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第五十話

寒い!今年は例年よりもさむいです。コロナも流行っておりまして東京は大変です。

ちなみに作者の実家はコロナで全滅しかけました。(みんな、気を付けるんだぞ! 特に受験生)

16

病床のジョージは目を覚ました。意識は曖昧で今までのことを思い起こすものの、判然としない。


『…ミル工場の廃屋に連れられて、それで…ベアーという少年とケセラセラの経営者を助けようとして…それで…殴られたんだ』


ジョージはけがの痛みを感じないことに不可思議な印象を持った、


『そうか、痛み止めか…』


ジョージは殴られた箇所に包帯がまかれていることに今更ながら気づいた、



『なぜ、助かったんだ?』



素朴な疑問が沸き起こった時である、病室のドアがノックされた。


                               *


 入ってきたのは3人の人物である──1人は執事服に身を包んだ男である、端正な顔立ちだが、妙に寒々しい目をしている。もう1人は少年である、どこにでもいそうな風貌だが見覚えがあった。そしてもう1人、10歳くらいの少女がいる。


「気づかれましたか?」


声をかけたのは見覚えのある少年である、


「ここはマーベリックさんの息のかかった病院です。傷の手当ても終わっています。安心してください」


少年がそう言うとジョージの記憶が再び巡った。


「君が助けてくれたのか?」


ジョージがそう言うと少女がすっと前に出た、


「私も助けたんですけど!」


何が起こったわからないジョージに対してマーベリックが状況を説明した。



「かくかくしかじかです」



ジョージは状況を理解するとため息をついた。



「…そんなことが…」



 ミル工場に火の手が上がり、拉致されたベアーたちが殺されかけたこと、そして近衛隊と連携したマーベリックの手下が現れるとベアーたちを救ったこと…


 そして倒れていたジョージをベアーとルナ、そして不細工なロバが死地から救出したこと、マーベリックが時系列で述べるとジョージは再びため息をついた。



「…そうですか…」



ジョージが3度目のため息をつく、


「ジェンキンスは死んだが、近い将来、訴訟としてこの事案を表に出すことになる。その時、あなたの証言が重要になる。」


マーベリックが述べるとジョージが淡々と答えた、


「もう失うものはありません、構いませんよ」


それに対してマーベリックが反応した、


「賢明な考えだと思います、証拠隠滅のためには手段を択ばない相手だ。逃げ隠れしたとしても助かる見込みはないでしょう。身の保全を図るならば思い切って表に出たほうがいい」


マーベリックの見解にジョージは同意した、


「…そうですね…」


ジョージはそうこぼすとベアーを見た、



「君たちには世話になった、まさか助かるとはな…」



 ジョージは憑き物が落ちたかのような表情をみせた。年相応の50代の顔がある。やつれてはいるが明白な意思が見て取れる。


「拾ってもらった命だ、君たちに役立ててもらって構わんよ」


 ジョージがそう言った時である、部屋のドアが突然にノックされた。ガチャリとドアノブが回るとハンチング帽をかぶった少年が現れた──ラッツである。



「おお、みんな揃ってんじゃん!」



 瓦版の記者としては最高のシチュエーションである、関係者の中核がそろっていることに記者魂が沸き起こる。


「インタビューさせてくれよ!」


ラッツが意気揚々と言うとマーベリックが冷たい視線を浴びせた、


「かかる懸案について真実を暴露されては困る。記事にするのであればすべてが終わってからにしてもらおう」


 マーベリックは容赦なくラッツに詰め寄った、情報漏洩を嫌ってのことである。殺気だった黒衣の執事の醸す雰囲気にさしものラッツも閉口する。


「ちょっとだけでいいんですけど~」


 ラッツは何とか食い下がろうとした。特ダネになるであろうインタビューをいち早く手に入れたい願望がありありと窺える。


だが、マーベリックはにべもない態度をとった。



「記事を書きたいなら私を倒してからにしろ」



 マーベリックが冷徹な爬虫類のごとき表情で詰めるとさすがのラッツも二の句を告げられなかった。ベアーに助け船を求めたが、ベアーも無理だとジェスチャーを見せた。



「チェッ!」



ラッツは口をまげて悪態をついた。


そんな時である、思わぬ事態が生じた。なんと病棟の明かりが突如として消えたのである。



想定外の事態に皆は不可思議な表情をみせたが、マーベリックだけが異なる表情をみせた。



「お前、つけられたんじゃないのか?」



 ろうそくをすばやくつけたマーベリックの口調は淡々としている、一方、言われたラッツは唖然としている。まさかの言葉に挙動不審になっている、



「いや、そんな…俺…ジュリアさんに病院の場所を聞いて…」



マーベリックがその眼を細めた、



「ジョージの入院は一部の人間しか知らない情報だ。」



マーべリックが諦観した、



「情報が漏れていないとなると、お前がつけられたとしか考えられん」



マーベリックがそう言った時である、いずこからともなく悲鳴が聞こえた、



「狙いはジョージだ、我々の先手を打ってきたんだろう」



マーベリックの表情が厳しくなる。



「近衛隊の警備をつけている、それでも敵は抜けてきた──ただ者ではないということだ」



マーベリックはそう言うと全員を見た、



「刺客の到来だ!」



17

二人の女は受付に行くと病状を訴えた、一人は腰が痛いといい、もう一人は膝がしびれるとうったえた。ともに50がらみの女である、町人服を身にまとっているがどことなく落ち着きがない。体調不良がありありとうかがえる。


受付の職員が『予約があるか』と尋ねると、二人の女は首を横に振った。


「もう、受付の時間は過ぎているんですが」


 職員が不快に言うと二人の女はすがるような視線を職員に浴びせた、病人の持つ社会的弱者の特権を垣間見せる、さらには職員に対して中年特有のいやらしい視線を浴びせる。


気圧された職員はため息をついた、


「椅子に座ってお待ち下さい、カルテを作りますので」


二人の女はうなずくと素直に従った、



 そんなときである、病棟の明かりが突如として消えた──受付の職員は怪訝に思いながらも非常用のカンテラに明かりをつけるべくマッチを擦ろうとした、


「あれっ…火がつかないぞ…」


職員は自分の視野が急激に変化することに妙なものを感じた、



「なんで床が見えるんだ?」



物理的にあり得ぬ光景に職員は理解が及ばない、



「どうして床が近づくんだ?」



職員の男の聴覚にごとりという重い音が響く、それと同時に思考が薄れていく、


そしてその眼に先ほどの50がらみの女が映った、



「悪いね、あんたには恨みはないんだけどね」



女が嗤う、前歯が小さくギザギザしている、職員は初めてそのとき理解した。



『…俺の首…胴体と離れてるじゃないか…』



職員最後の思考であった。




とうとう敵が動き出しました。次回は『山』となる予定です。

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