっくりと息を吐いてから、体内から己の魔力を出力させていく。

 ユティアの魔力が流れてくることに気付いたのか、ルークヴァルトの肩が少しだけ揺れた気がした。


「……──光導く森の息吹は満ち足りて。汝が纏う鋼の盾となる」


 ふわり、とユティアの髪が魔力の動きによって揺れていく。ルークヴァルトはユティアの魔力を拒むことなく素直に受け入れてくれるので、とてもやりやすく思えた。


「見えぬ鎧よ、邪なる心を打ち砕け──透き通る鋼の鎧クラルティ・アルミューレ


 瞬間、ユティアが出力していた魔力はゆっくりとルークヴァルトを覆っていく。


 これは例えるならば目には見えない薄い鎧に近いだろう。害意や悪意を感知すれば、魔法を纏っている本人の意思がなくても攻撃を退けることが出来るのだ。


 ルークヴァルトに魔法をかけ終わったユティアは握っていた手をゆっくりと離してから、首を傾げつつも訊ねてみる。


「いかがでしょうか」


「……何となく、この魔法がどういうものなのか、分かった気がする」


 魔法を直接、身に受けてどのようなものなのかすでに理解したらしい。余程、魔法に関する才能に恵まれているのだろう。


「魔法の効果を試しても良いだろうか。良ければ、俺に攻撃して欲しいんだが」


「分かりました」


 ユティアはすかさず、魔法で昨日と同じ氷の短剣を作り出す。


 しかし、思いっきりに投げるのはさすがに躊躇ってしまったので、ルークヴァルトに向けて氷の短剣を軽く放り投げることにした。


 ルークヴァルトへと投げ放った氷の短剣は接触した瞬間に弾け飛び、昨日と同様に粉々になってしまう。残った氷の破片は太陽の光によって、全て溶けていった。


「……と、いう感じの効果ですね」


「なるほど……」


 ルークヴァルトにかけた防御魔法はしっかりと機能しているようだ。他の人の身体に魔法をかけることに慣れていないため、ちゃんと成功したことに少しだけ安堵する。


「ちなみにこの効果はどれ程の時間、続くものなんだ?」


 ルークヴァルトは自身の身体にかかっている見えない魔法の痕跡を探すように、身体の色んな場所へと視線を向けながら訊ねてくる。


「そうですね……。四六時中でしょうか」


「え?」


「ん?」


 その場に沈黙が流れていく。


「えっと、自ら解除するか、魔力切れを起こさない限り、機能し続けますよ。私も魔力切れを起こすことは滅多にないので、ずっとこの魔法を使いっぱなしの状態にしています」


「……つまり、サフランス嬢は四六時中、この防御魔法をかけている状態なのか」


「そういうことになりますね。まぁ、普段から私に悪意を持って近づいてくる人なんて、そんなにいないのでこの魔法が効果を発揮する方が珍しいですけれど」


 ユティアがそう答えるとルークヴァルトがどこか遠いものを見るような瞳をしていた。どうしたのだろうか。

 

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