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第十八話

東京は雨ばかりです……これもう梅雨じゃないの……

ザック捜索は思いのほかうまくいかなかった、全く手がかりが見つからなかったのである。捜索を終えた三人は再び肉屋の食堂に集まると意気消沈して状況を報告した。


「まるで神隠しだ……」


ベアーは思わずつぶやいたが実際その通りであった。


「配達先は三件、どこにも行ってない……顔を見た人もいない。ザックは小太りであばた顔だから、不細工キャラだし……誰か気づいてもおかしくないのに」


ルナは肉屋のオヤジが出してくれたソーセージを頬張りながら続けた、


「突然、消えたって感じよね」


レオナルド13世がそれに続いた、


「プロの奴らが拉致したみたいだな……」


レオナルド13世がそう言うとベアーが思い出したかのように発言した、


「そういえばさ、前にザックと分かれるときに……あいつ本当の名前はマルスって言ってたよな」


ルナが即答した、


「そういえば、改名したようなこと言っていたわね」


 かつてのことを思い起こした二人に対してベーコンをフォークに突き刺したレオナルド13世が顔を上げた、


「マルスは貴族の名前だ……それも高貴な」


ルナの顔色が変わる、


「……えっ……」


二人の表情は怪しげである、


「マルスって……たしか落馬でなくなった皇子の名前よね……」


ルナがそう言うとベアーが口を開いた、


「いや、もう死んでるから関係ない……と……思う」


それに対してレオナルド13世が微妙な表情を浮かべた、


「これだけ捜索してもザックの手がかりさえ見つからなかった、もちろん死んだという情報もない……」


レオナルド13世は怪しんだ、


「ザックはもしかして拉致されたんじゃ……」


ベアーとルナの顔に緊張がはしる、



「誰かがザックがマルス皇子だと気づいて……拉致したってこと?」



ルナがつぶやくとレオナルド13世がその眼を細めた、



「……あるやもしれんな……」



三人は大きな疑問にぶち当たった、それはダリスという国の未来を差配するかのような疑問である。


 ベアーはザックがマルスであるという説に半信半疑であったが、かつてザックと分かれたときにみせたロバの真摯な表情を思い出した。不細工な少年に向かって器用に敬礼する仕草をみせたことは記憶に新しい。



「……ひょっとして……」



そう思ったベアーは外に出てロバに確認しようと試みた、



だが、



「いない……あいつ……いない」



なんとロバもいなくなっていたのである。



さて、その頃


ザックは眼を冷ました──幌馬車の中である。


『あれ、なんでこんな所にいるんだ……』


ザックはハムとソーセージを配達する予定であった、だがその途中で気を失ったのである。


『どうしてこうなったんだ……』


ザックは妙な思いに駆られたが、そんな思いを断ち切るようにして声が掛けられた。


「坊主、目が覚めたか?」


 声を掛けてきたのは人相の悪い男である。高級な被服を身につけた富裕な商人に見えるが明らかに一般人とは異なる雰囲気を醸していた、


ザックが驚いて後ずさると男が嗤った、


「どんくさそうだな、お前」


ザックはしどろもどろになった、


「心配すんなって、痛めつけるつもりはねぇよ。」


男はザックに近寄ると身なりを見た、


「風呂に入れねぇときたねぇな……後、その格好もな」


男は御者に声をかけた、


「このあたりの大衆浴場、いや、少々高くてもいいから風呂屋につれていけ」


男はドスの利いた声で御者に命令するとザックを見た。


「逃げようなんて思うなよ」


ザックににらみを利かせた男は嗤った、


『こいつがマルス皇子だなんて……誰も気づかねぇだろうな……フフ』


おびえるザックをよそに男はこれからのことを考えた、


『お頭もとんでもないことを思いつくもんだ……』


男は『頭』の計画に表情を変えた、


『アナベルに裏切られて万事休すかと思ったが、そのアナベルを誅殺。さらには手にしていたルビーを資本として新しいビジネスを始める。それも足がつかないように投資という形をとって……』


男は小さくなったザックを見た、


『こいつが計画の鍵か……』


人相の悪い男はほくそ笑んだ。


                                *


 ザックが連れて行かれたのはサングースの中心から1時間ほど離れた浴場であった。距離の離れた温泉が個別に用意されているVIP御用達の店である。富裕な商人や貴族たちが愛人との逢い引きに使うことでも有名なところだ。


