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第四十八話

寒い!! コロナが流行っております。皆さまお気を付けください!

 半ばあきらめたマーベリックの目に入ったのは想定外の存在でであった。その存在は黒煙の流れを器用に避けると短い脚を回転させてベアーたちのもとにはせ参じる。



『…まじか…』



なんと、短い脚の不細工な生き物が3人のもとに駆け付けたではないか──ロバである。


小さな魔女とベアーは必死になると走りこんできたロバの背にジョージを乗せて駆け出した。



「こっちだ!!」



マーベリックの声が飛ぶ、



「旦那、無理です、もう持ちません」



一方、ゴンザレスが限界を訴える、



だが、マーベリックは叱咤した、



「持たせろ、なんとしてでもだ!」



 ニヒルで冷徹な自分の判断が正しいとは思えない。闇に潜んで様々な事案を経験した人間として自分の命令はいたずらに部下を危険にさらす可能性さえもある。


 だが、それでも、目の前でもがく少年と小さな魔女を助けたいという思が芽生えていた。ジョージを助けた後の策略もあるが、その打算よりも感情の揺らぎが大きい…この修羅場で救助に向かった二人の行動は無謀とはいえ、闇に潜みし男の心を燃やすものがある。



 しかしその思いを踏みにじるがごとく3人とロバのところに爆裂した金属片が飛んできた、不幸なことにその破片は避けられぬ軌道を描いていた、



『…無理だ…直撃だ…』



絶望がマーベリックを襲った。と、その時である、すさまじい金属音が届いた、


                                *


 なんと、近衛隊の一人が盾となってベアーたちに降り注いだ金属片を体で受けたのだ、鎧があるもののその衝撃は軽くはない。その額からは出血している。



「ヨシュア!」



 近衛隊の若き戦士は獅子となってベアーたちを助けるべく体を張っていた──思わぬ事態である。だが、その姿に感銘を受けた4人の元近衛隊が飛び出すとベアーたちの救出に乗り出す。



 獅子奮迅の立ち回りは炎の行く手を遮って退路を確保していたゴンザレスたちにも影響を与える、



「なにくそ!」



 燃え盛る炎と黒煙、飛散する金属片、ミル工場の連鎖爆発はベアーたちの命を削り取ろうと襲い掛かる、



「ダメか…」



 ゴンザレスが支えていた鉄と木であわされた厚板も温度が上がり、人の手で支えることはもう不可能だ、


 だが、そんなとき、その状況下でゴンザレスを支える者たちがあらわれた。それは敵となってベアーたちに立ちはだかった傭兵たちである。



なんと素手で熱した盾を支えたのである、



「よくわからねぇが、助けるぜ!」



「俺もだ」



「逮捕は勘弁してくれよ!」



「ついでに日当も頼むぜ」



 様々な意見が飛び交うが、彼らはベアーたちの救出を助太刀していた、金で動く傭兵たちはマーベリックに助けられたことに恩義を感じているようだ。そして何より目の前であがく少年と少女の姿に胸迫る思いを持っていた。


炎がまいて黒煙が生けるものに襲い来る、その状況下で命を懸けて救出劇が展開される。



「なにくそ!」


「速くしろ!」


「もう少しだ!」



叱咤と檄が飛ぶ、


だが黒煙は容赦なくベアーたちに襲い掛かった



「無理か、やはり」



 マーベリックがそう独り言ちごちた時である、一陣の風が吹いた。それと同時にロバと3人が駆け込んできた。


 普通ならあり得ぬことである、だが気づいてみればベアーたちはゴンザレスたちの作ったバリケードを超えて安全地域に足を踏み込んでいたのである。


                                 *


さて、それからしばし……ミル工場から離れたところ……


逃走を成功させた富裕な商人は完璧な証拠隠滅を遂行したと自負していた。


『逃げられるはずがねぇ、ククク…』


 計算して寸断した退路──あの炎とあらかじめ仕掛けた発破によるミル工場の爆発から逃れるのは不可能である、


笑いが止まらなかった、善意を持った人間が焼かれて死ぬ姿は得も言われぬ心地よさがある。



『ジェンキンスの野郎、殺してやった……最高だぜ!』



 広域捜査官の幹部をその手にかけたことは悪党として最高の武勲であろう。その震えの中にはには異様な高揚感と成就感があった、


さらには男にとって重要な物資も手に入れていた、



『最新の図面とデータ、ジョージの改良を施した蒸気機関の最新モデル』



 男はミル工場が爆発する前にすでにジョージの資料を手に入れていた、元盗賊らしい抜け目のない行動である。



『これがあれば後はどうとでもなる…』



男はほくそ笑んだが、その思いは一瞬で経たれた──その背中に悪寒が走ったのである。



「……お頭……いえ、ムラキさん…」



いつのまにやら、ムラキが男の後ろに立っているではないか。



「失敗したようだな」



その口調は事務官が応対するかのような無味乾燥なものである。淡々としていて感情がない。



「…いえ、そんなはずは…みんな、死んだはずです…あれだけの炎です、逃げられるはずがありません」



男の足が震える…



「証拠隠滅、たしかにミル工場の廃屋は炎上した、連続した爆発により証拠は消えた──だが、そこにいた連中はどうだ?」


ムラキはすべてを見通しているようだ、


「遺体を確認したのか?」


ムラキが静かに述べる、その口調に男は沈黙した。


「いえ。そのジョージの書いていた図面の回収に重きを置きましたので…」


富裕な商人は余計な一言が自分の命灯を消すと瞬時に判断した──うつむいて沈黙する。



「すでに手は打ってある、お前はライデン姉妹のつなぎ役に徹しろ」



男の顔がゆがむ、



「お頭…ライデン姉妹って……あいつらはマジでやばいですよ!」



その声色には非難さえも混じっている、悪人でさえも嫌忌する存在のようだ。



「裏社会の人間だって嫌がるんです、あいつらキチガイですぜ!仁義を切らない連中です、俺でさえ一緒に仕事はしたくねぇ」



男の物言いには今までにない覇気がある──拒否する姿勢を前面に出した



だがムラキは男に冷たい視線を浴びせた、



『俺に選択する余地はねぇってことか…』



 富裕な商人のいでたちの男は絶望すると放心した。その足元からちょろちょろと液体が漏れ出している──失禁していた。




九死に一生の状況を回避したベアーたちでしたが、それで物語はおわりません。ムラキは次の一手、ライデン姉妹を投入するようです。


果たしてこの後いかに?

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