第三十一話
ロイドの邸宅にやってきたのは誰でしょうか?
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鬼滅の刃 ウエハースのにはまった作者でしたが……今度はウマ娘のウエハース(カード付き)を箱買いしてしまいました……(やっちゃったよ)
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ロイド邸に現れたのは思わぬ人物であった。それはモーリス海運の経営者であるモーリス卿である、デモンストレーションで成功した蒸気機関を搭載した船の持ち主である──バッハ卿の息のかかった身内でもある……
モーリスはアポなしで従者とともに何食わぬ顔で邸内に入ってきた。
「いきなりで驚いているだろうが、そこもとには話をしておかねばならん。」
子爵という立場であるが故に平民上がりのロイドには敬意を払う必要は無いといわんばかりの話し方である。
モーリス卿は懐から書類を取り出した、
「そこもとのケセラセラを我々の傘下にすることにした」
唐突な発言にロイドはその目を点にした、
「まあ、驚くのも無理はない。バッハ卿がお決めになったことだ。」
バッハの子飼いであるモーリスは淡々と話した。
「バッハ卿の傘下になればケセラセラも大きな後ろ盾を手にすることになる。そちらには悪い話ではない」
言われたロイドは突然のことにその目をしばたかせたが、モーリス卿の見せた書類の内容に言葉を失った、
「……ロイヤリティー30%……利益ではなく売り上げに対して……」
利益というのはすべての経費を差し引いて残った金額である。すなわち純粋にもうけた部分と言えばわかりやすい。
だが売り上げというのは経費、すなわちベアー達の給料やケセラセラ号の維持にかかる費用、倉庫を保持するための費用、交際費や交通費といった必要不可欠な部分は含まれていない……
つまり売り上げは必要不可欠な費用を差し引いて無い数字なのである、
「そうだ、粗利ではなく売り上げに対してだ」
モーリスがそう言うとさすがにロイドも反論した、
「売り上げを3割持って行かれればうちは潰れます。商売をされているならそのあたりはわかると思いますが……」
ロイドは続けた、
「売り上げは商売にかかる費用を差し引いたものではありません、すなわち我々の業務にかかるコストが担保できなくなります……潰れろと言うことですか?」
モーリスはフフッと嗤った、
「さすがに横暴極まりない、この申し出は枢密院でも諮られる事案ではありませんか?」
貴族のもめ事には総じて枢密院が調停に入るのだが、ロイドはその点に触れた、
だが、モーリスは含み笑いをみせると懐から書面を取り出した、
「蒸気機関という新たな技術を持つ我々には枢密院も配慮してくれてな」
モーリスが提示した書面は紙ではなく羊皮紙である。そしてその下方にあるサインは個人名ではなく役職名のみが記されている。
『……』
そこには枢密院 最高議長とあるではないか。ロイドはうなだれると同時に言葉を無くした。その体は小刻みに震えている……書面が本物である証左である。
「ポルカの港は外界に出る上で便利なのだよ、だが君たちが大きくなりすぎていてね。キャンベル海運を倒した『ポルカの奇蹟』だったかな……今のうちに抑えておきたいんだよ」
モーリス卿はさらに続けた、
「キャンベル海運の持つ港の使用権を継承したことで弱小貴族がダリス全土に船を配置できるようになったことはほかの貴族から見れば不快なことでね……平民上がりの男爵風情が──」
モーリスもロイドに対して不快な思いを持っているのであろう、『平民上がりの男爵』という物言いには毒しか含まれていない……
モーリスはいやらしい表情で続けた、
「だが、それ以上のことがある。」
モーリスの表情が変わった、
「虎の尾を踏んだんだよ、君たちは」
モーリスはそう言うとベアー達を見た。すでにベアー達がジョージズトランスポーテーションの取り巻く環境に疑義を持っていると気付いたようである。
「真実を知ることは時に己のクビを危険にさらすことになる」
モーリスはにやついた、
「意味はわかるな?」
モーリスはそう言うとサイドボードの飾ってある像家の細工を手に取った、
「舶来品のようだな、美しい……貿易商らしい置物だ」
モーリスはそう言った後にロイドに向き直った、
「交渉の余地は残しておこう。1週間でサインしたまえ」
モーリスはそう言うと立ち上がった。
「サインしないのであれば、どうなるかわかっているな?」
