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第四十七話

13

すべてが終わったと皆は思った。その表情には厳しさの中に事件落着に対する安ど感がにじみ出ている。皆は熱い息を吐くとその労をねぎらおうとした。


 だが事態はベアーたちの思ったようにはいかなかった。耳を引き裂くような爆裂音が突如として轟いたのである。



「伏せろ!!」



 マーベリックの声が飛んだ刹那である、思わぬ事態が生じた。なんとミル工場の廃屋から火が出て小爆発が起こったのである。


皆は驚いたが、それをあざ笑う声がとどろいた、



「ハハハッ」



嗤ったのはスターリングに矢を射られた富裕な商人の男である、



「保険をかけてねぇと思ったのか?」



 小爆発により吹き飛んだ破片が飛び散る、ランダムに配置された爆発物も意図的に連鎖するように仕掛けられているようだ。逃げまどった傭兵の一人が運悪く被弾するとその場に倒れこむ──その頭部は原形をとどめていない、



「うちのお頭はすべてをお見通しだ、最悪の事態も想定しているんだよ」



男の表情があくどくなる、



「お頭はあらゆる状況を考慮している。上には上がいるんだよ!」



 男が嗤う、すでに富裕な商人の様相などみじんもない。悪逆非道の卑劣漢としての人間性が沸きだしている。



「証拠隠滅だよ!」



 男がそう言うや否や連続して爆発が起こった。富裕な商人のいでたちをした男は自分だけが知る安全な経路へと足を運ぶ。



「お前たちに逃げ道はねぇよ、あはは!」



 小さな爆発が連鎖すると、今までよりも大きな爆発が生じた。それと同時に同心円状に火の手が上がる。ベアーたちの退路だけでなく、ジェンキンスの指揮していた傭兵たちも逃げ場を失った。あらかじめ仕掛けておいた発破がさく裂したようである。運悪く近くにいた傭兵の数人が吹き飛ぶ。



「火薬の量が多すぎたかな~」



 仲間を見捨ててもなんとも思わぬその精神性には悪逆非道の歩んだ男の本質が現れている。人が亡くなることに何の感慨もないようだ…


それに対して捕縛されていたジェンキンスが吠えた、



「裏切るのか、貴様!!」



ジェンキンスは続けた、



「このど畜生が!」



見捨てられたジェンキンスは怒りに身を任せた、



「それならばこちらも、いままでのことを──デモのイカサマで流れた金の流れを司直の場で明らかにする、お前たちのやったことをすべて暴露してやる!」



口から血反吐を吐きながらもジェンキンスはつづけた、



「私も広域捜査官のはしくれだ、ムラキのことは調べている、あいつの正体もわかっているぞ。あいつは……あいつの正体は…」



 ジェンキンスがムラキの正体に関してふれようとすると、そのどてっ腹に風穴があいた。向こう側の景色がくっきりと見て取れるではないか。


思わぬ事態に皆が驚く。



「余計なことはしゃべらなくていいんだよ!」



 富裕な商人のいでたちの男は背中につがえていた短筒を放っていた、短銃よりもはるかに口径が大きく3倍以上の長さがある、肩に担ぐと器用に一撃を命中させていた。



「うちの大将の話はご法度だ」



 富裕な商人は短筒の根本に再び弾を込め始めた、スターリングに射られたにもかかわらず、その動きに遅滞はない。



「お前たちもジェンキンスのところに行かせてやる」



 富裕な商人は己の退路を確保しながらベアーたちをけん制する、威力の大きな短筒を発射してベアーたちの退路をつぶしていく。当人を狙うよりも逃げ道を奪うほうが効果的なためだ。



「焼け死ね、クズども!」



 誰一人としてミル工場の廃屋から逃げられない事態が生じる、退路を確保しようとしていた近衛隊も足踏みした──猛火と爆発そして黒煙で動きが取れないのである。



「ガハハ、あばよ!」



男はそう言うと嘲笑を浴びせて自分だけが退避を完遂させた。



14

ベアーたちの置かれた状況は実に厳しい、皆の顔色が蒼白である。ジェンキンスに仕えていた傭兵に至っては茫然自失である、見捨てられただけでなく、その命さえも灯となっていた。


だが、その中で余裕の表情を見せる男がいた、マーベリックである。


 この修羅場ではあり得ぬ微笑を振りまくと右手を高く掲げて指をパチンと鳴らした。その場に似つかわしくない優美な動きに皆は唖然としたが想定外の事態が現場に起こる、



 なんと突如として炎と黒煙の渦巻きを切り裂くようにして道が現れたのである。鉄と木が合わさった厚板が炎の行く手を阻む、死に通ずる道が一時的に寸断される、



「旦那、こっちです!!」



声を張ったのはゴンザレスであった、マーベリックの信頼する手下だ。



「退避だ、ゴンザレスのほうに走れ!」



 マーベリックの2段構えの作戦がさく裂する──近衛隊で切り込んだ後に不測の事態が生じたときに備えて、ゴンザレスの後方支援を仕込んでいたのだ。敵の見込み裏をかく──闇で潜みしレイドル侯爵の執事の手腕は伊達ではない。


 その場の全員がゴンザレスの切り開いた新たな退路へと駆けこんだ。敵味方など関係ない、必死なった者たちには我先にとかけていく。


 マーベリックは逃走する者に分け隔てをしなかった。命のかかった修羅場で選別する必要はないと判断していた。目の色を変えて避難する者に非難を浴びせる暇など存在しない。そして自らも安全地域にかけこんだ。



 だが、その中で身動きできぬものがいた、ジョージである。ジョージは富裕な商人に殴られたことにより足が効かなくなっている──無残にも取り残されていた。



『…間に合わん…』



マーベリックの勘がそう訴える、



 だが、その思いに反してジョージを助けようとする者がいた──ベアーである。そして小さな魔女もジョージの救助に駆けつけているではないか…



『無理だ…3人とも…炎に巻かれる』



半ばあきらめたマーベリックであったが、その眼に思わぬものが入った。





一難去ってまた一難。ベアーたちは再びピンチに陥りました。マーベリックのあらかじめ用意してたプランにより退避できるかと思いましたが…なんとジョージが…


さて、この後いかに?(マーベリックの目に入ったものは何でしょうか?)

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