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第二十五話

東京は暑いです……まだ5月なのに……今年の夏は暑いらしいっすよ(意気消沈)

皆様、熱中症には気をつけるんだ!

21

午前の仕事を終えてベアーが倉庫の事務部屋に戻ると、ウィルソンが瓦版を拡げて仏頂面をみせていた──その表情はいつになく真剣である。風俗と食に対する思いと通ずる真摯さがにじみ出している。


「どうかしたんですか?」


ベアーが尋ねるとウィルソンが答えた、


「例の蒸気機関、来週にデモをやるってよ、バッハ卿の息のかかった業者の船で」


ベアーは驚いた顔を見せた、


「あいつら組んだんだよ、まったくよ……」


ウィルソンが続けた、


「デモで中型船舶に蒸気機関を取り付けて航行する姿を見せる……そうすりゃ株価だってうなぎ登りだろ──それを見越してんだよ、とんだ出来レースだ」


それに対してベアーが答えた、


「許認可権をもつ貴族が業者と癒着するのは御法度じゃないんですか?」


ベアーがそう言うとジュリアがやってきてそれに応えた、


「普通はそうね、業者と貴族の癒着はゆるされない……」


ジュリアの物言いは奥歯に何かが挟まったかのようである。


「通常なら、枢密院っていうところがこの手の事案には介入するんだけど、枢密院もこの件に関しては音沙汰なしだ」


ウィルソンが続くとベアーが憤った、


「そんなの、クソじゃないですか!」


それに対してジュリアが乾いた口調で答えた、


「癒着の証拠でも見つけない限りはどうにもならないわ、下手に首を突っ込んだとしてもやぶへびになるだけよ」


貴族の横暴を目にしてきたジュリアがそう言うとウィルソンもそれに同意した。



「正しさをうたっても力が無ければどうにもならねぇよ、世の中なんてそんなもんだよ。特に貴族の世界はな。厳然たる階級制度に阻まれて道理を説いてもはぐらかされるだけだ」



ウィルソンがそう言ったときである、倉庫の入り口に息せき切らせた魔女の娘が現れた。

 

                                  *


「ちょっと、ベアー、嫌な話聞いちゃった!」


その表情は真剣である、ベアー達は即座に注目した。


「ラッツがいなくなったんだって!」


ルナが口早に続けた、


「お店に瓦版の記者が聞き込みにきたんだけど、ラッツがいなくなって探してるんだって」


ベアーがいぶかしんだ、


「いなくなった、あいつが……」


ベアーの頭に浮かんだのは特ダネをすっぱ抜こうとするラッツの顔である、


「ひょっとして、カジノで何かあったのか……」


ルナもベアーの思いに対して同意する意思をみせた。


「きっとそうだよ、女将さんの八百長の話で取材に行ったんだよ。ほかの記者もその線で洗ってるみたいだよ」


ルナが聞き込みにきた記者の話を述べるとベアーの顔色が変わる、


「もしかして……やばいんじゃないか……」


そう思ったベアーの頭に浮かんだのはとある人物である、


「カルロスさんとスターリングさんね!」


ルナはベアーが言うよりも先に脳裏の人物を当てていた。


ベアーが振り返るとジュリアとウィルソンが気を利かした、


「キャンベルの件では瓦版の記事でうちも助けてもらったんだ、今度はこっちの番だ、助けてこい!」


ジュリアが続いた、


「波が高いから、積み荷の搬入はないから仕事の方は大丈夫よ」


 言われたベアーは二人に深くお辞儀すると走り出した。言うまでも無く広域捜査官のところにである。



22

ラッツは気付くと足かせと手かせを付けられ、猿ぐつわもかまされていた。その付けかたは完璧であり、逃走できる状況にはない……


『クソッ……しくじった』


カジノで八百長をした男を追ってきたものの逆に返り討ちにされるという失態である、


『向こうが一枚上手だったか』


 敷地内に入るところを確認するだけならこうはならなかったわけだが、記者としての情報収拾しようとする欲求があだになっていた。


『引き際を間違ったな……』


ラッツがそう思ったときである、重たい扉が開くとその隙間から光明が漏れた。


『まぶしい……』


 入ってきたのはラッツがその後を追っていた男である。その表情は到底、商人とは思えない。姿こそ富裕な商人に見えるものの、その目は冷たい。


「お前、何者だ?」


ラッツはそれに対して居直った、


「不法侵入だろ、はやく治安維持官に突き出せよ」


ラッツがそう言うと男がにじり寄ってその腹部を蹴り上げた、


「聞かれた質問に答えろ、殺すぞ」


容赦の無い問いかけにラッツは男が本気であることを感じた、



「記者だよ、みならいだ……」



男は鼻で笑った、


「娼館を出た後から俺の後を付けてきた……俺がカジノで大当たりしたことも知っていそうだな」


ラッツはとぼけようとしたが、それよりも先に蹴り上げられた、


「どこまで調べたんだ?」


 尋ねた男に対してラッツはしらを切った、真実の吐露が自分の置かれた状況を悪くすると判断したからだ。


「何だよ、カジノって……知らねぇよ」


ラッツはとぼけた、かつて劇団員であったときの演技力を発揮しようと試みた。


 だが、しかしである――男にそれは通用しなかった。舞台に立てずに裏方として能力を発揮したラッツの演技は見抜かれていた。


バラしたほうが速そうだな」


男はそう判断した、その表情には濁りはない。


「悪いな、殺生は好きじゃないが、こっちもあそびじゃないんだ」


男はそう言ったがラッツの臀部を見ると舌なめずりをした。


「いいけつじゃねぇか?」


臀部を触られたラッツは身の毛のよだつ感覚に襲われた、



『……まさか……こいつ……アッチか……』



ラッツは男の入っていった娼館のことを思いだした、



『そういえば、あの店……男娼も……』



ラッツがそう思ったときである、


ズボンが引き下ろされた、尻に冷たい空気がさらされる、


「お前の具合がよけりゃ、たすけてやってもいいんだぞ~」


男はせせら笑うと容赦なく臀部に自分の下半身をあてがった、



「ちょっとまて、それはいやだ!!」



ラッツに絶望が降りかかる──と、そんなときであった…………




ベアー達はジョージズトランスポーテーションとバッハ卿が組んでデモンストレーションを行うことを知りました。貴族と業者の癒着を取り締まる枢密院が沈黙することもわかったようです。


一方、カジノの不正を暴こうとその証拠集めに行ったラッツは捕まってしまいました。さらには彼にとんでもない受難がおとずれています……


さて、このあといかに?

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