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第二十六話

前回、UPした26話以降に甚だしい不備があったため、なおして再UPすることにしました。若干内容も変えようと思います。


以前に読んでいただいた方、まことに申し訳ありません。

26

 カルロスはドルミナの街でベアーとラッツの手掛かりを探したがその収穫はゼロであった。途中スターリングと合流して捜索を続けたが結果は変わらなかった。


「ベアー君が買い戻そうとしたマントの店の主人にも会いましたが、ベアー君は来ていないそうです。」


「他に目撃者は」


「残念ながら、いません……」


スターリングは報告を聞きながらイラついた表情で地図を見ていた。


「どうかされましたか?」


 スターリングは地図をカルロスに見せた、そこには緑色で印がされた地域が広範囲に広がっていた。


「なんですか、それ?」


「ブルーノ伯爵の土地よ」


地図の範囲はドルミナ全体に点在していた。


「えっ…こんなに広いんですか」


カルロスは素っ頓狂な声を上げた。


「ブルーノ伯爵の土地がこれだけあるなんて思いもしなかったわ……」


「この範囲を捜査するなら2週間はかかりますよ」


カルロスはそう言ったがスターリングは厳しい表情を見せた。


「この案件は秘密裏に処理するように上から命令されてるの」


「どういうことですか?」


「他の広域捜査官の手を借りられないのよ」


「じゃあ、二人でこの範囲を……」


カルロスは憮然とした表情を見せた。


「そんな、ベアーもラッツも偽造小切手の犯罪組織に誘拐された可能性があるんですよ、それなら広域捜査官が動くのが筋でしょ!」


「無理よ、憶測だけでは。それに広域捜査官は偽造小切手以外の案件もかかえてる、確実な証拠や証言がないと動けないのよ、それに事件が事件だけに普通の治安維持官は捜査に加えられない」


