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第四十一話

急に寒くなりました、皆さま体調にはお気を付けください!(特に受験生)

マーベリックは骨董屋の二階で瓦版を読んでいた。その眼は行間を追いつつ全体像の把握を試みている──相変わらず爬虫類のごとき無味な表情である。


 そんな折である、入り口の扉がノックされた。現れたのはゴンザレスである──ゴンザレスが挨拶をして報告を始めようとすると、マーベリックはその様子から『収穫』がないことをすぐに悟った。


「……お察しの通りで……」


 都を訪れたベアーを逃がす時に襲ってきた賊を成敗したマーベリックはその素性をゴンザレスに調べさせていた、


「街のチンピラでした。雇い主に関しては本人達もわからないようです。小銭をつかまされて仕事を請け負ったようです。」


 マーベリックはチンピラを使った相手がわからぬことに不快感を滲ませたが、ベアーを取り巻く環境を考えれば、敵の素性がわからぬことも想像がついた、


「ジョージズトランスポーテーションの手の者だろう、だが、その名が出るほど相手は馬鹿ではないということだ。」


 マーベリックは再び瓦版に目を移した、そこには蒸気機関の認可が下りることが記されている。さらには蒸気機関の技術に関してジョージズトランスポーテーションが独占的に扱うこともほのめかされている……


『貴族の買収も進んでいるようだな』


マーベリックはページをめくると株価を確認した、


『ストップ高か』


 ストップ高とは株価が上がりすぎたときにストッパーがかかるようにマーケットで調整されることだ。買い手の多さに取引所が応対できないための措置である。


『このままいけば……ジョージズトランスポーテーションはダリスを統べる業者になるな』


マーベリックがそう思ったときである、階段を駆け上がってくる音が耳に入った。


                              *


 扉を勢いよく開けて入ってきたのはバイロンである、定期報告をするためにいつものように威勢よく現れた──エレガントとは程遠い有様である。


マーベリックはドカリといつもの場所に座ったバイロンに声をかけた、


「今日はお茶を用意していない──すまんな」


珍しいマーベリックの対応にバイロンは怪訝な表情を浮かべた。


「ポルカから来客があって以来、忙しいんだ」


 マーベリックがそう言うとバイロンが意味深な表情を見せた。ポルカという単語に気つけられている。


「お嬢の知ってるお客ですよ」


 ゴンザレスが合の手を入れるとマーベリックが不快な表情を見せた。『余計なことを言うな』という意味合いである。


バイロンはすぐさま反応した、


「カルロスさん?」


マーベリックの表情を読んだバイロンは別の人物だと感じた。


「…ひょっとしてベアーじゃないの…」


マーベリックが肯定とも否定ともいえぬ反応を見せる。


 バイロンの表情がにわかに変わる、ミズーリでベアーに助けてもらったことは忘れえぬ過去である。


「ベアーに何かあったの?」


真摯にバイロンが尋ねるとマーベリックが答えた、


「ベアーではない、ケセラセラだ。正確にはケセラセラ本体というべきか」


マーベリックが述べるとゴンザレスが続いた、


「ケセラセラが許認可権のある大貴族ににらまれて買収されそうなんですよ。それだけじゃない、その裏にはジョージズトランスポーテーションのイカサマが…」


理解の及ばぬバイロンがマーベリックを見る


「ジョージズトランスポーテーションがポルカで行ったデモンストレーションは逆潮を航行するのに成功した──だが、その積み荷は空だったんだ。」


マーベリックはアールグレイを飲みながら優雅に答える


「それだけではない、その空の荷を運んだ荷夫が水死体で見つかっている。」


バイロンの表情がこわばる、


「お嬢、それだけじゃないんですよ、取り締まるはずの広域捜査官もどうやらグルのようでまともな捜査はしないようです…広域捜査官の幹部もジョージズトランスポーテーションのほうにくっついたみたいで…」



「…うそっ…」



バイロンは素っ頓狂な声を上げると鼻汁を垂らした、



「そんなの、勝ち目がないじゃん!」



 バイロンが顔を真っ赤にして述べるとマーベリックは相変わらずの落ち着いた様子でアールグレイを口に運んだ。


「その通りだ、厳しい状態だ」


冷静沈着なマーベリックの様はバイロンに苛立ちをもたらした。


「ちょっと、なんでそんなに落ち着いてんのよ!」


バイロンが憤るとマーベリックが達観した私見を述べた。


「客観的な証拠がなければこの事案は勝ち目がない、バッハ卿という大貴族と財力を持つジョージズトランスポーテーションににらまれれば真実が表に出るとは限らない。議会の貴族に対する買収も進んでいる。ケセラセラに味方する連中はおるまい。」


マーベリックが残念そうに言うとバイロンが頬を膨らませて抗議の意思を見せた。


「じゃあ、指をくわえてみているつもりなの?」


それに対してマーベリックはため息をついた、


「現状ではどうにもならん、枢密院と対峙するにはそれ相応の証拠がいる」


 マーベリックがそう言った時である、階下から甲高い声が聞こえてきた、明らかに成人の声ではない。


怪訝に思ったマーベリックは立ち上がるとドアを開けて階下を覗き込んだ。


                                *


「ちょっと、会わせなさいよ!」


 カウンターの主人が少女に詰められている──何とも言えない表情だ、明らかに応対に苦慮している。


「いるんでしょ!」


少女の圧力はなかなかのものである、骨董屋の主人がたじろいでいる。


「これ持ってきたんだから!!!」


 少女がかわいらしいポシェットから便箋をこれ見よがしに出すと、それと同時に店の外からいななきが飛んできた──どうやら来客は少女だけではないようだ。


 マーベリックは廊下の隠し窓から外を確認すると不細工なロバがたたずんでいた。その表情はひょうひょうとしている。


マーベリックの脳裏にベアーについての資料を読み込んだ情報がにわかに現出する、


『…たしか、ベアーの取り巻きには小さな魔女とロバがいたはずだ…』


マーベリックは鏡を使って階下の少女の様子を目ざとく確認する。


『…魔封じの腕輪…やはり魔女か…』


腕輪を確認すると同時に少女の持つ便箋に目が映る、



『…あれは…貴族しか扱えないものだ…となると』



 便箋が平民の用いることのできない蝋で封印されているのを確認したマーベリックはすぐさま少女のところに向かった。



マーベリックはゴンザレスとバイロンとともにジョージズトランスポーテーションに関する情報を精査していました。そんな折です、少女とロバが突如として現れました。


さて、誰なんでしょうか?(皆様はもうお気づきでしょう)


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