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第三十七話

読者の皆様、水分補給を怠らないように!!

                             *


 顔を青くしたラッツが早朝にわかったとんでもない事実を述べるとロイド達は沈黙した、その表情は険しい。


 その場の一同はデモンストレーションのイカサマを知る荷夫が一夜のうちに消されたことに凄まじい危惧を抱いた……あまりに速い敵の動きは想定外であった……


「……鮮やかな口封じだな……」


ロイドが漏らすととベアーが発言した、


「この事実を広域捜査官に伝えましょう、カルロスさんとスターリングさんなら動いてくれるかもしれません!」


それに対してウィルソンが反応した、


「広域捜査官の幹部がジョージズトランスポーテーションに情報を流す可能性がある。彼らを信じていいかはわからん……」


「でも、殺人事件ですよ!」


ベアーが吠えるとラッツが答えた、瓦版の記者らしい読みがある。


「いや、事故として処理するはずだ。殺人事件なら治安維持官の詰め所に帳場が立つんだけど……そんな様子は微塵もない……」


ラッツはさらに続けた、


「編集長の話では帳場を立てようとした治安維持官に対して広域捜査官から圧力がかかったらしい……事件化する必要は無いって」


言われたベアーは言葉を失う、



「嘘だろ……マジかよ……」



ベアーが息を漏らすとジュリアが発言した。


「ちょっと、状況を整理しましょう」


 ジュリアが述べるとルナが気を利かせてボードに事象を書き出した。感情の高ぶりをおさえて状況を整理することが重要である──そう思ったルナはジュリアと協調してすらすらと書き綴った、



1 ジョージズトランスポーテーションのデモがインチキであること、


2 そしてその事実を知った荷夫が水死体どざえもんで見つかったこと。


3 広域捜査官の幹部が信用できないこと。


4 ベアーのもたらしたレイドル侯爵の見解では客観的な証拠がないと一ノ妃の裁可はえられない   こと


5 モーリス卿に付け届けを渡したことでロイヤリティーに関する契約は一週間のばせたこと



現状をまとめるとロイドは息を吐いた、


「……きびしいな……ジョージズトランスポーテーションの不正を暴かねば一ノ妃様の裁可は得られない──枢密院のお墨付きは覆せない……」


ロイドがそう言うとルナが鼻をほじった、


「蒸気機関を詰んだ船のデモがインチキだってわかったら株価も暴落するだろうし、信用も失う。真実が明るみになることがジョージズトランスポーテーションにとって一番の厄災になる。何が何でも真実を隠そうとするはずよね……」


魔女らしい鋭い読みをみせると皆が同意した、


「ジョージズトランスポーテーションと広域捜査官も組んでいるとすると……荷夫の事件は事故で処理するだろうし……」


皆が首をひねる、


「……どこに助けを求めればいいのか……」


一同は状況を好転させる術を考えた、


「……相手の動きは的確で速い、すなわち普通ではない……下手に動いても芳しい成果を得られるとはおもえない」


ロイドが客観的な見解を述べると一同が頭を抱えた。


 そんなときであるどこからともなくアイツが現れた。いつもと同じく泰然としてふてぶてしい表情だ。短い手足を闊歩させるとボードの所に立った。


「何だ、お前、今、大変なんだよ!」


 ベアーが非難するとアイツはそれを無視した、そしてジョージズトランスポーテーションという単語に蹄をコツコツとぶつけた、


「そこが敵の本丸なんだ。蒸気機関を用いたデモがインチキで、それを知ってる荷夫が消された……でもインチキをあばかないと一ノ妃様の裁可を得ることはできない」


 ベアーが端的に説明したが不細工なアイツは再びジョージズトランスポーテーションの文字を蹄でコツコツとたたいた。どうやらベアーの見解に異を唱えているようである。


その様子を見ていたロイドは唸った、



「そうか、敵の目的か……まずはそれを知らねば……」



ロイドは今までのことを鑑みた、


「肉屋の見習いザックが誘拐された……それはマルス様の復古を狙う三ノ妃様の策略……その背景には枢密院の権力とジョージズトランスポーテーションの金の力が……」


ウィルソンが続く、


「ジョージズトランスポーテーションはデモを成功させたことで株価を上げて、凄まじい資金力になっていますよ。その金銭力は様々なところで威力を発揮してます」


ロイドは腕を組んだ、その脳裏には男爵としての知識がにじみ出している、


「マルス様の戸籍を復古させるには手続きが必要になる。本人が生きているなら枢密院に諮って議会で俎上にあげるつもりだろう、そうすれば法案化も不可能ではない。法案を通すための買収資金としてジョージズトランスポーテーションの金を利用する。」


 ロイドは枢密院と絡むバッハ卿、モーリス卿、そしてジョージズトランスポーテーションの関係には蒸気機関の許認可だけではない野望があることを確信した、


一方、ロイドの話を聞いたラッツは驚きを隠さない……


「蒸気機関の許認可の背景にあるのはマルス様の復古……権力を手に入れるための布石。荷夫を殺すのもあたりまえだな……」


 ベアーたちは敵となった相手の野望とその計画がすでにのっぴきならないところまできていると感じた。



「奴らは……マジなんだ」



一方、ルナはボードを見ていたが、ロバが動かずにいることに何やら感じた、



「敵の目的がわかったところで、このままなら、どうにもならないんじゃない……」



ルナは負け戦の様相を呈する現状に一石を投じる発言をみせた



「ジョージズトランスポーテーションに直接、乗り込んじゃえば?」



言われた一同は押し黙った、顔を見合わせている。



その表情には『その発想はなかった』という思いが滲んでいる。



 疑惑の渦中にあるジョージズトランスポーテーションの社長の顔は見たことさえもない……見たのは副社長のムラキだけである。直接、社長と会った者はいないし話した者もいない……


ロイドは唸ったがその目に精気がやどりはじめる、



「社長と直接、話をするか……」



ベアーが声を揚げた、



「直談判、当たって砕けろ大作戦!!!」



 ベアーのおもいついた作戦に社員一同はうなずいた。敵の本丸に斬り込む選択は電撃的な発想である、追い詰められたが故に生まれた起死回生の一手ともいえる。



「このままでは座して死ぬだけだ、それならば敵陣に斬り込む方が華がある」



 ロイドがそう言うと皆が頷いた──その表情には再び火が灯いていた。アドレナリンが体から湧き出しているのだ。



不細工なロバはその様子を見ると、ニヤッと嗤った。



『お前ら、やっと、わかったの』



そんな表情をみせると、不細工なアイツはゆっくりとボードから離れた。


デモのイカサマを知る荷夫が死んだことでベアー達には暗雲が立ちこめましたが、居直って反撃に出るようです。


はたして、いけるのでしょうか、この作戦?

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