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第四十六話

今回はクライマックスの前半です。

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絶体絶命であった、ジェンキンスの指揮する武装集団の数は30人を下らない──ベアーたちに勝ち目はなかった。すでに逃走経路はふさがれ、完璧に周りを囲まれている。スキのない敵の布陣は明らかに素人のなせる業ではない。


『このままじゃ…』


 ベアーは何とか活路を切り開こうと躍起になったが、貿易商の見習いががもがいたところで好転する余地はない。付け焼刃の浅知恵では道が開けるとは思えなかった。


『どうすれば…』


 ジェンキンスの右手が掲げられるや否や30人が一斉に抜刀した。終わりに向けての火ぶたが切られたのだ。



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と、その時であった、誰しもが想定しないことがおこった。


 裏門から爆音がとどろくと、裏門を固めていた武装集団の一員が門扉ごと吹き飛ばされたのだ。地面にたたきつけられた傭兵たちは嫌な音を立ててその場に転がった。見ればその手足がひしゃげているではないか…


 何事が起ったかわからぬジェンキンスは砂煙の上がる裏口を見たが、その中から現れたのは思わぬ存在であった、



「すべて聞かせてもらったぞ」



 そう言ったのは黒い執事服に身を包んだ男である、美男でありながらもその眼は爬虫類のごとき冷たさがある。優美でありながら荒事にも応対できる執事服は動きやすさとシルエットの美しさが両立している、



「全部わかっちゃったんだからね!」



 そう言って続いて発言したのは小さな女子である。クリっとした目とおさげが印象的な少女である。ツンと鼻を上げるとジェンキンスをにらみつけた。


 そして、間髪入れずにいななきがとどろいた、明らかに人の声ではない。不細工な四つ足の生き物が砂煙の中から現れたではないか──その面構えはどことなくふてぶてしい。


「ジェンキンス所長、今までの会話をかげながら聞かせていただきました。甚だ遺憾なその考え、人倫にもとるとは言いますが、まさにその通り。広域捜査官としてはおもえません」


執事服の男はつづけた、


「あなたにチャンスを与えましょう。今まであったことを司直の場で証言するであればこちらも手荒な真似は致しません。」


黒衣の男は淡々と続けた


「ですが、証言を拒否するというのであれば──あなたの社会的な地位は音を立てて崩れるでしょう。すでに崩れているかもしれませんが」


黒い執事服の男が意味ありげに皮肉を浴びせるとジェンキンスが口角を上げた、


「お前らだけで何ができる、多勢に無勢──こちらに勝機あり!」


ジェンキンスは右手を執事服の男に向けた、


「お前らが死ねば証拠隠滅となる、それでこの件は終わりだ」


 ジェンキンスは容赦なく決断した、ジェンキンスの指示を受けた武装集団がベアーたちに襲い掛かる、


それに対して黒衣の男、マーベリックが答えた。



「ならば、こちらも反撃するまで!」



 マーベリックがそう言うや否やである、黒煙の中からフードをかぶった一団が躍り出た。その一団はベアーたちを襲うジェンキンスの手下たちに不意打ちを浴びせる、


 煙と砂塵の中から現れた伏兵にジェンキンスは言葉を失う、だがそれ以上の驚きがジェンキンスを襲った。



「……あの紋章は……」



マーベリックが伏兵として投入した部隊の胸当てには思わぬ紋章が彫り込まれている、



「あれは近衛隊……そんな、どういうことだ!」



 ジェンキンスはまさかの存在に言葉を失ったが、近衛隊の猛攻はとどまることを知らなかった。むしろジェンキンスがおののいたことで士気が下がると武装集団の陣形は破られていた。



「人質の確保が先だ、のちの証言において重要参考人になる!」



 ジェンキンスの判断の遅れにマーベリックが乗じる、近衛隊は猛攻を浴びせつつ円形布陣の手薄なところを突破した。その先陣を切ったのは4人の戦士である。よくみれば彼らはかつて金貨強奪事件において狂言を働いて不名誉除隊された面々ではないか、


 マーベリックは彼らに先陣を切らせて武勲を勝ち取るチャンスを与えると4人は汚名を返上するべく勇猛果敢に剣を振るった、



そして、気づけば5分とかからずベアーたちは救助されていたのである。



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武装集団は形勢が不利であると判断すると即座に撤退を始めた──ジェンキンスの指示などお構いなしである。


「お前ら、金ははらっただろ!」


 ジェンキンスは吠えたが、すでに手下は彼のもとから消えていた、近衛隊の紋様の入った胸当てを見た連中は下手に事を構えるリスクを避けたのである。蜘蛛の子を散らすがごとく離れていく、


「何さらしんとんじゃ、おのれら!!」


ジェンキンスが激高するとマーベックが爬虫類のごとき冷たい視線を浴びせた、


「どうされたか、ジェンキンス殿?」


マーベリックが兵を失ったジェンキンスに語り掛ける、


「金で雇っただけの傭兵がまともに動くと考えるほうが愚かというもの、素直に司直の手にかかられたらいかがかな?」


マーベリックが揶揄するとジェンキンスがにらみつけた、


「おのれ!!!」


激高したジェンキンスはマーベリックに襲い掛かった、



『こいつさえ倒してしまえば、あとは烏合の衆だ。いくらでも何とでもなる!』



内心そう思ったジェンキンスはレイピアでの不意打ち敢行した、


だが、しかし剣の鞘からレイピアは抜かれることはなかった、


なんと、レイピアの柄をカルロスが抑えていたのである、



「みっともないですよ、局長!」



カルロスが汚物を見るような目でジェンキンスに語り掛けた、


「これ以上の狼藉は目に余ります」


それに対してジェンキンスが答えた、


「もう遅いんだよ、お前たちがいきりたったところでだれも見向きはせんよ。真実の暴露など──笑わせる」


ジェンキンスはつづけた、


「ムラキの毒牙にかかった連中は数知れず、この流れを変えるのは無理だ。それならば濁流であってもその流れに乗るのが筋というもの、その波の頂に我が身を置けばよいだけのこと!」


ジェンキンスはいうや否や懐に忍ばせていた護身用の短銃を素早くカルロスに向けた、



「死ね、禿!」



誰しもがジェンキンスの思わぬ行動に息をのむ、マーベリックでさえも反応が遅れた。


乾いた音がミル工場の廃屋に響く、絶望を導く発砲である。


 だが、銃弾はカルロスをつら抜いていなかった、それどころかジェンキンスの肩には矢じりが刺さっていた、


スターリングが放った矢である──その反動でジェンキンスの手から短銃が落ちる。


 カルロスはその機を失わなかった、ジェンキンスの顔面に頭突きの一撃を食らわせた──鼻がつぶれて出血する。息ができなくなったジェンキンスは血だらけになって地面に突っ伏した。



「毛根は失いましたが、正義の志は失っていません!」



カルロスは軽蔑と侮蔑の表情を見せるとジェンキンスの腕に縄をかけた。




マーベリックたちが現れたことでベアーたちは救出されます。よかった!

ですが…これで終わりなんですかね…(次回こうご期待)

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