貴族絡みの犯罪には枢密院の許可が必要になる、一般の治安維持官では手が出せないのだ。


スターリングはほぞを噛んだ。


「詰んでるわ、私たち……」


カルロスは沈黙した。



27

 一方、同じころ、ロイド邸ではルナとロイドが話し合っていた。


「じゃあ、ルナちゃん、それがあれば……」


「あれがあれば、何とかなると思います。そうすれば魔法をつかって……」


ロイドは厳しい表情を見せた。


「しかし、魔法の行使は許されていない……」


「でも……このままなら……」


ルナは肩を落とした。


ロイドは顎に手をやると目を閉じた。彼の脳裏ではベアーを助ける行為と魔法を行使するリスクが天秤に掛けられていた。


『やむをえまい……孫を助けてくれた借りがある』


ロイドは立ちあがると口を開いた


「よし、探してみよう」


ロイドがそう言うとルナの表情がパッと明るくなった。


                                *


 目的のモノはベアーの部屋で簡単に見つかった。ロイドは洋服ダンスの棚にあるそれを手にとるとルナに声をかけた。


「これかね?」


ロイドがそう言うとルナは眼を輝かせた。


「それです、アトマイザー!!」


ベアーがかつて炭焼き小屋の主人から渡された香水入れであった。


ロイドが渡すとルナは即座に中身を確認した。



 だが……ルナは絶望的な表情を見せた、なんとアトマイザーにほとんど液体が残されていなかったのである。



「この量じゃ、魔封じの腕輪の効果を消せるかどうか……」


ルナが不安な表情を見せるとロイドは腕を組んだ。


「何とかベアーの居場所がわかればいいんだが……」


「使い魔を行使すればわかると思います。でもこの量じゃ……途中で効果が……」


「途中までは、いけるのか?」


「ええ、でもどのくらいまでいけるかは……」


ロイドはしばし考えた。


「賭けてみよう、このまま見過ごすよりははるかにいい」


「でも、わたしたちじゃ」


ルナは『老人と子供では無理だ』と言う表情を見せた。


それを察したロイドはずる賢い笑みを見せた。


「私に考えがある」


ロイドはそう言うと階段を駆け下りた。



28

 ベアーがゴミを片づけ終わり、与えられた部屋に戻ろうとした時であった、背後からいきなり肩を掴まれ、小部屋の中に引きずりこまれた。


ベアーが必死になって振り返るとそこには顔色の悪い痩せた男が立っていた。


「……頼む…クスリを………」


男はそう言うや否やバランスを崩してバタンと倒れた。


ベアーは恐る恐る男の顔を覗き込んだ。


『ひょっとしてブルーノ伯爵の息子さん……』


ベアーはロイドの話を思い出した。


『このままじゃ、死んじゃうんじゃ……』


ベアーがそんなことをおもった時である、ブルーノの息子が口を開いた。


「クスリ……」


ベアーのなかでひらめきが生じた。


「うまくいくかわかりませんが……」


ベアーはそう言うと人生で二度目の解毒の魔法に挑戦した。


                                *


「どうですか?」


ベアーが尋ねるとブルーノの息子は息をしていなかった。


『マジか、死んだのかな……10回ぐらい失敗したしな』


ベアーが脈をとると鼓動していなかった。


『ヤバイ、俺、失敗して、殺しちゃったのかな……』


そう思った時である、ブルーノの息子が跳ね起きた。荒い息を吐きながら胸に手を置いている。


「ありがとう……苦しいけど……頭の中は爽快だよ」


ブルーノの息子はそう言うとベアーを見た。


「どうかしたかね?」


「あなたはブルーノ伯爵の息子さんですよね?」


「どうしてそれを?」


「僕はフォーレ商会で貿易商の見習いをしているベアーといいます。ロイドさんからブルーノ伯爵の事と偽造小切手の『紙』の事を聞きました。」


ブルーノの息子、ハリスは驚いた顔を見せた。


「小切手の『紙』のことも知っているのか」


ベアーはうなずいた。


「そうか……でもここにどうして?」


ベアーは捕まった経緯を簡略して話した。


                                *


「ついてないな……それは……」


ハリスはベアーの話を聞いていたたまれない顔を見せた。


「僕は自分の失態でこうなったけど……きみは巻き込まれたんだね」


ハリスの顔色は悪く痩せ細った体は痛々しいが、受け答えは正常に思えた。


「大丈夫なんですか?」


ベアーが尋ねるとハリスは首を横に振った。


「大丈夫じゃないよ、禁断症状で正常な精神はもう保てなくなっている、君の解毒の魔法が効いてるから、今は問題ないだけど……」


そう言ったハリスの手は震えている。


「しかし、この状況下でまともな人間と話ができるとは……まだツキがあるようだ」


ハリスの表情を見てベアーは安心した。


そんな時である、ハリスが急に真顔になって呟いた。


「さっき、君がリアンという娘に話していたことは僕にとって身につまされるものがあったよ。『振り返る勇気』だっけ、僕にもそれがあれば……」


ハリスがそう言った時である、二人の耳に足音が聞こえてきた。


「マズイ、隠れるんだ!」


言われたベアーは扉の裏に身を潜ませた。


                                  *


扉を開けて入ってきたのは眼帯の亜人であった。


「どうした、貴族の兄ちゃんよ、アヘンでラリッてもう何にもわかんねぇだろ」


眼帯の亜人はブルーノの息子に近寄った。


「お前のおかげでこっちは大儲けできそうだぜ。『本物』の『紙』を用意してくれたおかげで当局の連中もきりきり舞いさ」


眼帯の亜人はキセルを吹かすとその煙をハリスの顔に吐きかけた。


「もうすぐ、みんな楽になれるからな」


とてつもない悪意を含んだ笑みを浮かべると眼帯の亜人は踵を返した。



                                *


ベアーが無事にやり過ごせたことにホッとすると、それを見たハリスが口を開いた。


「多分、皆殺しだな」


「えっ?」


「あの亜人は『みんな楽に』って言っただろ」


ベアーは頷いた。


「あれは殺すって言う意味だ、用無しになった職人や君たちの息の根を止めるってことだよ」


ベアーは驚きを隠さなかった。


「逃げる方法を見つけるんだ、さもないと……」


そう言うとブルーノの息子は体を痙攣させ始めた。


「駄目だ、禁断症状が……」


ベアーは体を震わせるブルーノの息子に再び解毒の魔法を試みようとした。


「僕のことはいい、それより、とにかくここから逃げるんだ……」


ベアーはブルーノの息子の声に押されると小部屋を出た。




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