第三十二話
ロイド邸に現れたのは広域捜査官のカルロスとスターリングでした、さて、彼らは何を知っているのでしょうか?
*
ウマ娘ウエハース……『推し』のカードがでないため、2箱めを買うべきか迷っています。(我慢しなければ!)
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カルロスとスターリングはカジノの不正事案に関する情報を広域捜査官に伝えたベアーとルナに感謝するべくやってきていた。その表情はいつもと同じく朗らかなものである。
「君たちの協力でカジノの不正はただされた、逮捕者が5名でた。ありがとう」
カルロスがはげ散らかした頭皮を輝かせると、美貌の捜査官スターリングが続いた、
「ご協力ありがとうございます。おかげで無駄な内定捜査をせずにすみました」
二人はベアー達のもたらした情報のおかげでカジノで不正をしていたグループの摘発に成功したことを感謝した。
だがその一方──その場の一同は二人に冷たい視線を浴びせた。尋常ならざるを得ない雰囲気がにわかに生じる。
「あの……なにか……」
カルロスが恐る恐る尋ねるとベアーとルナが矢継ぎ早に質問した、
「カルロスさん、僕らが伝えたことをモーリス卿やバッハ卿、もしくはジョージズトランスポーテーションの関係者に話してませんか?」
「そうそう、ジェンキンス所長にザック拉致に関することを相談したんだけど……その内容がうちと対立する貴族に漏れてんのよ」
言われた二人はその顔を見合わせた、
「なんのこと……その話……ジェンキンス所長からはザックの拉致なんて聞いてないわ」
スターリングがそう言うとカルロスも続いた、
「いや、俺も聞いてない……です。」
二人がなんともいえない表情を見せるとその場の全員が二人に注目した、
「ザックの拉致に関して我々は何も知りません、カジノの不正だけですが……」
ベアー達の視線が再び鋭くなる、全員の様子を鑑みたカルロスがぽつりとこぼした、
「そもそも、ザックの話って何のこと?」
カルロスが馬鹿正直に尋ねるとルナが広域捜査官の詰め所でジェンキンスに話した内容を手短に述べた、
ルナの話を耳にしたスカルロスが仏頂面をみせた
「そんな話……聞いていない……ひょっとしてうちの所長が……情報漏洩……」
カルロスが頭皮を光らせるとスターリングの耳がぺしゃりとたれた。
「……そうかもね……」
その場になんともいえない雰囲気が生まれた、
*
このあと、一堂はカルロスとスターリングを交えて現状を述べあうと、状況はロイド達にとって決して芳しくないことがわかってきた、
「広域捜査官とジョージズトランスポーテーション、そしてモーリスとバッハ卿、さらには枢密院……尋常ならざる連帯が生まれている……」
ロイドがまとめると一同は沈黙した。ジェンキンス所長の情報漏洩が真実であれば、頼る寄る辺がないことを意味することになる。
ウィルソンが顔を青くする、
「……こんなの勝ち目がないぞ……」
それに対してベアーが続いた、
「敵の連帯がジョージズトランスポーテーションを要として放射状に伸びている。広域捜査官まで向こうについているなら……」
ベアーが述べるとスターリングが反論した、
「まだ、そこまでいたっていないとおもうわ。あくまでジェンキンス所長だけ。それもまだ確定はしていないわ」
ロイドがそれに答えた、
「ジョージズトランスポーテーションの力は絶大だ。資金力も半端ではない。そこに広域捜査官が一枚かむなら、こちらに勝ち目はない……一ノ妃様にでも、もの申さぬ限りは現状は打破できんぞ……」
半ば自虐的にロイドが申すとベアー達はうなだれた、一ノ妃にコネのある人物などケセラセラには存在しない……
だがそれに対してカルロスがもの申した、
「あの……今、言った一ノ妃様の件ですが、直接は無理ですけど……可能性はありますよ」
一同が眼をしばたいた、
「一ノ妃に仕える第四宮の副宮長がポルカで女優をしていた子なんです。凄まじい出世を遂げて若干16才で副宮長というポジションに……」
スターリングが手を打った、
「あっ、そうね……そっちからなら……」
スターリングの耳がピンと立った、
「ベアー君、あなたの知り合いよ。」
言われたベアーは『まさか』という表情を見せた、
「そう、バイロンよ、あなたと同郷の」
二人は話を続けた、
