第四十話
マジで暑い……これ死ぬヤツです……読者の皆様、節電よりもご自分の健康にご留意ください!
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社長室に入って来たムラキは声を上げた、
「社長、戯言にだまされてはなりませぬ!」
そう言ったムラキの表情は雄々しく居丈高である。
「荷夫の件は自殺か事故です。広域捜査官は動いてはいません。ポルカの治安維持官たちはすでに他殺としての捜査はしないようです」」
ムラキの物言いには自信がある、すぐさまロイドが切り返した、
「広域捜査官は動いていないだと──まるで懇意にしているくちぶりだな?」
ムラキはロイドを無視した、
「我々には枢密院とバッハ卿がついております。ポルカの男爵など恐れるにたりません。積み荷が『空』であったという証拠などどこにもありませんよ」
それに対してロイドが一喝した、
「平民風情が貴族の話に口を挟むな、私はジョージと話している!」
ロイドはムラキを見た、その視線には殺意さえも滲んでいる。
「ムラキ、お前は一体、何様だ?」
ムラキは平然と答えた、
「アポイントメントなしの面談はいささか強引と存じます。お引き取りをお願いします。」
ムラキは能面のごとき無表情である、淡々としていて感情が感じられない、ロイドの問いかけを平然と無視した。
「社長、そろそろお時間です。別のお客様がお待ちです」
ムラキの言動に踊らされたジョージはこの場を逃げたい一心で立ち上がった、
それを見たベアーがここぞとばかりに声を掛けた、
「ザックは元気ですか?」
ジョージはベアーを見る
「ザックは亡くなったはずのマルス皇子です。三ノ妃様とともにジョージズトランスポーテーションにかくまわれているのでは?」
ジョージの目が再び泳ぐ、その視線の先にはムラキがいる……
ベアーは続けた、
「僕の友達は記者なんですけど──彼はポルカのカジノで起こったイカサマ賭博を追いかけるうちにジョージズトランスポーテーションの工房に行き着いて──そこでザックと会っています。」
ベアーの目が猜疑心に彩られる、
「ザックはいるんでしょ、会わせてくれませんか?」
しどろもどろになったジョージだが、直ぐさまベアーとの合間にムラキが入る
「なんのことかわかりませんが」
平然とムラキはすっとぼけたがベアーは続けた、
「何か企んでいるんでしょ、たとえばマルス皇子の復古とか?」
ベアーの言動に再びジョージの顔色が変わる、
「ジョージさん、あなたは知っているんですか?」
問い詰められたジョージは挙動不審である、すでにジョージが策謀に長けた人間ではないと見抜いたロイドたちはすべてをムラキが描いていると看破している。
「お前は何者だ、ムラキ?」
ロイドが吠えるとムラキは鼻で笑った、
「商売に興味のあるただの平民ですよ」
ムラキはそう言うと話を切り上げた、
「あなた方の言動はすべて憶測にしか過ぎません。我が社のデモがインチキだというのであればその証拠をご提示ください。それと……」
ムラキは続けた、
「マルス皇子の復古など我々には寝耳に水、なんのことかわかりませんが」
ムラキがそう言うとベアーがくってかかった、
「マルス皇子の復古に関してはこの国の未来を大きく変えるものです。ですがそのやり方に問題があるとわかれば、どうなりますかね。株価を上げてその金で貴族を買収することが合法でも、インチキのデモンストレーションで株価を上げたとなれば別ですよ」
ロイドが続いた、
「空き箱を搭載して航行したと露見すれば株価は暴落だ、お前たちの信用は地に落ちる。まして関連する荷夫が死んだとなれば余計にな!」
ロイドがそう言うとジョージがなんともいえない表情を見せた、荷夫の一人が死んだという事実が脳裏によぎる……
「ムラキ……私は船の事故を減らすために蒸気機関を発明したんだ……金だけじゃないんだ……」
ジョージはムラキを見た、
「このやり方は……駄目だ」
ジョージが恐る恐るそう言うとムラキは表情を変えた、
「そうですか……フフフ」
ムラキは嗤うと指をパチンと鳴らした、それと同時にドアを開けて武装したガードがなだれ込む。その中にはベアーの知った顔もあった、
『……ジェンキンス……』
それだけではなかった、
『……スターリングさん……』
さしものロイドも声を失う。
その様を見たムラキは嗤った、
「我々の計画は邪魔はさせん!」
ムラキの表情が変わる
「全員拘束しろ」
ガードは訓練された軍隊のごとき動きでベアー達を拘束する──その速さたるや尋常ではない。
「君たちにはしばらく表舞台から消えてもらう……余計なことをしゃべられても困るからね」
ムラキは続けた、
「心配することはない、殺すつもりはないよ……2週間もすればすべて終わる……その頃には君たちの言動など誰も信用しなくなっている。君たちは指をくわえて敗北を味わうのだよ」
「ムラキ、貴様!!!」
ロイドがそう言ったがムラキは微笑むばかりであった。
*
後方部隊として控えていたの面々、ルナ、ロバ、そしてラッツはいつまでたってもベアーとロイドが戻ってこないことに不安を覚えていた、
「……何かあったんだ……」
ルナが漏らすとロバも同じように感じているようで神妙な様子をみせた。
「……これ……動くべきか……」
ラッツがそう言った時である、ジョージズトランスポーテーションの社屋から幌馬車が出てきた、すべてを覆い隠すかのごとくホロが張られている──晴天であるにもかかわらずだ……
「これ……アレだよね」
ルナがそう漏らすとロバは馬車に向けていななきを浴びせた。
そのとき、ホロから一人の人物が顔を出した、それは明らかに見覚えのある顔である、
『あれ、スターリングさん、じゃん……』
広域捜査官がジョージズトランスポーテーションの所有する馬車に乗っているはずがない……
『……何で、スターリングさんが……』
ルナは思わぬ存在がにわかに現れたことに眉をひそめた。
『間違いない……ベアーとロイドさんに何かあったんだ……』
ルナは確信を抱くと肩から掛けたポシェットの中にある手紙を取り出した。
『……ロイドさんがかけた保険……』
それは有事に際してロイドが記したものである、ジョージとの交渉で『何か』あったときのために用意していた書状だ。
広域捜査官でさえもジョージズトランスポーテーションの息がかかっているのであれば表の行為に意味があるとは思えない……別の方法を用いて反撃することが有用であるとロイドは判断していた。
見た目10歳の少女であれば手紙を持っていても怪しまれることはないとロイドたちは判断すると奥の手をルナに託していた。それこそが後方部隊の『本当』の目的であった。
『……これを届けなくちゃ……』
ベアーとロイドをすこぶる心配に思ったルナであったが、その表情は実に猛々しい。一方、ラッツはすでにその場にいない、ベアー達の拉致された馬車を追いかけていた。
ルナはロバを見た、
「行くわよ!!」
言われたロバは魔女をその背に乗せると目的の場所に向けて走り出した──そうマーベリックのいる骨董屋に向けてである。
陽光を受けて魔女をのせたロバが街道を疾走する──短い足を素早く回転させるその様は道行く人々の目には奇異に映っていた。だが、その速さ、尋常では無かった。
続く
ジョージズトランスポーテーションに乗り込んだベアーとロイドでしたが、なんとムラキの策謀により拉致されました。そしてその実行犯にはスターリングが………
ですが、ロイドは最悪を想定してルナとロバに望みを託していました。はたして、この後どうなるのでしょうか?
*
書き出したときは後編といいましたが……アレは嘘だ!
次回から後編となります。なおストックがないので2週間ほどお待ちください。すんません!




