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第五十七話

さぶさがきつくなってまいりました。皆さまコロナはお気を付けください。相当蔓延しています。

(特に受験生!)

29

さて、ジョージである──枢密院での審問を終えたジョージは近衛隊に送られてポルカ近郊の安宿にその身を置いていた。自宅に戻ることも社屋に戻ることも面倒が生じると判断されたためだ。


ジョージはテーブルにあった瓦版をそれとなく手に取った。


「これで私も終わりだな…」


瓦版の紙面にはすでにジョージズトランスポーテーションのイカサマが大々的に乗せられていた。



『積み荷が空、それを知るはずの荷夫は水死体!』


『ジョージズトランスポーテーションに認可を与えたバッハ卿と癒着か』


『蒸気機関はいまだ開発途中、それともポンコツか?』



 見出しはセンセーショナルである──貴族に対する献金や株価の操作など様々な疑惑も書かれている。根も葉もないものあったが広域捜査官のジェンキンスガ死んだことやミル工場の炎上など真実も少なからず書かれている。



『ジョージズトランスポーテーションの経営者は雲隠れ』


『ジョージズトランスポーテーションの株価はストップ安、倒産間近か?』


『経営の責任はいかに、社会に与えた影響は計り知れない!』



 虚構と真実が絡み合った記事は面白おかしくもあったが、その当事者としては平常でいられる余裕はみじんもなかった。糾弾内容も厳しく反論の余地があるようにも思えない。



「もうどうにもならんな」



 ジョージズトランスポーテーションの株価が記される欄には斜線がひかれている。取引停止が証券所により実行された結果の所為である。


「倒産だな…短い春だった」


 ジョージはこの先、社会から糾弾されその賠償を負わされることになると理解した。関係する業者や両替商から資産を切り取られ、さらには世間の厳しい目にさらされると…


 一文無しになるだけでなく一生、冷たい視線を浴びることになるのは間違いない。うつけとののしられ、人にあらずの人とさげずまられるであろう。デモがイカサマであるならば賠償金の発生もやむなしである。


賠償金は個人の資産からも容赦なく切り取られる、ジョージが一文無しになるのは間違いない。



「死んだほうがましだな…」



ジョージがふと思ったときである、安宿の入り口に瓦版の記者とおぼしき連中がおしかけてきた、


全員ジョージのインタビューを取ろうと躍起になっている。どこかで情報が漏れたのだろう。


 店の主人が応対していたが、もめごとは勘弁しほしいという意図がありありとうかがえる。記者たちが部屋まで乗り込んでくるのも時間の問題だ。



「潮時だな。」



そうおもったジョージは宿の裏口へと足を向けた。


                              *


 裏口を抜けて記者をまいたジョージは当てもなくふらふらと歩いた。その脳裏には事故で死んだ父と早くで亡くなった母が浮かんでいた。


「…ダメだったよ、親父…」


ジョージはぽつりとこぼした、


「おふくろ、すまない」


 父が亡くなった後、女手一つでジョージを育てた母はジョージの卒業を待つことなく、はやり病で亡くなっていた。ジョージが上級学校2年時のことである。学生のジョージが実家に戻りついた時にはすでに母はこと切れていた。



 死に水の取れなかったジョージは心に痛手を負ったが、その隙間を埋めるがごとく必死になって勉強した。それしか精神の安寧を保つ方法がなかったからだ。


 そしてその結果、ジョージは発明家という道を選んでいた。苦労の連続と資金難の日々は甚だつらかったが蒸気機関が出来上がる様は本人の自信にもつながった。


 だが現実は厳しいものがあった、ムラキという投資家の策謀により技術者としての思いは寸断されていた。



「何もできなかった、何もできなかったんだ!」



 ジョージの人生は親孝行どころか、蒸気機関発明の利権の渦に巻き込まれ、ひいては悪事に加担するという事態になっていた。


 父のような船乗りが命を落とさなくするために作り上げた蒸気機関の発明は皮肉にもジョージの未来を悪い方向に導いたのである──技術者としては甚だ遺憾な末路であろう。


「助けてもらった命だが……心が持たない…」


そう思ったジョージは立ち上がった、



「この先の身の振り方くらいはわかる」



そう思ったジョージはふらふらと歩きだした。


                               *


 ジョージは寒村の雑踏を足早に抜けた、目に映る光景はすべて灰色である。精神に異常をきたし始めているのだろうか、



「高いところに行くんだ、そうすれば…」



 ジョージの目の前には灯台があった、灯台守がいない休憩時間にいけばそのてっぺんまでいける。



「あそこから、なら」



 ジョージは外階段に足を乗せようとした、心身ともに疲弊して正常な思考などままならない。精神の安寧は死をもってのみもたらされると信じて疑わない。



『これでいいんだ、これで…』



 ジョージの表情が嬉々とした、すべてを終わらす最高の手段──ジョージはすでに腹をくくっていた。



『…親父…俺も海の藻屑になるよ…』



 ジョージがそう思った、その時であった。すさまじい勢いで馬車がなだれ込むとジョージの前で止まった。



精神的に追い詰められたジョージは危うい道を選んだようです。さて、彼はこの後どうなるのでしょうか?


次回でこの章は終わりとなります。

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