モーリスはにやついたまま出口へと向かった。
*
一部始終を見ていたベアーは降って沸いたような状況の変化に畏れを抱いた、
「……虎の尾を踏んだ……真実を知ること……」
ベアーがそう漏らすと同じことを思っていたルナが反応した、
「……ザックのことね……」
言われたベアーはその表情をゆがめた、その脳裏には蒸気機関を搭載した船舶の航行デモンストレーションを成功させたモーリス海運、バッハ海運、そしてジョージズトランスポーテーションの三者の表情が浮かんでいる、
「あいつら、ひょっとしてこっちの動きを察知してるんじゃ……」
モーリス卿の述べた『真実』という単語がベアーの胸に突き刺さる、
「枢密院の正式な書類を持ってた……」
ルナは直ぐさまに反応した
「これ……ひょっとして、仕組まれてるんじゃない……」
ルナの言動に対してベアーは返す言葉を失っていた。
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モーリス卿が帰ると幹部社員がロイド邸によばれて現状がロイドの口により語られた、
ウィルソンは驚きと怒りに打ち震え、ジュリアは地団駄踏みながら鬼の形相をみせる。ケセラセラ号の船長は口を開けて唖然とすると一転して憮然となった。
「驚天動地の災難だが……」
ロイドはそう言うとそれぞれの見解を求めた、
「私の手に負える状況じゃない、ざっくばらんに諸君達の考えを述べてほしい。」
その場の一同は枢密院という貴族のもめ事を公平に解決する機関が明らかに偏った文書を作成している事実に怒り心頭となっている。
最初に発言したのは小さな魔女である、
「思い切って貴族をやめちゃうとか、そうすれば枢密院とか関係ないでしょ」
ルナの発言に対してウィルソンが答えた、
「海外交易ができなくなるんだ、トネリアから物資が運べなくなる……」
貴族の称号を持たぬ業者は国家間の貿易ができない掟がある、ロイドが男爵という称号をとったのも商売上の利点があるためだ。
ベアーが続いて発言した、
「枢密院の決定を覆すことってできないんですか?」
「無理だ、一度決まったことはどうにもならん。あの書類の決定を覆すことはできない」
ロイドが腕を組んだまま述べた、
「あんな横暴を枢密院は許すんですか?」
ベアーが憤るとその場の皆も同意した。
それに対してロイドが答えた、
「すでに向こうは枢密院ともくんで、こちらを潰しに掛けている……我々の知り得た真実というのが向こうにとってはあまりに芳しくないことだったのだ」
ロイドはザック拉致事件の背景に気づき始めていた。すなわちザックがマルス皇子であり、その背景にバッハ卿、そして枢密院が控えていることを……彼らの企みまではわからなかったが何か波乱が生じることは想像に難くない。
そしてそれが男爵という田舎貴族に対処できる事案でないこともわかっていた、敵が大きすぎるのだ……
「一ノ妃様でなければ枢密院の決定に物言うことはできんだろ……」
ロイドがつぶやくと一同は沈黙した、一ノ妃にコネのある社員などいるはずもない……」
皆は仏頂面のまま考え込んだ、
「……疑問があるんだが……」
発言したのはケセラセラ号の船長である、その表情は神妙だ。
「モーリス卿もバッハ卿もロイドさんがどうして真実に気付いたってわかったんだ……うちがマルス皇子に関する情報を知り得たのはベアー達のおかげであって、ベアー達はほかに吹聴はしていないだろ?」
言われた一同は船長の発言に「たしかに」という表情を見せた、
だが、その一方、ルナは魔女らしい表情を見せた、
「しゃべってる……広域捜査官には……ザックの拉致に関してジェンキンス所長に相談してる……」
一同は顔色を変えた、
「まさか、広域捜査官までグルじゃないだろうな……」
一同は再び唖然とした、そこには船会社ケセラセラを取り巻く敵が壮大であることを認識する理解がある……
「……どうすんの、これ……」
ルナがそう漏らしたときである――ロイド邸の呼び鈴が突然になった。
はっとしたベアーが玄関に向かってドアを開けると、そこには思わぬ顔があった──なんと広域捜査官のカルロスとスターリングであった、
ロイド邸にやってきたのはバッハの息のかかったモーリスでした。なんとケセラセラを買収すると宣言したではないですか……それもとんでもない条件で……
ベアー達はその横暴に震えますが、バッハ、ジョージズトランスポーテーション、枢密院、そして広域捜査官のくんだ連合体に勝てる見込みはありません……
さて、ベアー達はこの状況を乗り越えることができるのでしょうか?




