第十三話
明けましておめでとうございます!
読者の皆様の一年がよい年でありますように!そして作者の痔が出血しませんように!!
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衝撃的な結末を迎えたマーベリックとバイロンであるが──気を取り直した二人は病院にいるヨシュアのもとを訪れていた。ことの顛末を伝えた方がいいと考えたからである。
*
爽やかな風が窓から入ってくる、ヨシュアの怪我の具合はだいぶよくなっているようで退院の日取りも決まっていた。
「とんでもない事件になりましたね……」
マーベリックが審問の様子を語るとヨシュアはうなだれた、
「副隊長が投資に失敗して、その穴埋めにあの金貨を使っていたなんて……金貨強奪事件が狂言だったなんて……」
事案の顛末を話したマーベリックが反応した、
「そうだ、だが副隊長はそそのかされていたんだ。」
マーベリックは続けた、
「副隊長は鉄仮面により砦を急襲された事件の被害で胸を痛めていた。三ノ妃を拉致されるという大きな失態があったため被害に遭った隊員達には十分な補償が与えられなかった。当然、被害に遭った隊員達の暮らしに関してはなおざりになっている。カタワにされた隊員達とその家族がどうやってこの先を生きていくか……副隊長は考えあぐねていたんだ」
ヨシュアがそれに答えた、
「……それで倉庫に保管されていた金貨に手を付けてしまったんですね。」
マーベリックは頷いた、
「その通りだ。隊員の家族の未来を考えた副隊長は大きな金額を欲した。そして投資という金融取引に手を出したんだ。ホームズの口車に乗ってな……」
マーベリックは続けた、
「ホームズは株取引を副隊長にすすめたそうだ、最初は現物とよばれる取引で損失が大きくならないようにコントロールしていた」
マーベリックの表情が変わった、
「だが、相場は生き物だ。思った通りに動くわけではない。さらには近衛隊の預かった金貨を第四宮をかまして共同管理するという旨が告げられた。すなわち流用していた金貨を元に戻さねばならなくなったんだ」
ヨシュアの表情が変わる……
「タイムリミットまでに流用していた金貨を全額用意せねばならなくなった。焦った副隊長はホームズの指示を受けて勝負に出た。」
ヨシュアが青い顔でこぼした
「……失敗したんですね……」
マーベリックは頷いた、
「そうだ、そしてその失敗を取り戻そうとして空売りという取引に手を出したそうだ」
ヨシュアは沈黙した、すでに結果はわかっている
「空売りも失敗、投下した金貨はとけてしまった……あとは転落するだけだった……負けた金額を取り戻そうとしてさらなる深みに……」
マーベリックがそう言うとバイロンが続いた、
「最後は第四宮のアナザーウォレットの資金を流用しようと執事長に持ちかけるまでになってしまったの……」
ヨシュアの顔色はすこぶる悪い……だが、なんとか反論しようと試みた、
「副隊長をはめたホームズの責任はどうなんですか、枢密院だって何か関わりがあるんじゃないですか、すくなくとも監督責任はあるでしょ!」
至極当然のことをホームズが述べるとそれに対してバイロンが答えた、
「……審問官のホームズは自殺したの……私たちの目の前で3階から飛び降りたわ……」
ヨシュアの顔が歪む──驚愕の事実に声が出ない
「空売りをけしかけたホームズは自殺……枢密院の監督責任までは及ばなかった。真相は闇の中だ」
「……そんな……」
ヨシュアはそうこぼすと肩をふるわせた、
「先輩たちは、どうなるんですか……四人の先輩たちは……」
それに対してマーベリックが答えた、
「副隊長に協力して金貨強奪事件をねつ造したことは否めない。隊員の家族を思った行為だとしても許されざる行為だ──退職は免れん」
マーベリックの物言いは辛辣である。
「それぞれにそれぞれの立場というものがある。だが、それをはき違えれば、たとえ善意があったとしても罪でしかない。お前の先輩たちは一線を越えてしまったんだ」
言われたヨシュアはうなだれた、その様はなんともいえない……隊員達を助けようとした自分の捜索が副隊長の闇を暴く契機となってしまったのである。
その思いが胸に去来すると、若き近衛隊の青年のまぶたから熱いものがこぼれた。
面倒を見てもらった先輩たちを助けようと奔走したことで得られた真実は実につらいものである。
「……俺のせいなのか……」
自問自答するヨシュアを気の毒に思ったバイロンが声を掛けようとするとマーベリックがそれを制した。慰めの言葉に意味が無いとわかっていたからだ。
「ヨシュア、強くなれ!」
マーベリックは続けた、
「武勲をたてて信頼を勝ち取れ、そうすれば未来は自ずと開けるはずだ」
マーベリックはそう言い残すとバイロンの手を引いてヨシュアの元を離れた、
病室を出るや否やであった、マーベリックたちの耳に嗚咽が届いた──若き青年の慟哭である。
「……しょっぱいな……」
深き悲しみを背に受けたバイロンとマーベリックはその思いを受け止めることはできなかった。
だが、それこそが現実であった。
30
さて、その頃、枢密院のとある一室では……
「失敗かホームズ……」
そう漏らしたのは枢密院の最奥にある奥院とよばれる一室にいる人物である。
「だが、これでは金が……」
実のところ枢密院では資産運用に関して大きな穴を開けていた、
「事案が露見される心配はなくなったが、失われた金はもどってこない。予算成立までに損失を補填しなければ意味が無い」
その人物は腕を組んだ、
「こちらの投資した金額も近衛隊の金貨とともに露と消えた……」
その人物は歯がゆそうな表情を見せた、
「第四宮のアナザーウォレットの資金が手にできなかったことが思いのほかであった。アレを運用にかければ開いた穴など難なく塞がったはずだ……」
その人物はホームズに執事長であるマイラを懐柔するように命じていた。
「レイドルの犬がしゃしゃりでてくるとは……」
不愉快極まりない表情を見せた、
「だが、このままでは埒あかん。なんとか予算を捻出して……そうせねばこちらの身があやうい」
枢密院の特別予算はすでに『アナ』があいていた……
そんな時である、執務室のドアが突然にノックされた。
「お客様です」
秘書に言われたその人物はアポイントメントの無い来客に不快な態度を浮かべたが、部屋に入ってきた人物の名刺を見るとなんともいえない表情をみせた。
『ジョージズトランスポーテーション……たしか、蒸気機関とやらを発明したとか』
その人物の前に立った男はにこやかに嗤った。
「ムラキと申します。許認可に関して陳情ございまして、是非あなた様のお力がお借りしたい」
品のいいビジネスマンの様相をみせたムラキは持っていた革の鞄を開けた。
「これは、お近づきの印でございます」
鞄の中身をみせられた人物はフフッと嗤った
『かぜがふいていきた、チャンス到来だ!』
執務机に座った人物はジョージズトランスポーテーションの名刺を持つムラキを見るとにこやかに嗤った。
─続く─
15章の前半に出てきた蒸気機関とその発明者であるジョージを応援したムラキでありますが、なんと最後の最後に枢密院に忽然として現れました。
いままで触れておりませんでしたが……実は15章はまだ続くのです(短編で終わると作者が述べたのですが……あれは……あれは嘘です……)
後編は視点を変えてジョージズトランスポーテーションと蒸気機関に焦点を当てて物語を展開したいと思います。(登場人物が変わりますよ)
最後に、ここまで読んでくださった読者の方、ありがとうございました! 15章の後編は四月頃から始められると思いますが、ゆるゆるとまっていただければ幸いです。
では、皆様、よいお年を!