「宮中にいるバイロンには直接コンタクトできないけど、彼女と強いパイプを持つ人物がいるの、その人物なら紹介できる。彼はレイドル侯爵の筆頭執事でもある。
スターリングがそう言うとカルロスの額が輝いた、すでに頭皮と額の境目はよくわからない。
「彼なら状況を理解できるだろう、手を貸してくれる可能性もある。それに彼はレイドル侯爵の配下なんだ。そちらからも手を回してくれるかもしれん」
言われたベアーは思わぬ人脈のつながりにつばを飲み込んだ。
「その後うまくいくか否かはわからないけど、現状の好転は望めるかもしれない……」
それに対してベアーが答えた
「でも時間が……都まで行って交渉するとなると……」
ベアーがそう言ったときである、何かを思いついたかのようにしてウィルソンが声を揚げた。
「大将、モーリス卿とバッハ卿に泣きつくっていうのはできませんか」
ウィルソンが発言するとジュリアがそれに応えた、
「枢密院の威光をバックに押し込んできているあの人たちに嬲られるだけだわ。助ける姿勢をみせて背中から突き落とす。助けの手を差し伸べておいて途中で手を離す。あの人たちならやりかねないでしょ」
ジュリアが裏を読んでもっともなことを言うとウィルソンが反論した、
「いや、狙いはそこなんだ!」
ウィルソンはそう言うと自分の考えを述べた
「このままなら俺たちはじり貧でバッハ卿の連合軍に潰される、それなら少しでもベアーの交渉時間を担保して状況を改善するチャンスを狙った方がいい」
ウィルソンが中年の嫌らしさを前面に押し出した、
「ロイドさん、相手に頭を下げて交渉時間を作りましょう、向こうのほしがる物をちらつかせれば、交渉だけには乗ってくるはずです」
ウィルソンが貿易商らしい表情を見せる、
「向こうの傘下に入ると言って、こちらからアプローチしましょう。そのとき、モーリスが興味のあるものを提示すれば、向こうも……」
ロイドが老獪な表情を見せた、そこにはわずかながらチャンスが生まれたことを認識している。
「面白いな」
ロイドはそう言うとモーリス卿がチラチラと見ていた象牙の彫刻に眼をやった、高名なトネリアの工芸家が造った年代ものである。アンティークのオークションに出しても恥をかかぬ一品だ。
「ウィルソン、その象牙の骨董をきれいに包装してモーリス卿の所に持って行け。便宜を図ってくれるならもっといい物を渡すと言うんだ。」
「大将、わかりました!!!」
ウィルソンはロイドの意図を一瞬で理解した、
「相手の気を引くために泣きを入れながら土下座すればいいんですね。合点承知!!!」
ロイドはベアーを見た、
「すまんが、お前の人脈に掛けるしかない」
ロイドはそう言うとベアーの肩をたたいた、
「我が社の運命はお前にかかっている」
ロイドは負け戦を覚悟していたが、ただ負けるつもりはなかった。
「爪痕ぐらいは残してやらんとな」
だが社員たちはその思いに賛同しなかった、
「ロイドさん、俺たちは負けませんよ」
そう言ったのはケセラセラ号の船長である、
「今回の件はキャンベル海運との戦いよりも腹が立つ──貴族の横暴とそのやり方は許せん!」
海の男らしい見解を船長がみせるとウィルソンが続いた、
「真実を知った俺たちを嬲り殺しにするつもりなら、こっちもそれ相応にやってやりましょうよ」
ジュリアが続いた、
「座して死ぬなら、相手も道連れにしましょう。」
皆のテンションが高い――憤った思いがこの状況下を切り抜ける策を構築していく、怒りが力になっているのである、
ロイドは皆の思いを受けると一つの結論に至った、
「やれることはすべてやる──それで駄目なら体をかける!」
ロイドは実のところ商売をたたもうと考えていた。無理のない計画倒産したあとで盟友であるレオナルド家に商いを継続してもらえばいいという考えていた……
だが、社員達の思いを受けるとその考えも変わった、
「一矢報いる程度では確かに足りん」
ロイドの眼に火が灯る、かつて軍人であったときにみせたそれである。
「作戦名:相手の鼻先ににんじんをぶら下げて暇を造り、頃合いを見て背中から刺すぞ、大作戦!!」
ロイドは気炎を吐くとベアー達を見た、
「成功の暁には臨時のボーナスだ!!」
言われたベアー達は『おおっ!!』と声をあげた。
カルロスとスターリングは上司のジェンキンスの情報漏洩に気付いたようです。そして彼らはベアーたちにマーベリックとバイロンを紹介するという手段を講じました。
さて、物語はこのあといかに?(次回はベアーが都に行きますよ!)