                               *


ザックは全裸にされてクビ元を捕まれると湯船に蹴り落とされた。


「けつの穴まできれいに洗っとけよ!」


言われたザックは泣きそうな顔で体を洗い始めた、男の醸す雰囲気に気圧されたためである。


『何で、こんな目に遭うんだ……僕は何もしてないぞ……』


 そうは思ったものの、現実は厳しい……殴られるのを回避するためにザックは言われたとおりに体を洗った。


「30分で済ませろ、馬車に遅れるからな!」


男はそう言い捨てるとザックを見た。


「このあと、お前の会いたい人に合わせてやる」


男は意味深に嗤うと一服するためにその場から離れた。



10

ザックは泣きながら体を洗っていた、自分のおかれた現状が理解できないためにどうしていいのかわからない。


「……店に帰りたい……」


ザックが涙ながらに石けんを泡立てた、


「……僕が何をしたって言うんだ……」


サックはその身をこわばらせた、


そんなときである、20mほど離れた所から声が聞こえてきた……その声は明るく弾むようである。


「僕はこんなに困っているのに……なんであっちはあんなに愉しそうなんだ」


ザックがそんな風に思ったときである、その耳に会話の内容が聞こえてきた、


                                 *


『やだ~、もう』


『駄目だって……』


声の主は二人いるようである、両方とも女性とおもえる


『ちょっと、そんなとこ見ないでよ』


『もう、肘なんて舐めないで~』


二人の声は愉しげである、明らかに楽しんでいる、ザックは妙な気分になった


『お尻は駄目だって』


『もう、このロバ……ほんとに……胸ばっかり見てくる』


 二人の娘はキャッキャッしているが、ザックは娘達の発したロバという単語に雷に打たれたような衝撃を覚えた、



『……もしかして……』



 そう思ったザックは矢も立てもたまらなくなった、石けんを洗い落とすことなく娘達のいる岩風呂に走った、



そして、



 そこには不細工なロバがいるではないか……泰然としてふてぶてしい。その様はかつてザックを救ったロバ以外の何物でもない。巧みに股間をみせないようにしている。



「……師匠……」



ザックがそう言うや否やであった二人の女が声を荒げた、



「きゃあ!! のぞきよ、ちかんよ!!」


「デバガメのデブよ!!」



 一人が間髪入れずに桶をなげた、桶は見事な軌道を描くと正確にザックの顔面にぶち当たった。ザックは昏倒したが、その倒れぎわにその眼に映ったのは桶を投げた亜人の女である。



『……中年の亜人、おばさんじゃないか……それも二人……師匠、ニャンニャンのハードルが高すぎる……』



ザックは素朴な思いが浮かんだが、そのまま気を失った。


                                *


ロバは倒れたザックに近寄るために湯船から上がった、


 実のところロバはベアー達と離れると、己の欲望を満たすべく岩風呂のある温泉に来ていた。そしてそこで47歳と52歳の掃除婦をみつけると、彼女たちの休憩中にしっぽりしけ込もうとしていたのである……


だが……なんとそこに全裸のザックが現れたのだ……



ロバは昏倒しているザックに近寄るとヤレヤレとおもった。


だがその耳に何やら不穏な音が響いてきた、ロバはザックから素早く離れた、


『何で、こんなところで倒れてんだ、クソガキ!』


そう言ったのはザックを拉致した男である、その額には青筋が浮かんでいる、



「面倒掛けやがって、」



男はそう言うと全裸のザックを抱えようとした


「重てぇなぁ、このデブ!!」


 男はザックが重いために運搬することができなかった。おまけに脂肪の隙間に石けんがついているためにヌルヌルして抱えられない……


そんなときである、男の目にロバが映った。



「ちょうどいいな、こいつで運ぶか」



男はそう思いつくとロバの手綱をつかんで引き寄せるとその背にザックを乗せた、



「目的地までよろしくな」



男はそう言うとロバのけつをけった、


 ロバは一瞬不快な表情を浮かべたが、男の持つ不道徳なオーラを読み取るとザックを背覆って歩き出した。




ベアー達はいなくなったザックを探しましたがその手がかりさえありませんでした。なんとザックは富裕な姿の商人に拉致されていたのです。


ですが、おもわぬ場所でザックはロバと再会します。


はたして物語はこのあといかに?

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