表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
580/589

第四十九話

今回は後半の『山』につながる話となります。


15

一難が去ったロイドたちはロイド邸に集まると今までの事態を精査していた。


「状況は悪くない、ジョージズトランスポーテーションの悪行を白日の下にさらすことができる可能性が高い」


息まいたのはロイドである、持病のリウマチが小康状態になると皆の前で発言した。


「拉致された挙句にあれだけの事故を経験したのだ、我々の発言を無下にはできんはずだ」


実際、その通りであった。ミル工場の廃屋が原因不明の爆発事故を起こしたことで世間では様々なうわさが流れ始めていた。


以下はその一部である、



『なんで、あんな大きな事故が廃屋で起こるんだ?』


『…けが人も出てたぞ…』


『…武装した連中もいたし…』


『なんか、おかしくねぇか?』


『広域捜査官の幹部もいたとか…いねぇとか』


『盗賊の根城だったのか?』


特にその現場で広域捜査官のジェンキンスが死亡したことは少なからぬ余波を広げている。広域捜査官たちも重大事案として捜査に乗り出した模様である。カルロスとスターリングの動きによって明らかに流れが変わっていた、



『死人も出てるらしいぞ』


『ジョージズトランスポーテーションの買収した施設だよな、あそこ』


『絶対何かあるよな』


『何か実験でもしてたんだろうか?』



瓦版でも事故の有様を伝え始めている、根も葉もない憶測もあるが意外に正確なものもある。


ロイドたちは様々な情報と自分たちが経験した事実を突き合せた。


「あれだけの事故ですからね、世間が注目しないはずがない!」


大声を出したのはウィルソンである、


「証拠隠滅どころか、こっちは手足もぴんぴんしてる、出るとことに出てやりましょうよ!」


興奮したウィルソンに続いたのはジュリアである、冷静沈着な秘書もその顔を紅潮させた。


「訴訟にすることで今までのことを明らかにする。そうすれば向こうは大きな打撃を受けるはずです。真実が白日の下に暴露されればうちに対するバッハ卿の買収だって阻止できるはずです。」


ジュリアはそつない見解を見せる、


「ジェンキンス氏が死んでも我々にはジョージさんという存在がいます。ジョージさんが生きている限り我々に勝機があります」


ジュリアの冷静な意見にロイドもうなずいた、


「そうだな、事案を表に出すことでこちらも反撃できる。窮鼠猫を噛むといったものだが、そんな緩いものではすまされない。ジョージという切り札がいれば向こうの悪行も露見するというもの──司法の場でジョージが真実を明らかにすれば疑惑が明らかになる」



 ロイドがそう言った時である、唐突に呼び鈴が鳴るとハンチング帽をかぶった少年が現れた──ラッツである。その表情は晴れ晴れとしている


「おお、君か──君にも大きな世話になったな!」


ロイドが素直に感謝するとラッツはしたり顔をみせた。


 マーベリックが近衛騎士団を引き連れてロイドたちを助けることができたのはルナと連携したラッツの情報によるものであった。ラッツは拉致されたベアーたちの後を追うと、ミル工場の廃屋を突き止めていたのである。それを街道筋に散らばる瓦版の情報網を使ってマーベリックに的確に伝えていた。


「ダチがやられるのをまざまざ見過ごすわけにはいきませんからね」


ラッツはそう言うと打算的な視線を浴びせた、


「これだけの事件ですからね、スクープなんてもんじゃありませんよ、独占取材ができれば瓦版の売れ行きだってうなぎ上りです。」


ラッツはにんまりするとその眼を細めた、


「裁判になるんだったら、世間ではさらに注目を集めることになるでしょ、そうすればうちの売れ行きはさらに上がりますよ」


ラッツはそう述べるとハンチング帽を脱いで殊勝な表情をみせた。



「あの、それから…おれにも、ボーナス的なものをこそっといただけると……うれしいです」



ラッツが本音をポロリと漏らすとロイドは嗤った、



「構わんよ、事案が終わったあとにな!」



 死地を抜けたことで皆の表情は明るい、だが、ジョージを裁判に出廷させて証言させることができるのかどうか……その点はまだ明らかではない、何よりもジョージのけがの具合はよくわかっていない。


「ジョージが裁判に出てすべてを明らかにしたら、関係者全員がほえ面をかくでしょうね。居丈高だった連中も顔面蒼白、貴族連中もちびるんじゃないですか。ジョージさんさえいてくれれば何とかなりますね。」


ラッツは瓦版の記者らしい見解を見せる──勘の良さは抜群だ、


「ジョージズトランスポーテーションの敢行したデモがインチキで、それを知る荷夫が水死。そこに一枚かんでいたのが広域捜査官のジェンキンス。そのジェンキンスもミル工場の廃屋で死亡…きな臭いったらありゃしない」


ラッツは興奮した面持ちを隠さない、



「司直の場で事件が明らかになればとんでもないことになりますよ!」



皆が同意するとラッツは気になることを尋ねた、



「ところでベアーと魔女っ子は?」



ジュリアが答えた、


「病院よ、ジョージさんの入院してるところに行ってるわ」


ラッツがすかさず反応した、


「あっ、そう──じゃあ、俺も行ってきます。あいつらにも会っときたいですし、インタビューもしたいですし」


 ラッツはそう言うとジュリアに住所をたずねた。そしてすぐさまベアーたちのいる病院に早足で向かった。


 だが、この行為……この後、大きな変動をもたらすとは……この時、ラッツはつゆとも思わなかった。 




次回は入院したジョージを見舞っているベアーたちのお話となります。さて、どうなるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