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第二十二話

16

さて、ベアー達がロゼッタで話し合っている一方……


 ジョージズトランスポーテーションの長であるジョージは中型船舶における蒸気機関の取り付けに難儀していた。


「重量が予想以上だな」


 船を推進させるために必要な力が不十分なのである、それというのも中型の船舶に取り付ける蒸気機関自体の重さが予想よりもはるかに上回ったためだ。


『外枠をしっかりとしたものにしないと耐久がうすれる……かといって厚みを出せば重くなって推進力が失われる……』


 小型船舶と違って中型ともなると推進力は小さくない。安定して逆潮を走行できる力は伊達では無いのだ。特に中型船舶は積み荷を乗せなくてはならないため、生半可な力では許されない。


『この点をどうするか……』


ジョージは難儀した、


そんなときである、ジョージの工房から声が聞こえてきた、


                                  *


「師匠、これなんですかね……」


少年の声である、興味津々な様子だ


「なんかよくわからないのが一杯ですけど……」


 少年は太っていた、顔にはあばたがいくつもありお世辞にも賢いとは思えない。愚鈍と言う言葉がそのまま当てはまりそうである、


一方、少年が話しかけている対象はなんともいえない、なぜなら人間ではないからだ。


「この歯車みたいなやつは鉄ですかね……」


少年がそう言うと話しかけられていた対象はあくびした──どうでも良さそうである。


                                 *


『何だ、あのロバは……』


 ロバは泰然としていて我関せずと行った表情である。少年の発言に対して否定も肯定もしない。少年はその様子を見ると不安な表情を和らげた。


ジョージは工房の片隅から太った少年とロバを観察してみた、


『あの少年はムラキが連れてきた女の息子だな……たしか、あのロバは厩にいたやつか』


ジョージは不思議に思ったが声を掛けずに技術者らしく観察しようと試みる。


                                  *


「師匠、僕が拉致されてからですけど……妙な感じですよね……お母さんには会えたけど……」


少年の表情は明るくない、


「なんかお母さん、人が変わったみたい……もともといい人じゃなかったけど……」


小太りの少年はしみじみと語った、


「付け届けは好きだったんですよ、特に金貨とか宝石とか……それを割り振るのがたのしみだったんです。眼がキラキラしてた」


少年はロバの背中をなでた、


「でも今は、前よりひどい……なんだろう、人をひれ伏せさせることのほうがいいみたい……」


少年がそう言ったときである、工房の入り口の扉が開いた、



「何やってんだ!」



 声を荒げて入ってきたのはジョージの工房に少年とロバを連れてきた男だ、ムラキの従者として工房に現れた人物だ。


だがその物言いは富裕な商人の出で立ちとは異なりカタギには思えない。


「勝手に厩を抜け出してんじゃねぇよ!」


男は額に青筋を立てた、


「この不細工なロバが!」


 男はそう言うと拳を振り上げて、容赦なくロバの背中を打った、それにたいしてロバは平然としている──男に対して侮蔑さえも滲ませた、


男はその表情が気にくわなかったのだろう激高した、近くにある金属製の歯車を手に取った、


そのときである、少年がロバと男の間に割って入った、


「やめろ!!」


少年がそう言うと男は少年の胸ぐらをつかんだ、


「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキ」


男はそう言うと少年に凄みをみせた、


「おまえが、マルス王子だとしても俺には関係ねぇ、こっちの言うことを聞かないなら痛めつけるくらいはできるんだぞ!」


それに対してザックが憤った、


「お母さんに言いつけるぞ、動物虐待だって!」


ザックがそう言うと男は急にその手を緩めた。その表情は実にいやらしい、


「母さん、か……ククク」


男は下卑しい笑いをみせた、


「お前の母ちゃんはとんだ女だよ……」


男はそう言うと人間性を欠いた表情を見せた、


「目的のためには手段をえらばねぇ……」


それに対して少年が吠えた、


「何のことだ!!」


少年が言い返すと男は笑った、



「誰とでも寝るんだよ、お前の母親は」



男はそう言うとたからかに笑った、不遜の極みである。


「ちくしょう!」


 少年はそう言って男に飛びかかったが、うまく男にいなされて転倒した。無様な姿に男は手をたたいて喜んだ。


「わり、わりぃ、言い過ぎだったかな」


男は続けた、



「だけどよ~、ほんとの話だからな~」



男はそう言い捨てると工房をそそくさと出て行った。


ザック少年は男が出て行くと悔しさのあまりに泣き出した、なんともいえぬ哀れな姿である。


                                 *


 ジョージはザック達のやりとりを一部始終見ていたが、少年の泣く姿よりも、その耳に届いた思わぬ単語に腰を抜かしそうになっていた。


「あのザックという少年がマルス王子……どういうことだ……」


ジョージは想定外の展開に言葉をなくす


「もしあの少年がマルス王子だとしたら、ムラキの連れてきたあの女は三ノ妃様なのか……まさか……」


 だがその一方、ジョージはムラキの手腕、特に枢密院を巻き込んでバッハから許認可を認めさせたことは記憶に当たらしい……


「……どうなっているんだ……」


ジョージの足は震えている……


「大丈夫なのか……」


 一抹の不安がかすめる、ジョージの脳裏でうまくいきすぎている現状と目の前にした出来事が交錯する。


「ムラキ……アイツは一体……何を考えているんだ」


                                 *


一方、ザックに対して罵倒を浴びせた男であるが……


『ムラキさんからの指令はまだ出ていない……すこしの間はある。』


男はそう思うと地図を拡げた、


『女と遊ぶか……それとも……』


男は近くにある街を物色した、


『あまり遠くには行けねぇ……となると、ここだな』


男が選んだのは港町である、


『ポルカにカジノがある……ちょっと遊んでみるか』


男はそう思うとごろつきの表情から富裕な商人のそれへと一変させた。




ジョージズトランスポーテーションの社長であるジョージは工房に現れたザックがマルス皇子だと気付きました、さらにはザックの母が三ノ妃であると……その内心は尋常ではないようです。


一方、ザックを拉致してきた富裕な商人はなにやら別の考えを持ったようです。さて、この先どうなるのでしょうか?

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